「選挙に勝ったので」岸田政権が描く「ちゃっかり増税」シナリオ | FRIDAYデジタル

「選挙に勝ったので」岸田政権が描く「ちゃっかり増税」シナリオ

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コロナ禍に苦しむ日本経済、そして国民。岸田文雄首相は当面の消費税率引き上げや金融所得課税の強化を否定し、大規模な経済対策を講じるとの安心感を与えてみせ、選挙では薄氷の勝利を収めた。その勝利を背景に、いま政府内では「まさかの増税シナリオ」が進行中だとの話が聞こえてきた。

その仰天プランの内幕を暴く。

新しい時代、とは…(AFLO)
新しい時代、とは…(AFLO)

10月4日の首相就任後、自らが所信表明演説で掲げた「車座対話」の実行に向け、東日本大震災の被災地や病院、居酒屋などを精力的に訪問している岸田氏。内閣支持率は低調な船出といえるものの、首相官邸にこもることなく各地に赴く姿勢に好感を抱く人々も多い。

だが、新しい指揮官を迎えた霞が関官僚の胸中は複雑だ。その理由は新首相がもつ「曖昧さ」「玉虫色」にある。

首相は9月末の自民党総裁選で掲げた「令和版所得倍増計画」や「健康危機管理庁」の創設などは、所信表明演説や自民党の政権公約に盛り込まず、政策集に明記した「金融所得課税の見直しなど『1億円の壁』打破」も一転して見送る考えを表明した。「分配なくして次の成長なし」と声高に訴えるが、その分配政策の具体策はいまだ曖昧なままである。

部下が複数の選択肢を示し、トップが責任を持って1つの進むべき道を決定する――それが本来の組織のあり方のはずだ。しかし、岸田政権は方向性が定まらず、どの選択肢に落ち着くのかが「曖昧」のまま、決定だけが下されることも少なくない。その先行きに官僚のみならず、経済界や市場にも動揺が見られる。

見方によってはどのようにも解釈できる「玉虫色」、それこそが今や岸田カラーの「真髄」ともいえる。

密かに進行していると噂される「増税シナリオ」は、まさにその象徴ともいえるだろう。それでは、内幕を見ていこう。

巧妙に隠されたメッセージ

「一見しただけでは気づかないとは思いますが、見る角度を変えればわかるはずです」

こう声を潜めるのは経済官庁の中堅官僚だ。そのシナリオの前提は、菅義偉前政権でクローズアップされたエネルギー政策にあるという。

菅政権は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「脱炭素社会」の実現を目指すと宣言した。地球温暖化の主な原因となる温室効果ガスの排出量から植林や森などによる吸収量を差し引き、その合計を実質的にゼロにする。いわゆる「2050年カーボンニュートラル」である。

菅前首相は今年4月、温室効果ガスの排出量を「2030年度までに13年度比46%減」とする目標も新たに掲げ、当時の小泉進次郎環境相は「カーボンニュートラルに向けた大きなモメンタムを作り出すことができた」と胸を張った。

それらを裏打ちするのが、中長期のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」だ。菅氏の退任後、岸田首相の下で10月22日に閣議決定された同計画には国内外の注目が集まった。3年ぶりに改定された計画の中身を見てみよう。

太陽光や風力発電などの再生エネルギーについて、同計画は「主力電源として最優先の原則のもとで最大限の導入に取り組む」とし、最優先との言葉を初めて用いた。電源構成の割合は、2030年度に再生可能エネルギーを「36~38%」と現状の2倍にまで引き上げる野心的な見通しだ。

ここからが重要なポイントである。再生エネルギー以外の割合を見ると、原子力は「20~22%」(現状6%)で従来の目標と変わらない。その一方で、二酸化炭素の排出量が多い石炭火力は「19%」(同32%)に減らすとした。2050年に向けては、再生可能エネルギーと原子力など「実用段階にある脱炭素電源を活用」し、特に原発は「必要な規模を持続的に活用する」との表現が盛り込まれた。

もうお分かりだろう。石油や石炭などの化石燃料を燃やす火力発電は熱エネルギーを利用する発電の過程で二酸化炭素を排出するが、原発は核分裂した時の熱を利用するため排出されない。エネルギー基本計画に「脱炭素電源」とあるように、脱炭素社会の実現は「原発推進」への追い風となるのだ。

原発について、岸田首相は安全性を再優先に再稼働を進める考えであるものの、新増設については明言を避けてきた。だが、計画には「可能な限り依存度を低減」と明記する一方で、「必要な規模を持続的に活用」するとの文言で含みを残している。

経済産業省の現役官僚はこう力説する。

「世界的な脱炭素に向けた動きを無視はできない。本気で脱炭素化を実現していくならば、必要な手はすべて打たなければならない」

そこでもうひとつ、政府内で検討されているのが、二酸化炭素の排出量に応じて課税する「炭素税」という増税プランだという。

炭素税を導入すれば、企業もコスト負担を避けるためにエネルギーの過剰利用を控えるようになる。それが二酸化炭素の排出を抑えることにつながるとされ、スイスやスウェーデンなど欧州を中心に導入されている。ある政府関係者は「反対はいろいろあるだろうが、あくまで原発と炭素税がセットになるだろう。年内に方向性は出てくる」と語る。

原子力の利用に加え、増税という「禁じ手」が実行に移されれば、たしかに温室効果ガスの削減は進むかもしれない。だが、企業には新たな負担が求められることから、経済界は反対だ。経団連は今年9月、「現状では新規導入の合理性は明らかとはいえない」と牽制している。

加えて、国民の負担も忘れてはならない。炭素税が導入された場合には、ガソリンなどの価格上昇につながるからだ。

ただでさえ、コロナ禍で苦しむ国民は、原油価格の高騰を原因とするガソリン価格の値上げに頭を抱えている。経済産業省が10月20日に発表した調査によると、レギュラーガソリンの全国平均小売価格は7週連続で値上がり、1リットル当たりは164円60銭と7年ぶりの高値だ。ここに炭素税という増税が加われば、家計への「トリプルパンチ」の衝撃は計り知れない。

前出の経産官僚は「これから岸田首相が『よし、これで行こう』といっても、自民党の重鎮らの考え方も大きなポイントになる」とも指摘し、岸田政権の方向性にブレが生じる可能性も示唆する。

どちらとも受け取れる「玉虫色」が目立つ岸田首相。選挙で「勝利」を収めたことを背景に、環境保全を錦の御旗として「原発推進」「炭素税導入」を進めていくのだろうか。注目である。

  • 取材・文小倉健一写真AFLO

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