【総選挙2021】各党の「安全保障政策」をチェックする | FRIDAYデジタル

【総選挙2021】各党の「安全保障政策」をチェックする

軍事ジャーナリスト黒井文太郎が読み解く、この国の行方

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さて衆議院議員選挙である。各党の代表は連日、テレビや新聞で政策を掲げ、支持を訴えている。外交、安全保障分野はどうなのか? 各党の公約を比べてみた。

選挙まであと2日。「安全保障」の観点から各党の政策をチェックする。こうしている間にも、米軍普天間飛行場の移設先、名護市辺野古沿岸部では新たな護岸工事が始まっている 写真:共同通信

【自由民主党】

公約をみて一見して目を惹くのは「経済安全保障」を大きく打ち出していることだ。公式の公約パンフレットでも外交・安全保障よりも前に書いてある。主な内容は、重要な物資の供給を守ったり、物資や技術の海外への不正な流出を防止したりするため、「経済安全保障維持法」(仮称)を策定するということだ。

技術流出のカギとなるサイバー防衛では、高度なセキュリティ人材の育成を掲げているほか、経済安全保障分野でのインテリジェンス(情報収集・分析)能力の向上を強調している。その情報能力ということでは、これまで主に過激派やテロ組織などに対する調査で有名な公安調査庁の強化を打ち出しているのも新鮮だ。

外交・安全保障政策については、「ウイグル、チベット、モンゴル民族、香港など、人権等を巡る諸問題について、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めます」と明らかに中国を批判する文言があったり、他の部分で中国を名指ししていたりなど、これまでどちらかといえば中国を名指しするのを避けてきた日本政府のスタンスに比べると、対中国を前面に出している。自民党内でこれまで以上に「中国に強い態度をとるべき」との考えが強まっているのかもしれない。

ただ、気になるのは人権問題について言及しながら、やはり人権問題が指摘されているロシア、ベラルーシ、ミャンマーなどには一切触れていないことだ。とくにロシアとミャンマーに関しては、独自に深く関わる政治家もいるので、なかなか採りあげにくいのだろう。

自民党の安全保障公約で最も論争的なのは、「令和4年度から防衛力を大幅に強化」すると打ち出し、さらに「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、防衛関係費の増額を目指します」と具体的数字を挙げていることだろう。これは昨今、北朝鮮や中国の軍事力が飛躍的に強化され、その脅威が増大している状況のなか、とくに中国に対しては米国を中心に他国間で連携して対処する流れとなっているため、日本も硬直的な枠にとらわれずに必要な防衛力は整備しなければならないという話なのだが、歴史的に日本の防衛費は「GDP1%枠」の攻防が長く続いてきただけに、それを一気に2倍にすることも念頭に置くというのは、かなり野心的な公約といえる。

その個別の防衛力として今、しばしば論争になっているのが「敵基地攻撃能力」だが、公約では「わが国の弾道ミサイル等への対処能力を強化するとともに、相手国領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取組みを進めます」とだけ書かれており、いささか具体性に欠ける

【公明党】

選挙公約として打ち出した「重点政策」の6つの項目には安全保障問題は入っておらず、マニフェストの7項目めに「安定した平和と繁栄のための対外関係」という項目がある。安全保障政策はほぼ自民党と同じ、基本的には日米同盟の強化を謳っている。

自民党との違いは、核廃絶への強い希望が述べられていて、核兵器禁止条約批准への環境整備を進めるとしていることと、人道的な見地から慎重論が海外でも出ている将来のAI兵器、いわゆるLAWS(自律型致死兵器システム)の開発規制について言及していること。

また、外交分野では、ミャンマーの軍政を非難し、民主化を求める声が明確に述べられている。ただ、反対に対中国は、自民党よりだいぶ穏当な文言に留めている。

【立憲民主党】

公約の主軸は、じつは自民党とそう変わらない。日米同盟を基軸とした現実的な外交・安全保障政策で、「豪州やインドなどアジア太平洋地域、とりわけ近隣諸国との多国間協力を推進するとともに、各国との連携を強化した現実的な外交・安全保障政策を」とある。対中国では「中国の一方的な主張に基づく、尖閣諸島周辺でのわが国に対する挑発行為や、南シナ海での現状変更の試みは国際法違反」とかなり批判的に中国を名指ししており、とくに尖閣防衛に関しては、「領域警備と海上保安庁の体制を強化する」とし、「領域警備・海上保安庁体制強化法案」の制定を公約している。

経済安全保障にも前向きで「経済安全保障戦略を策定し、総合的な国力の増進を図ります」としている。

自民党と違うのは、まず沖縄の辺野古新基地建設を中止することと、政府がイージス・アショアの代替として導入を進めようとしている「イージス・システム搭載艦」について、常時監視・防護の役を果たせず、自衛隊の負担が過重となるとして反対していることがある。敵基地攻撃能力と、遠い距離から攻撃できるスタンド・オフ・ミサイルの導入については、アタマから反対こそしないものの、憲法解釈に照らして慎重な検討を行うとしている。

前回の選挙では大きな争点になった安保関連法については、今では反対を強く押し出してはおらず、「違憲部分を廃止する等、必要な措置を講じ」るとの考えだ。

もう1つの特徴は、人権外交を強く打ち出していることだ。ウイグルや香港、北朝鮮だけでなく、自民党に公約にはなかったミャンマーにも言及している。また、日本国内の難民の受け入れ体制の改善も約束している。

【日本共産党】

対米従属を批判し、日米安保条約の破棄を掲げる。ただし、米国と敵対するのではなく、対等の日米友好条約を主張。他にも安保関連法の廃止、F-35など米国製兵器の大量購入の中止や空母化をやめるなども公約している。

