監督を直撃!「最凶トラウマ映画が日本上陸できた意外すぎる理由」 | FRIDAYデジタル

監督を直撃!「最凶トラウマ映画が日本上陸できた意外すぎる理由」

ギャスパー・ノエ監督インタビュー

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ギャスパー・ノエ(57)という映画監督をご存知だろうか。作風をひとことで表すならば「悪夢」。一度見たら脳裏に焼き付いて決して忘れることのできないエログロ映画を得意とする“世界で最も過激な映画監督”と呼んでも差し支えないだろう。

そんな奇才が2001年に世に放ち、「歴史に残るトラウマ映画」と世界中で絶賛(?)された『アレックス』が再編集され、『アレックス STRAIGHT CUT』として10月29日から日本で公開されることとなった。

『アレックス』は2002年の公開当時、映画祭や劇場で席を立つ人が続出した。1番の理由は、あまりにも暴力的で残酷な9分間にも及ぶ長回しのレイプシーンだ。主人公のアレックスを演じたモニカ・ベルッチ(57)はイタリアの至宝と呼ばれるほどの大女優。当時、本物のパートナー同士だったヴァンサン・カッセル(54)(フランス一のセクシー男の名を持つ)との共演ということで話題になったのだが、物語を「終わりから始める」という奇抜な編集方法にも注目が集まった。映画史上におけるまぎれもない問題児だった。

(C) 2020 / STUDIOCANAL – Les Cinémas de la Zone – 120 Films. All rights reserved.

約20年という月日を経て『アレックス』は物語の時系列を元に戻した新しい映画『アレックス STRAIGHT CUT』として生まれ変わった。奇才はなぜ自身の作品を編集し直したのか?!

ギャスパー・ノエ本人を直撃した。

――どうしてストレートカット版を作ろうと思ったのですか?

遊び感覚で逆再生を作ったら面白いかもしれないと思ったんだ。オリジナルの逆再生版のほうが暴力的で、冷たく、実験映画というかアート映画としての意味合いが強かったよね。ところが、『アレックス STRAIGHT CUT』は観客が感情移入できる作品になって、とても驚いたよ。『アレックス』はヴァンサン・カッセルが主人公だったけど、『アレックス STRAIGHT CUT』はモニカに焦点が当たる。観客はみんな、彼女に感情移入する。同時にヴァンサンは主人公から「嫌なヤツ」になった。そして、アレックスの元カレのピエール(アルベール・デュポンテル)は、よりヒロイックな存在になった。キャラクターの行動への理解も変わった。

『アレックス』はモニカが登場するまでに時間がかかったけど、『アレックス STRAIGHT CUT』はモニカと子供のショットから始まる。前作が男性性――暴力、レイプなどの醜さから始まっていたことと真逆になった。だから、『アレックス STRAIGHT CUT』がヴェネツィア国際映画祭で上映されたとき、モニカは「これは男性によって作られたフェミニスト映画だ」と言ったんだ。フェミニスト映画かどうか僕にはわからないけど、この映画には男性性への恐れが現れている。この映画の男たちは、基本的にみんな獣のようで、男性ホルモンに支配されてしまっているんだ。

――『アレックス STRAIGHT CUT』は2021年のいまと親和性がありますね。

同時に、とても昔のことでもあるとも感じるよ。例えば、映画の中のレイシストやセクシストなどの描きかたは、現代で新しく撮ることは不可能だから。あと、20年前は誰も携帯を持っていなかったから、現代の映画としては不自然だっていうのもある。いまの映画は3分あればすぐ誰かが携帯を使うでしょ? 携帯があったら、モニカは事件の現場となるトンネルまで歩かず、タクシーを呼んでいるはずだしね。

作中では元カレが人を殺してしまうんだけど、『アレックス』では誰を殺してしまうのかがわかりづらかった。それはアメリカのチャールズ・ブロンソンの映画に出てくるような安直な復讐映画への批判でもあるんだけど……。

――男性性が正義を押し付けることへのアンチテーゼなんですね。映画の中で、ピエールが人を殺すのを見て犯人が喜びます。

ただ、現代ではそういう人間像の描きかたはできないよ。資金もプロデューサーも集まらないから、映画が作れないんだよね。だから、これはやはり違う時代の話だと思っている。日本の映画づくりの状況はどうなの?

(C) 2020 / STUDIOCANAL – Les Cinémas de la Zone – 120 Films. All rights reserved.

