31歳で初の箱根出場…!駿河台大の4年生に届いた予期せぬ反響 | FRIDAYデジタル

31歳で初の箱根出場…!駿河台大の4年生に届いた予期せぬ反響

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10月23日、陸上自衛隊立川駐屯地で行われた箱根駅伝の予選会で力走する駿河台大の今井隆生(左、写真:共同通信)
10月23日、陸上自衛隊立川駐屯地で行われた箱根駅伝の予選会で力走する駿河台大の今井隆生(左、写真:共同通信)

98回の歴史を持つ箱根駅伝の出場権を初めてつかんだ駿河台大。法政大時代に茶髪のエースとして注目された徳本一善監督に率いられ、8位で予選会を突破した。新興校の精神的な支柱として、仲間を鼓舞していたのは31歳の4年生だった。昨年、公立中学校の教員を休職し、3年生から編入学。10月23日の歓喜から2日後、ラストイヤーで夢の切符を手にした今井隆生の思いを聞いた。

面識のない人から届いた「ダイレクトメール」

20歳前後の大学生たちと切磋琢磨しながら、目標に掲げた箱根駅伝の出場権をつかんだ31歳の物語は、本人の予想を超える反響を呼んでいる。レース直後にスマートフォンを見ると、145通ほどのメッセージが届き、その後も途切れることはない。すでに2日間でSNSを含めると、350通を越えていた。スマートフォンは常にフル稼働しており、1日に3回は充電しないとバッテリー切れてしまうほどだ。

「まったく面識のない人たちからも多くの声が届いていることに驚いています。27歳男性の方で消防士を目指している人、公務員試験に何度もチャレンジしている人、30代から新たな挑戦をしたいと思っている人など、数多くのダイレクトメッセージをもらいました。『何歳になっても夢をあきらめずに走る今井さんの姿を見て、勇気をもらいました』と。自分の走りがひとつのメッセージとして、社会に伝わったのであれば、こんなにうれしいことはないです」

2年間の集大成として、臨んだ箱根駅伝の予選会。自信を持って立川のスタートラインに立ったものの、レースでは苦しんだ。思うようにペースは上げられず、タイムを稼ぐ本来の役割は果たせなかった。それでも、必死に歯を食いしばり、最後まで力を振り絞る。チーム10番手でフィニッシュ。21.0975kmを走り終えると、何度も「仲間に助けてもらいました。仲間が箱根につないでくれました」と感謝の言葉を口にしていた。本人は自らの仕事ぶりには納得しなかったが、目標に向かって、泥臭く仲間と走り続ける姿に感銘を受けた人は多かった。

「いまこの取材を受けている最中にも、携帯電話にメッセージが入ってきています。中学校の教員を休職して大学に入り直すという決断を下すにあたり、相談に乗ってくれた人たち、挑戦を後押ししてくれた人たち、元職場の人たち、これまでお世話になった多くの方に祝福のメッセージをもらっています。僕がこうやって挑戦できたのも、周囲の理解があり、徳本監督をはじめ、走る環境を用意してくれる人たちがいたからです」

自ら選んだ道を進むなか、引き返そうと思ったことは一度もない。30歳を越えて、心に体がついてこないことはあったが、弱音は吐かなかった。苦しいときこそ、気持ちを前面に押し出し、仲間たちからは「魂の走り」と呼ばれた。足が悲鳴を上げそうになっても苦痛は感じなかったが、見えないプレッシャーは感じていた。チャレンジ1年目から異色のランナーとしてメディアに取り上げられことが、重圧としてのしかかっていたのだ。

「実力以上に話題が先行していましたからね。僕が東京五輪に出場した三浦龍司選手(順天堂大)のように強かったらいいのですが、現実はそうではありません。昨年は予選落ちして、結果も残せていなかった。10000mは29分30秒41、5000mが14分11秒10。箱根を目指す上では、ようやくスタートラインに立てるほどのタイム(自己ベスト)です。それなのに注目度ばかりは高く、そこにギャップを感じていました。

正直、苦しかった時期はありました。被害妄想かもしれませんが、陰で『あいつは話題だけ』と思われているのではないかとか……。8位で通過して、本当に良かったです。11位以下で予選落ちしていたことを考えると、ぞっとしますよ。予選会前から特集を組んでもらっていたのに、どの面を下げて、テレビカメラの前に立てば、いいのかなって。本戦出場を決めたときはうれしかったのですが、安堵した気持ちもありました」

リモート取材に応じた今井(撮影:杉園昌之)
リモート取材に応じた今井(撮影:杉園昌之)

編入は「箱根」が目的ではなかった

予想以上の狂想曲には驚きつつも、しっかり地に足はつけている。『31歳の箱根への挑戦』がクローズアップされているものの、駿河台大に編入したのは、そもそも走るためではなかった。かつて日体大でトライアスロンに情熱を注いだ元体育教師は、中学校での指導に行き詰まりを感じ、一度立ち止まって自らの指導法を見つめ直した。そして、出した答えが公務員の自己啓発等休業制度を利用し、大学で学び直すことだった。駿河台では心理学を専攻し、走りながら勉学に打ち込んできた。20代まで根性論を信じていた男は2年間の学びで、大きく変わった。

「もうひとつの挑戦で得たものは大きいです。心理学の授業、徳本監督の指導を受け、教えることだけが、指導ではないと実感しています。引き出すのも指導。自立を促すためには待つのも大事です。ときには失敗も見守り、そして支えていかないといけません。以前の僕であれば、細かくいろいろと言っていました。

主語を「I」ではなく、「You」に変えるだけでアプローチは変わります。その生徒がどう思っているかを考えて、接するようにしたい。自分のなかで、新しい指導法を見つけました。4月から(中学校の)現場に戻るのが楽しみですね。二兎追う者は一兎も得ずと言いますが、僕は二兎を追ってきたから、ここまでできたと思っています」

今井にとって、箱根駅伝はゴールではない。人生の大きな通過点として考えている。もちろん、ただ通り過ぎるつもりはない。本戦まで残り2カ月。予選会の走りを反省し、一から走りを見つめ直している。1日も無駄にはしない。

「自分がチャレンジして、頑張ったからこそ、言えることがあります。子供たちもみんな、箱根は見ると思います。予選会の僕は走っていないのも同然。本戦では悔いがないようにしたい。もう一度ここから頑張ります」

  • 取材・文杉園昌之

    1977年生まれ。サッカー専門誌の編集兼記者、通信社の運動記者を経て、フリーランスになる。現在はサッカー、ボクシング、陸上競技を中心に多くの競技を取材している。

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