「勝ったのに勝った気がしない」自民党の空気がすごく重いワケ | FRIDAYデジタル

「勝ったのに勝った気がしない」自民党の空気がすごく重いワケ

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微妙な空気が…(AFLO)
微妙な空気が…(AFLO)

不思議の勝ち

「勝ちに不思議の勝ちありだ」

プロ野球の名将・野村克也氏の言葉が自民党に今、広がっている。

岸田文雄首相(自民党総裁)による超短期決戦となった衆院選で、単独過半数(233)を上回る261議席を獲得したものの、選挙区ごとの分析をしていくと、自民党への力強い支持はなく、党勢に陰りが見えるからだ。党総裁選からわずか1カ月。内閣支持率がこれ以上、上がることはないという見方が大勢の中、早くも「岸田氏がトップのままでは来年夏の参院選を戦えない」(自民党若手)との声も漏れる。

「政権選択選挙において大変貴重な信任をいただいた」

岸田総裁は10月31日夜、単独過半数維持に安堵する一方で苦虫を嚙み潰したような複雑な表情を見せた。4年前の衆院選で圧勝した自民党は284議席を獲得。一時は単独過半数割れもあり得るとの予測もあった今回は、23議席マイナスの261議席で「なんとか踏みとどまった」(自民党中堅)との見方もある。

たしかに獲得議席数だけを見れば、すべての常任委員会で委員長を出した上で過半数の委員を占めることが可能な「絶対安定多数」の261議席を確保し、そこまで悲壮感を漂わせる必要はないように思える。

だが、問題はその中身だ。ある全国紙政治部記者は「選挙に負けたというわけではないですが、自民党には重苦しい空気が充満しています。それもそのはず、獲得議席以上に中身が悪い。小選挙区では大接戦での薄氷の勝利を掴んだ選挙区も多く、実感以上の議席を獲得している。立民・共産の野党共闘が効果があまり出なかったのも大きい」と解説する。

4年前、自民党は218の小選挙区で勝利をつかんだ。それが今回は189にまで減少している。野党共闘の効果が想定よりも下回り、野党第1党の立憲民主党が惨敗(96議席)する中で、接戦区で競り負ける自民候補も相次いだ。日本テレビ系NNNが実施した出口調査によると、無党派層の支持を比例で集めたのは立憲民主党が最も高い23.6%で、自民党は2位(21.2%)。自民党の支持層の1割近くが日本維新の会に流れ、立憲民主党に投票した人も約7%あった。

保守層を中心に強固な支持基盤に支えられ、無党派層の多くもつかんで選挙で連勝してきた自民党の勝利パターンに揺らぎが生じているのは間違いない。平井卓也・前デジタル担当相や若宮健嗣・万博相、桜田義孝・元五輪相ら大物が選挙区で敗れ、17回目の当選を目指した野田毅・元自治相や原田義昭・元環境相、山本幸三・元地方創生相といった閣僚経験者が落選という憂き目にあった。少数ながらも派閥「近未来政治研究会」を率いていた石原伸晃・元幹事長の落選は、自民党内で衝撃的に受け止められている。

「自民党が厳しい批判を受けた。自民党を変えなければいけない」

石破茂・元幹事長は選挙後の総括が必要と明言し、岸田総裁ら執行部の責任を問う声は当面止みそうにない。超短期決戦の直前にドタバタと行われた公認調整や比例名簿の登載順位をめぐる不満も渦巻く。

山口3区の公認争いの末、地元の比例代表中国ブロックから北関東ブロックへの転出を余儀なくされた河村建夫・元官房長官の長男・建一氏や、栃木2区の公認調整で北関東ブロック比例単独候補となった西川公也・元農林水産相の長男、鎭央氏の落選は深刻だ。「選挙直前に公認争いの醜態をさらされ、そのマイナスイメージで戦える状態ではなかった。執行部の責任は重い」との怨嗟の声も噴出する。

選挙を取り仕切った神奈川13区の甘利明・幹事長は、各候補者の応援のため全国へ駆け回る役割を求められていたものの自らの選挙で手一杯で、加勢を失った接戦区の候補者が涙を飲むことにつながった。

現職幹事長として敗北するという初の失態は、20時の開票直後に「当選確実」が報じられた二階俊博・前幹事長や菅義偉・前首相の安定感とはあまりに対照的だ。幹事長辞任の意向を固めた甘利氏の処遇について「最後は私が決めます」と不安な表情を見せた岸田総裁には、議席減と幹部の敗北により早くも政権運営に黄信号が点滅している。

「自民党の獲得議席がこの程度の減少で済んだのは、新型コロナウイルスの感染者数が急減していることが大きいでしょう。岸田首相や甘利氏の打った手ではなく、あくまでも菅前首相のお陰なんですよ。そうなると、なぜ『菅おろし』なんてマイナスになることを総選挙の直前にやったのか、ということなんですよ」

寂しき前首相

選挙担当の全国紙記者は、もしも感染者数が増加傾向にある中で投開票日を迎えていれば、自民党は単独過半数割れもあり得たとの見方を示す。

感染防止と社会経済活動の両立が課題だった中で、「1日100万回」という目標を上回るワクチン接種を強力に推進し、医療提供体制の逼迫解消や重症者数減少につなげた菅前首相。9月の自民党総裁選直前に女房役の二階幹事長(当時)を交代するよう岸田氏らに迫られ、その職を追い出された菅氏だが、やはり衆院選での人気ぶりは健在だった。「あのまま菅総裁の下で選挙をしていれば結果は違ったはず…」と悔やむ議員も少なからず存在する。

米国を上回るペースでのワクチン接種に成功し、現時点では感染を抑え込んでいる菅氏のコロナ対策。「コロナ対策で世界一」などと党内外で再評価の声もある中、「わたしは、ブレない」と書かれた上着を羽織った菅前首相は総選挙で、岸田執行部の失態を当てこするようにこう力説した。

「ワクチンは効くんです!」

党総裁選で掲げた「令和版所得倍増計画」や金融所得課税の強化といった公約の軸を一転修正し、「新しい資本主義」の柱となる経済安全保障政策の司令塔だった甘利氏が影響力を失う中、「選挙の顔」として不安視される岸田氏は一体どのような進路を突き進むのだろうか。

  • 取材・文小倉健一

    イトモス研究所所長

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