――日本でもモラルに反する表現や政治的なことを描くことは難しいですね。もちろん、抵抗している監督もいますが。

若松孝二監督のように自由な発想でものづくりをできたハチャメチャな時代はもう完全に終わってしまったんだね。映画づくりの面白さは、自分の人生と全然違う世界にいけることだと思わない? 戦争映画を作ることイコール自分が戦争することではないでしょ? 映画ではいろんなことを経験できる。ドキュメンタリーか、フィクションかなんて、どうでもいいんだよ。そういう世界を発見すること自体が映画づくりへの情熱になるから。

20年前に『アレックス』を作ったころは、映画づくり自体がとても楽しくて、本当に素晴らしい経験だった。幸せな映画とはいえないけど、撮影現場ではみんなとても楽しんでいたんだ。

『アレックス STRAIGHT CUT』はすぐに編集が終わってしまって、仕事をしたって実感がなかったんだ。1週間の再編集の期間、喜びと不思議な気持ちがずっと入り混じっていた。完成したら急に、目の前に18歳の子どもが現れたような感覚になったよ。『アレックス』が子供だとして、双子の片割れが存在していたのだと気付いたんだ。

前作と今作、どちらがいいとかそういうことではなく、『アレックス STRAIGHT CUT』を新作映画として誇りに思うよ。だからこそ、映画館で上映したいと思った。実際に観客のリアクションを確認してみて、これは新しい映画だと再認識したよ。いまはこの映画を新作として作ることは不可能だから、シンプルな方法で新作として作れて本当に良かった。

――『アレックス』に限らず、あなたの作品では妊婦がいつも苦しく悲惨な状況にあります。それはどういう意味が込められているのでしょう?

僕は、自分自身が父親になるのがすごく怖かったんだ。それと同時にすごく父親になりたいという欲求があった。だからそういう表現になったのかもしれない。恐怖と情熱はいつも同居している。夢と悪夢のようにね。僕の父と祖父はアルゼンチンから逃げてきたアーティストで、昔からずっと「父親になるならば世界で一番いい父親になれ」と言われ続けてきた。それがすごく怖かった。応えられるかわからずにプレッシャーだったんだ。

――ちなみに、監督作の主要な男性キャラクターがみんな坊主頭なのはなぜでしょう?

これは僕にまだ髪があったころの話なんだけどね……思い立って坊主にしてみて、それがすごく気に入ったんだ。これでももうハゲになることを心配しないで生きていけるってね!

(C) 2020 / STUDIOCANAL – Les Cinémas de la Zone – 120 Films. All rights reserved.

――笑。

10代の頃には、とにかくすごくハゲることが怖かった。人間というのはつくづく、ノイローゼの生き物だよね。『LOVE3D』(2015年)でカツラをつけた僕が出てくるんだけど、あのキャラクターはやな奴だし、アホっぽい見た目にしようと思ってさ。こいつはやめとけっていうことを表現するのが、僕にとってはカツラをかぶせるってことだったんだ。

―『アレックス STRAIGHT CUT』は日本でも公開されます。

コロナの影響でヴェネツィア映画祭から日本公開まで2年くらいかかってしまった。ようやく公開できることになってとても嬉しいよ。今回のほうが、多くの劇場でかけてもらえることになったしね。この20年間、たくさんの映画が公開されてどんどん忘れられていくなかで、新しい映画として公開できるのは本当にありがたいことだと思っているよ。

いまはblue-rayや配信もあるし、いろんな方法で映画を見ることができるから、ぜひ『アレックス』と比べてみてほしい。音楽アルバムみたいに、新しいリミックス版という感じでね。同じ物語だけどきっと新作として楽しめるはずだよ。

(C) 2020 / STUDIOCANAL – Les Cinémas de la Zone – 120 Films. All rights reserved.

『アレックス STRAIGHT CUT』
公式HP:alex-straight.jp 公式Twitter:@AlexStraightcut
10月29日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督・脚本・撮影・編集:ギャスパー・ノエ
出演:モニカ・ベルッチ ヴァンサン・カッセル アルベール・デュポンテル ジョー・ブレスティア
音楽:トーマ・バンガルテル
提供:キングレコード  配給:太秦 字幕:横井和子
【2020年/フランス/シネマスコープ/5.1ch/90分/DCP】

https://youtu.be/YnSAPK29mJA

 

  • 取材・文睡蓮みどり

    女優・文筆家。1987年横浜市出身。早稲田大学在学中にグラビアアイドルとしてデビューしたのち、映画を中心に女優として活動。「キネマ旬報」の外国映画星取りレビューを担当するほか図書新聞で「シネマの吐息」連載中。著作は『渇愛的偏愛映画論 溺れた女』(彩流社)がある。

  • 取材協力・翻訳トム・メス

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