他方、対中国ではその覇権主義を強く批判。むしろ自公政権の対中国の弱腰を強く非難している。ただし、その中国に対する手法としては、軍事的に包囲するのではなく、中国も包み込む地域的な平和秩序でいくべきと、多少抽象的でソフトな言い方になっている。

【日本維新の会】

「現実に立脚し、世界に貢献する外交・安全保障」を掲げており、自公政権とそれほど大きく変わらない。防衛費の GDP1%枠撤廃や、テロやサイバー・宇宙空間への防衛体制強化を主張。さらに具体的な政策も次のようにいくつか打ち出している。

「自衛隊法及び海上保安庁法を改正し、自衛隊の部隊による警戒監視の措置及びその際の権限について定めるとともに、海上保安庁の任務として領海の警備が含まれることを明記」「CIA のようなインテリジェンス機関を創設するとともに、諸外国並のスパイ防止法を制定」その他、興味深いところでは、尖閣諸島の問題に対して「行政権の行使等を通じて実効支配力を強化」と、日本政府が避けがちな点を明記。また、自衛隊員の待遇改善も公約としている。

【国民民主党】

日米同盟を基軸とするという基本姿勢は強調しつつ、自公政権よりむしろ「自分の国は自分で守る」という考えを押し出し、自立的な安全保障体制を目指している。また、海上保安庁の体制を強化し、自衛隊との連携強化を強く主張している。さらに、経済安全保障を重視しており、外国への技術流出を防止する法整備を進めることを重視している。自公政権の違いとしては、安保関連法や日米地位協定の見直しについて積極的で、さらに沖縄の米軍辺野古基地建設は停止すべきとの考えであることだ。

【れいわ新選組】

自公政権の安保政策への反対が基本で、安保関連法の廃止日米地位協定の改定沖縄の辺野古基地建設中止などを掲げる。また、自衛隊の海外派遣は、海外で地震などの災害が発生した場合に限ると主張している。

【社会民主党】

自衛隊が南西諸島で戦力を強化し、日米で軍事演習を行うことに対し、中国との緊張を高めているとして反対。沖縄の辺野古基地建設は中止すべき。また、核兵器禁止条約の署名・批准を主張している。

【NHK党】

敵基地攻撃能力については、国民の命と財産を守るため必要な程度を必ず保有すべきと主張。憲法も含めた法整備について国会での議論を求めていくことを公約。また、日本版CIAといえる対外情報機関の創設に関して議論すべきと主張している。

安全保障が争点にならない理由

以上が、各党の安全保障政策だが、選挙戦では実際のところ、安全保障はさほど争点になっていない。前回の2017年の選挙では、2015年制定で2016年に施行された「安保関連法」の是非、さらには「憲法改正」が争点になったが、当時とはかなり様子が違う。

その最大の理由はもちろん、有権者の関心がコロナ対策と経済問題に向かっていることだが、それに加えて、日本の安全保障環境が厳しくなったことも背景にはある。北朝鮮は2017年に6度目の核実験を強行、同時にミサイル発射を繰り返しており、日本は「北朝鮮の核ミサイル」の脅威下に置かれた。

その後、電撃的な米朝首脳会談が行われるなど、非核化の期待が一時的に高まったものの、そんな雰囲気は完全に過ぎ去っており、この9月から再びミサイル発射を繰り返している。

中国も香港の民主派を強権的に排除して民主主義を潰し、さらにウイグル人を大規模に弾圧している。ミサイルや戦闘機、空母、潜水艦などの戦力を急速に強化しており、台湾有事を懸念する声も高まっている。

本来なら、このように日本への脅威が高まっている状況であれば、安保政策はきわめて重要であり、大きな争点になるべきだ。しかし、そうはなっていない。それは、日本への脅威が増大したことにより、有力政党間に安全保障に関してそれほど大きな政策の違いがなくなっているためだ。

もちろん細かく見れば違う点はいくつもあるものの、主要野党もやはり、中国や北朝鮮には厳しい立場を明らかにしており、日米同盟を強化して対応すべきという立場をとっている。防衛力の強化そのものに反対する声は少なく、従来ならイデオロギーを前面に出して日本の軍備増強に反対する主要野党も、そこを争点にはしづらくなっているのだ。

その象徴的なものが、自民党が打ち出した「防衛費GDP比2%以上も念頭に」だろう。仮に前回の衆院選時に自民党がこれを打ち出していたら、野党はこぞって「戦争準備反対!」「対米従属反対!」と集中砲火していただろう。

与野党ともに迷走中。有権者は各党の安保政策のチェックを

では、今ならイデオロギー色を排して積極的な安全保障に関する議論が可能かというと、実際のところは、自民党含めて各党の公約は全体的には抽象的なものに留まっており、なかなか具体的な議論にはなっていない。

自民党もイージス・アショア撤回をめぐるゴタゴタの後遺症が続いており、脛に傷があってあまりそこには触れたくない状況だし、総裁選の頃から再燃した敵基地攻撃能力の議論も、本来ならまったく別の議論であるはずの対北朝鮮と対中国が混同され、具体的な論点のピントがずれた話が多い。つまり本来なら「攻める」野党も、「受けて立つ」与党も、どちらも迷走状態なのだ。

とはいえ細かく各党の公約をみていくと、相違点はある。前述したように、日本への脅威は急速に高まっており、安全保障は今こそきわめて重要な局面になっている。各党の安保政策も、投票の判断基準のひとつに加える必要があるだろう。

  • 取材・文黒井文太郎

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