人気スマホゲームが「片桐はいり主演ドラマ」に変化した意外なワケ | FRIDAYデジタル

人気スマホゲームが「片桐はいり主演ドラマ」に変化した意外なワケ

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異色のコラボが誕生したワケとは…?その背景に迫った
異色のコラボが誕生したワケとは…?その背景に迫った

「豊作揃い」と言われる今年の秋ドラマ。そのなかでも、放送開始から回を重ねるごとにじわじわと評判を呼び、ひそかなブームになっている作品がある。テレビ東京で毎週水曜日深夜1時から放送されている『東京放置食堂』だ。

片桐はいりが初主演を務めることで放送前から話題となっていたこのドラマは、東京・竹芝から船で1時間45分の伊豆大島が舞台だ。片桐演じる元裁判官の真野日名子が、人を裁くことに疲れ退官してやってきたこの島で静かに暮らし、島民と交流する日々が描かれている。

日名子が手伝う居酒屋「風待屋」には、さまざまな悩みや問題を抱えた客が島外からやってくるのだが、短い滞在期間に島の人々と触れ合う中で、自分の生き方を見つめ直し、重い荷物を下ろしたかのような表情でまた日常へと帰っていく。その人情味あふれる物語と、風待屋で出される「大島特有のグルメ」に、観ている視聴者は癒されるのだ。

片桐はいり演じる真野と工藤綾乃演じる小宮山渚の掛け合いが見どころのひとつ(提供:テレビ東京)
片桐はいり演じる真野と工藤綾乃演じる小宮山渚の掛け合いが見どころのひとつ(提供:テレビ東京)

原案は「くさや食堂」だった

テレビ東京で「居酒屋」「グルメ」と聞くと、ピンと来る人もいるかもしれない。そう、このドラマのプロデューサーの一人は、『孤独のグルメ』や『めしばな刑事タチバナ』などの話題作を手掛けた吉見健士氏だ。吉見氏に、『東京放置食堂』の魅力を尋ねた。

「『片桐さんの演技に癒される』『大島に行ってみたくなった』『風待屋で出てきたあの料理を食べてみたい』…ドラマを観た人からそういう感想をいただくたびに、本当に嬉しい気持ちになりますね。

最初にこのドラマのコンセプトを思いついたのは、くさやがきっかけでした。伊豆諸島の特産品で、強烈な臭いを放つ、あの干物です。

この作品を見た方ならお判りでしょうが、ドラマのなかではくさやが重要な役割を果たします。くさやって本当に不思議な食べ物で、多くの人は、その臭いを嫌って食べたことがない。でも、一度食べてみると鮮烈な臭いの裏側にある、醸成された旨味のとりこになるんです。

私自身がそうでした。頭をガツンと殴られるような、大袈裟に言えば食に対する考え方が変わるぐらいの衝撃を受ける。何かに悩んだり疲れた人がくさやを食べて、その衝撃で人生が変わる…そんな作品が作れないかと、常々考えていたんです。だから、最初は『くさや食堂』という名前のドラマを考えていました(笑)。

そんなことを思っているときに『島』を舞台にしたドラマを作れないか、という話が持ち上がった。いくつか候補地があったんですが、大島のくさやは有名です。大島を舞台にすれば、くさやをフックにして面白いドラマが作れるな、と。

喧騒とはほど遠い、都会から見れば『放置』されたような居酒屋を舞台にして、島外の人がその居酒屋を訪れる。そこで、くさやをはじめとする島の美味いものを食べながら島民と交流する中で、これまでにはなかった価値観を得てまた元居た場所へと帰っていく――そんな発想をもとに生まれたのが、『東京放置食堂』なんです。

