有罪被告が手紙に記した「太宰府・主婦暴行死事件の深層」 | FRIDAYデジタル

有罪被告が手紙に記した「太宰府・主婦暴行死事件の深層」

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「女性が息をしていない」

2019年10月20日。福岡県太宰府市内のネットカフェ駐車場に停められた車から119番通報があった。消防が駆けつけると、車内で女性が亡くなっていた。いわゆる『太宰府主婦暴行死事件』が明るみになった瞬間であった。

懲役15年の岸被告が手紙で明かした“恐怖支配”の全容

佐賀県の高畑(こうはた)瑠美さん(36=当時)の遺体は、腹や足などに複数の痣があった。福岡県警は車に同乗していた山本美幸被告(42)と岸颯(つばさ)被告(26)のほか、筑後市の元暴力団員Xを死体遺棄容疑で逮捕。のちに山本・岸被告を傷害致死や死体遺棄などの罪で、Xを恐喝や死体遺棄罪で起訴した。捜査からは、高畑さんが山本らによって、家庭のある佐賀県から、太宰府市の山本・岸被告の住むアパートに移り住み同居させられていたことや、様々に理由をつけられ金をむしり取られていたことなどが明らかになっていった。

山本美幸被告(42)と岸颯(つばさ)被告(26)は、今年3月、福岡地裁でそれぞれ懲役22年(求刑懲役23年)、懲役15年(同16年)の判決が言い渡されている。別日程で同地裁にて開かれたXの判決公判では、起訴されていた恐喝罪のみ有罪、死体遺棄罪については無罪が言い渡され、検察側控訴も棄却されている。山本・岸被告は一審判決を不服として控訴を申し立てていたが、福岡高裁での控訴審は今年9月、わずか5分で結審した。

一審・福岡地裁の判決では「一連の暴行は、山本被告が高畑さんを服従させ意のままに支配しようという意図の下になされた」と、山本被告が中心の支配関係を認定している。

山本被告は、高畑さんを自宅アパートに住まわせながら、夜はホストクラブに同行させ、その代金を立て替える。ところがこの“借金”の額を勝手にかさ増ししたうえ、暴力団との関係を匂わせるXにも圧力をかけさせ、高畑さんに対して再三にわたって金銭を要求してきた。

高畑さんはこれに応じるために実家に金の無心をせざるを得なくなっていった。山本被告らは、高畑さんを実家の家族だけでなく、夫とも引き離して孤立させた上、アパートでは衣食住すべてを管理してきたのだった。

そのなかで、岸被告は山本被告の意志を汲んで高畑さんに暴力を振るったと認められた。

「高畑さんに暴行を加えることを楽しんでいた様子も見られるのであり、山本から指示されて仕方なく暴行を振るっていたとは考えられない」
「暴行を加えて服従させる目的のもと、互いに意を通じて一連の暴行を行った」
(一審判決より)

だがこれに異を唱えるのが、当の岸被告だ。彼は高畑さんと同じように、山本被告の手練手管により取り込まれ、支配されてきた面があると手紙で綴っている。筆者は今年に入ってから、岸被告と文通を重ねてきた。彼が語るのは、高畑さんに対して山本被告らが行ってきたような“恐怖支配”だった。

「私は今回の事件で逮捕されるまでXさんのことを現役の暴力団の幹部と思っており、山本さんの事も、暴力団員の娘と信じていました。そして山本さんの手により、家族や友人と切り離され孤立監視され、金銭を奪われてきました。

本当に怖く、安心する時間は寝ている間だけ。何度も死ぬ思いをしました。

そんな毎日を4年間続けていると、感情を押し殺し、決して顔に出さないようになります。少しでも嫌な顔をすると、山本さんから脅され、金銭を要求されるからです」(岸被告からの2月の手紙)

岸被告が言うには、ふたりは暴力団の影をちらつかせ、何かにつけ金銭を要求してきたのだという。借用書を書かせるのも常套手段だった。高畑さんと同じように、金銭を脅しとられた者がほかにもいたと岸被告は語る。ひとりが、高畑さんの兄だ。彼も飲食代について因縁をつけられていた。その様子を見ていた岸被告は、恐怖し、山本被告らに逆らうことをやめたのだという。

