ヤマトが導入した日本初の「ドイツ製EV車」の哀しきいま | FRIDAYデジタル

ヤマトが導入した日本初の「ドイツ製EV車」の哀しきいま

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神奈川県内の営業所。充電もされず駐車場にひっそり置かれていた(2021年1月 加藤博人撮影)
神奈川県内の営業所。充電もされず駐車場にひっそり置かれていた(2021年1月 加藤博人撮影)

ヤマト運輸は約2年前の2019年11月、日本で初めて宅配に特化した小型商用EV(電気自動車)トラックの導入(東京・神奈川・千葉・埼玉)を発表し、2020年1月から首都圏各地の営業所に配備され運用が始まった。

CO2削減や住宅街での騒音低減など環境面に配慮し、さらにドライバーの立場に立った設計にしたクルマを、ドイツポストDHLグループ傘下にあるストリートスクーター社とともに共同開発していた。

しかし、日本自動車輸入組合の統計情報によると新規登録が今年4月以降「ゼロ」が続いていたことが判明。同業他社に先駆けて海外メーカーと2年もの時間を掛けて共同開発したEV配送車両を導入し、大きな注目を集めながらも本格運用から1年ちょっとで「終了」した真相を追った。

「運送業界における先駆け」として発表したが…

ヤマト運輸に納入された小型商用EVは発表当初、注目を集めた。荷室部分を最大限に活用するため、全幅の外寸は2mを超え、幅広の設計だが、全高は2.1m以下なのでビルやマンション等の地下駐車場にも余裕で入れる利点があった。

また、ヤマト運輸で集配を担当する女性ドライバーは全体の約30%。増加傾向にある女性ドライバーの使用を考慮して、荷台の位置を低めにするなど荷物の出し入れがしやすいような改良も施されている。普通免許で運転できることからも人手不足が深刻な宅配業界において、女性ドライバーの増加にも貢献が期待されていた。

しかし、実際に乗った現場ドライバーの声は必ずしも芳しいものではなかった。

「とにかく故障が多かった印象。配送途中にとまってしまう。配達スケジュールに大きな影響を及ぼします」

「夏の間は主に夜間に使っている。故障して止まっていても目立たない」

「うちの営業所には納入されていないが、何か月も使用されず充電もされず、近隣の営業所には充電器の前で長い間動かされていない車両もある」

「小回りが利くという触れ込みだったが、幅が2M超とあって狭い道路では苦労している」

「無駄にボンネットが長く、積載量は期待したほどではない。2年もかけて共同開発をしたのに、なぜこれが導入されたのか?使い勝手が悪すぎる」

EVの場合はガソリン車やハイブリッド車と違って車両だけ導入すればというというわけではなく、専用の充電器とセットでの導入になるのが一般的だ。当然のことながら、ヤマトでもストリートスクーター用の充電器を約100か所の営業所に設置している。1台700万円を超えると言われ、充電器を含めた導入コストは500台で40億円と発表されていた。

しかし、佐川急便(約7000台)やSBSホールディング(約1万台)などの大手運送業者が今年春以降、ファブレス方式で中国製造のEV配送車両の導入を発表するなど、運送業界でも急速なEV化が進んでいる。輸入EV配送車両の導入に、一歩先んじていたヤマトとして、車両が優秀であれば500台終了後も引き続き納入することもできたであろう。

ヤマト用に開発されたトヨタ・クイックデリバリー

街でよく見かける配達車両のトヨタ・クイックデリバリーは2016年に生産終了。2年前に導入したストリートスクーターと積載量の違いは大きい(撮影:加藤久美子)
街でよく見かける配達車両のトヨタ・クイックデリバリーは2016年に生産終了。2年前に導入したストリートスクーターと積載量の違いは大きい(撮影:加藤久美子)

ヤマトと共同開発した会社の「売却報道」

ヤマト運輸広報担当者に納入終了の理由やドライバーからの声、実際の運用状況などについていくつかの質問を投げかけてみた。多くは明らかにされなかったが、貴重な情報も得ることができた。

「本格導入から間もない2020年3月はじめの頃には製造を中止すると発表されましたので、最初の500台で輸入を終了することになりました」

「2030年までに5000台をEVに代えていく目標は変わりません。ストリートスクーターは500台で終わりましたが、その後の新しい車両について決まりましたらお伝えします」

なんと、2020年1月の運用開始からわずか2か月少々でストリートスクーターの生産中止が決まっていたとのことである。共同開発に2年もの月日をかけたのに…。こんなことがあるのか?商用EVの事情に詳しい複数の業界関係者に聞いてみた。

「最初にニュースを見た時から『作りが粗いな』と言う印象を受けていた。ヤマトの配達車両は専用開発のトヨタ・クイックデリバリー(街で良くみる宅急便のクルマ)がおなじみだったが、それに置き換わる形でストリートスクーターが導入された。

しかし、ストリートスクーターの積載量ではクイックデリバリーに及ばず、狭い道路の取り回しもいまいち。長いボンネットを持つ形状なので、配達車両としては非常に無駄が多い。日産のワンボックスEV(e-NV200)や中国製造の商用EVの方が圧倒的に安く、使い勝手もよさそうだ」(運送会社車両メンテナンス社員)

「何よりコスパが悪すぎる。箱にSUVの頭をくっつけてモータとインバータを載せただけ? 大目に見て300万なら分からなくもないが、700万円overは高すぎる印象。荷室は全長の半分以下。2022年秋に佐川急便が導入予定の『G050』の方が圧倒的に価格面も完成度も競争力がある」(自動車メーカー商用車開発者)

「アピールポイントが①脱炭素 ②ドライバーの使いやすさ(乗り降りのしやすさ、キーレスエントリー、地上高の最適化、マルチビューモニター)ぐらいしか無かったことの裏返しでは?共同開発というよりも『不良債権』を押し付けられたのでは…という印象です」(国内輸送機器メーカー広報)

上記の「不良債権」という言葉は決して比喩ではなかった。10月上旬、ドイツのDieWelt新聞はストリートスクーター社の親会社であるドイツポストがストリートスクーターの生産権をルクセンブルグに本社がある『オーディンオートモーティブ』(2021年9月設立)に売却する意向があることを報道した。別の欧州経済紙にはストリートスクーター社は2020年から売却先を探していたことも書かれている。

ヤマトは筆者の取材に対し、「記者発表からわずか4か月後に生産中止のお知らせがあった」と明かしている。つまり、2019年11月に記者発表した時点で、ドイツの会社の経営は不透明で量産体制および、現場の声を反映させて修正する体制は整っていなかったのでは…と考えられる。

わずか500台で終了とは驚いたが、むしろ500台で済んで「損傷」を最小限に抑えられたと考えるべきなのかもしれない。佐川が200万円前後に価格を抑え、さらに他のライバル社が安くて性能がいいEV車導入を進める中、ヤマトがどう巻き返しを図るのか。老舗の意地が問われている。

夜間の使用が主体だった。走行音が静かなことで重宝された面もあったが…(撮影:加藤博人)
夜間の使用が主体だった。走行音が静かなことで重宝された面もあったが…(撮影:加藤博人)
ストリートスクーターの導入によって女性ドライバーの増加も期待されていた(写真:ヤマトホールディングス提供)
ストリートスクーターの導入によって女性ドライバーの増加も期待されていた(写真:ヤマトホールディングス提供)
ストリートスクーター用の充電器は約100か所の営業所に設置されている(写真提供:ヤマトホールディングス)
ストリートスクーター用の充電器は約100か所の営業所に設置されている(写真提供:ヤマトホールディングス)
  • 取材・文加藤久美子撮影加藤博人

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