長引くコロナで旅行にも行けないというなかで、ちょっと離れた島にショートトリップした気分になれる。それが、このドラマが支持されている理由かもしれませんね」

本作の監督を務めたアベラヒデノブ氏は、「大島という島に出逢えたことが、最大の幸運だった」と、作品の舞台・大島の魅力を語る。

「大島は、不思議な魅力を持った島なんです。大自然に囲まれていて、あらゆる食べ物が美味しいんだけれど、石垣島や佐渡島とは違って、特段目玉となるような観光地はない。東京から船で2時間弱かかるとはいっても、住所は東京ですから、方言が目立つような場所でもない。島民の方々はもちろん優しく接してくれるんですが、離島のように『よく来てくれた!』と訪れた人を大歓迎するわけでもない。大島に行くと、旅行に来たのにちょっと放置された気持ちになる。でも、その距離感が心地よいんです。

主人公の日名子は裁判官を退官してこの島に渡ってきたわけですが、島民は彼女の過去を無理に探るわけでもなく、ほどほどの距離感で彼女と接している。それが、日名子にとってはちょうどいいんです。そんな島の空気を、ドラマを通じて感じ取ってもらえたら嬉しいですね。

裏テーマは『飯テロ』ならぬ『有給休暇テロ』。この作品を観た人が、日々の忙しさや悩みから解放されたいと明日にでも有給休暇を取ってどこかに行きたくなる――実は、それがこのドラマの狙いなんです」

片桐はいり初主演。大島が舞台。『有給休暇テロ』なる新しいコンセプト…いくつものウリがあるこのドラマだが、もう一つ特記すべきことがある。それは、「スポンサー」の存在だ。

伊豆大島観光協会がスポンサーなら理解も早いが、C4 Connectという会社が運営するスマホゲーム『放置少女』が全面支援しているのだ。スマホゲーム」と「大島の居酒屋」は、普通の思考では結びつかないほどミスマッチ。そこには意外ともいえる狙いがあったのだ――。

テレ東だからこそ

『放置少女』は2017年3月にリリースされて以来、累計800万ダウンロードを突破した人気ゲーム。様々な時代に実在した武将や英雄たちが美少女キャラクターとなり、乱世を舞台に激しく戦う世界観が人気だが、ゲームをプレイしないでキャラクターを「放置」すればするほど経験値が溜まったり、装備が強くなったりという、従来のゲームとは逆張りの独特なシステムが注目を集めてきた。

…たしかに「放置」という言葉が入っているものの、なぜ『放置少女』から「スマホゲーム」とも「美少女キャラ」とも無関係な『東京放置食堂』が誕生したのか?

この謎について、テレビ東京配信ビジネス部で、同ドラマのプロデューサーの寺原洋平氏が明かす。

「このドラマと『放置少女』のどこにつながりがあるのか、不思議に思われるのは当然ですよね。いうまでもなく、物語や世界観については、両者の関係はありません(笑)。

テレビ東京はこれまで『孤独のグルメ』や日本全国のサウナを舞台にした『サ道』、また、バッティングセンターでの人間模様を描く『八月の夜はバッティングセンターで。』といった、ちょっと変わったライフスタイル系の深夜ドラマを手掛けてきました。

その狙いは、仕事や日々の生活に疲れた人たちに、『頑張って働いた後には、ちょっと休んだっていいんだよ』と呼び掛け、ある種の癒しを与えることにありました。『孤独のグルメ』では『孤食』という概念を、『サ道』では『ととのう』という感覚を視聴者の方々に示し、がむしゃらに働くこととは別の、新たな価値観やライフスタイルを提供できたという手ごたえを感じていました。

そうした独自色のあるドラマを手掛けていく中で、吉見さんと、島を舞台にした作品が出来ないかと話をしていて。先ほど吉見さんが『くさや』についてお話しされましたが、私たちが普段あまり食べることのない物を作中に登場させたり、あまり訪れる機会がなかった島を舞台にしたドラマを作ることで、『孤独のグルメ』や『サ道』とはまた違った、新たな世界観を創ることができるんじゃないか、と考えたんです。

そんな作品をつくることが出来たら面白いなと思っていたところ、『放置少女』を運営しているC4 Connectさんから、『放置』をテーマにドラマを作ってほしいという提案があったんです」

『孤独のグルメ』や『サ道』が大ヒットする中で、テレビ東京には「新しいサービスや商品の魅力を、ライフスタイル系のドラマとコラボレーションすることで伝えられないか」という提案が増えているという。『放置少女』もその一つだった。

C4 Connectの担当者が、テレビ東京とのコラボが実現した舞台裏を明かす。

「『放置少女』は、忙しい日々を送り、遊びのために使う時間が限られた人たちにも楽しんでいただけるゲームです。最大の特徴は、バトルや育成に時間をかけずとも、キャラクターたちが強くなるというシステム。従来のゲームでは戦闘やレベルアップにゲームの面白さを置いていたと思うのですが、一方でレベルアップにいそしむ時間がないという人たちにとっては敷居が高かった。

『放置少女』はゲームにおける御法度を逆手にとって、いままで時間がなくてゲームができなかったという人にも遊んでもらいたい――という想いで開発されました。発想の転換によって生まれたゲームなんです。

幸い、多くのユーザーからの支持をいただいていますが、このゲームをより広く知ってもらうために、地上波で、なにかインパクトのあるコラボレーションが出来ないかと考えていました。その中で浮かび上がったのが、テレビ東京さんでのドラマ化でした。

テレビ東京さんが良質な番組を作ってこられたのは言うまでもありませんが、そのなかには逆張りの発想でヒットしたものが数多くあります。そこが、『放置少女』とマッチすると思ったんです」

テレビ東京の寺原氏が『放置少女』サイドにどのような作品を求めているのかを尋ねると、

「放置という言葉はネガティブな意味合いで取られがちだが、『放置少女』はキャラクターを放置すればするほど強くなるという、放置という概念をポジティブなものとしてとらえ直したゲーム。このゲームの魅力をもっと多くの人に伝えていきたいので、『放置』を再定義するようなドラマを作ってほしい

という要望が伝えられたという。きわめて困難なオーダーにも聞こえるが、偶然か運命か、彼らはすでに、放置をポジティブにとらえるための「核」となるアイデアを持っていた――。

「まさに、私たちが考えていた『島の物語』と『放置』のコンセプトが合致すると思ったんです。島って、ある意味で都会の喧騒からは放置されている場所ですが、そこで生きる人々、そこを訪れる人々は、にぎわいから離れた場所に自分を放置することで、都会では得られない強さを身に付けている。これは、放置するほど強くなるという『放置少女』のコンセプトにも通じるところがあるんじゃないかと。

ちょっと強引かな、とも思いましたが、これまで温めていた構想と『放置』を結び付けるアイデアを先方に伝えると、こちらが驚くぐらいにすんなりと賛同してくださった。こうして、大島の居酒屋を訪れた人が、島民との交流を通じて人としてちょっとだけ強くなる物語…『東京放置食堂』のコンセプトが完成したんです」

「放置」という概念をとらえ直す。そのコンセプトが、ドラマとスマホゲームの新たな形のコラボを生んだ
「放置」という概念をとらえ直す。そのコンセプトが、ドラマとスマホゲームの新たな形のコラボを生んだ

自分を放置するという選択

「放置」という言葉を前向きにとらえられるような作品を作る――一聴すると無茶とも思えるこのコンセプト。アベラ監督は、初めて聞いた時どう思ったのか。本音を聞いてみた。

「最初はちょっと悩みましたよね(笑)。『放置プレイ』『放置された建物』…放置という言葉を使うとき、やっぱりそこにネガティブな意味合いが生じますから。それを前向きな意味でとらえ直すことができるのかな、と。でも、本当にネガティブな意味だけなんだろうかと考え抜くと、この言葉がまったく違った側面を持っていることに気づきました。

ネットが発達したことで、人間関係はますます密になっています。仕事の連絡も、いまの時代は四六時中飛んでくる。常にだれかと関わっていられる楽しさがあったり、仕事の効率化が進む反面、そのスピード感に疲れてしまっている自分がいるのも事実です。そんななかで、ふと『俺のことは放置して (放っておいて)くれよ…』という願望が、心の底から湧き上がってくる。

一時的に自分を日々の忙しさから遮断する環境をつくって、自分を見つめ直す時間を取り戻すことも必要なんじゃないか――それを『放置』と呼ぶならば、放置って、とてもポジティブな意味合いがあるな、と。それに気づいたとき、『東京放置食堂』は、まさに放置の意味をとらえ直すためのドラマになるな、と思ったんです」

振り返ってみれば、「孤独」という言葉も、『孤独のグルメ』以前と以後ではその受け止め方がまったく変わっている。従来、「孤独」とは一人きり、寂しさ、誰にも相手にされない悲しさを表す言葉だった。ところが、いまでは「お一人様」は当たり前になり、カウンターで一人酒を飲みながら食事をする姿に憧れさえ抱いてしまうほど、「孤独」の意味合いは変化している。吉見プロデューサーが振り返る。

「おこがましいかもしれませんが、『孤独のグルメ』は孤独の概念を変えた作品だと思います。仕事を終えたサラリーマンが、ようやく一人きりになって、自分が美味しいと思う料理と酒を味わう。それが本人にとっては至福の瞬間であり、自分と向き合う時間となる。そう考えれば、孤独はとても贅沢な概念に変わるんです。

『放置』も同じだと思います。そんなにネガティブにとらえなくていい。みんな、心の中では時には人と少し距離をとったり、じっくり物事を考える時間が欲しいと思っている。少しだけ自分を、静かで誰にも邪魔されない環境に置く。それが『放置』なんです。『東京放置食堂』は、その魅力を存分に描いた作品になっています」

寺原氏も、このドラマを通じて「孤独」や「ととのう」といった概念に続いて、「自分を放置する」という考え方が定着してほしいというが、たしかにドラマを観ていると、自分を放置してみたくなる。では、一番手っ取り早く自分を放置する方法は?アベラ監督に尋ねてみた。

「その答えは本当に簡単で、とにかく、一度大島に行ってみることですよ(笑)。大自然と島のグルメを味わいながら、都会とは別の空間を味わう。忙しい日々の中で忘れていたなにかを思い出して、また強くなって日常に戻ることができるはずです。

いまは、飛行機に乗っていてもWi-Fiが通じる時代です。連絡や情報から逃れられる空間がほとんどなくなっているなか、大島のなかには携帯の電波が『圏外』になる場所があります。気持ちの上ではもちろんのこと、物理的にも自分を放置することができる。情報から遮断されると一瞬不安になりますが、誰ともつながっていないその感覚が、ちょっと心地いいなと思うようになるはず。これは、『ととのう』に似ている感覚かもしれませんね(笑)。

撮影スタッフのなかにも、『この仕事が終わったら、また大島に行きたい。一日だけでもいいから…!』という人が続出しています。東京から1時間45分で行ける、本当に素敵な空間なんですよ、大島は」

「放置」という言葉の概念をとらえ直す――そんな壮大な試みが、この癒しのドラマの中にあったとは……。

『東京放置食堂』は、数々の作品を通じて新たな価値観を提示してきたテレビ東京の試みと、『放置少女』を運営するC4 Connectの柔軟な姿勢がマッチして生まれた作品だったのだ。一見結びつきそうにないものが、あるキーワードをもとに結合する。そんな「新時代のコラボレーション」の形を示していることが、このドラマの最大の魅力…なのかもしれない。

さて、物語はいよいよクライマックスへ。主人公の日名子を中心に、「風待屋」に関わった人々は「放置」の先に何を見出すのだろうか。

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