「私の目の前でお兄さんが追い込みをかけられており、それを見ていた私は『カワイソウ』と思い口に出した結果、『肩を持つんや。(それなら)お前が代わりに用意しろ』と矛先が私に向かいました。

当時20歳だった私は、山本やXのことを本気で暴力団関係者と思っており『なんとしてもお金を用意して払わないと、殺される』と必死で金策を行っていました。

その中で私は『口を出さねば良かった』と後悔し『今後何があっても2人のやる事には口出ししない』と心に誓いました」(岸被告からの2月の手紙)

今年1月、亡くなった高畑瑠美さんの家族が事件前に佐賀県警鳥栖署に繰り返し相談していた問題で、高畑さんの母親と妹が第三者による調査委員会の設置や再発防止策などを求める要望書を、家族からの手紙2通を添えて佐賀県公安委員会に提出した(写真:共同通信)
今年1月、亡くなった高畑瑠美さんの家族が事件前に佐賀県警鳥栖署に繰り返し相談していた問題で、高畑さんの母親と妹が第三者による調査委員会の設置や再発防止策などを求める要望書を、家族からの手紙2通を添えて佐賀県公安委員会に提出した(写真:共同通信)

手紙に記されていた「高畑さんの兄の元交際相手の死」

もうひとりが、高畑さんと同じように、太宰府市内のアパートに同居させられていたSさんだ。彼女は、高畑さんの兄の元交際相手だった。Sさんと、高畑さんの兄が抱えていたトラブルを解決する形で介入してきた山本被告が、解決金名目で金を要求するようになったのだという。

山本被告らが住んでいたアパートはSさんが住んでいたものだった。Sさんはもともと病院の受付として働いていたが、山本被告が辞めさせている。これも岸被告によれば彼女の常套手段なのだという。そして、高畑さんと同じようにホストクラブに同行させ、料金を立て替えることで“借金”を作らせていった。

「山本さんはSさんを『家政婦』と言っていましたが、どう見ても『奴隷』でした。というのも、Sさんが自由に動けたのはリビングの一角(半畳ほど)のみで、風呂やトイレの使用は禁止。食事は『120kgまで太らせてデブ専門のソープに入れる』との理由で炭水化物を中心に1日に2〜3kgの量を、時には吐いた物まで食べさせられていたからです。

そんな毎日を送り続けたSさんは太りすぎにより心肥大になり、不整脈もありました。医師からも『体重を落とさなければ死ぬ』と言われ、時々『うっ』と胸のあたりを苦しそうに押さえたりしていたのですが、山本さんはそれを知った上で無視をして炭水化物の食事を強要。半年後、Sさんは『心不全』で亡くなりました」(岸被告からの4月の手紙)

2017年にSさんが死亡したのちも、山本被告がSさんになりすまし、岸被告が家賃を払い続ける形で、ふたりはアパートに住み続けていた。これまでSさんや高畑さんの兄に対する行状を目の当たりにしてきた岸被告は、逆らえば自分に矛先が向くと考えるようになったという。高畑さんは2019年、アパートに同居させられる。山本被告によって、Sさんと同じように炭水化物中心の食事を与えられ続け、凄惨な暴行を受けて亡くなった。

「山本さんは、その人が最も『大切にしている人や物』または『知られたくない過去』を見つけるのが上手いです。言葉巧みに聞き出す姿は天才的です。そして、知った弱みを突き、脅して金銭を巻き上げ、新たに犯罪をやらせ、その行為を新たな弱みにします。

また『警察に捕まったときに私の名前を出したら……』と脅し、Xと協力しながら、自らが暴力団関係者であるように見せつけます。

その様子を間近で見ているからこそ怖いです」(岸被告の9月の手紙より)

2017年に亡くなったSさん、そして高畑さんが大切にしていたものは『家族』だったと岸被告は振り返る。

「『家族と一緒に暮らしたかったら借金を返せ』が山本さんの決まり文句でした」(同)

このように山本被告に目をつけられ、金銭を巻き上げられた者は「私の知る限りで10人以上いて、一番古い借用書は2008年ごろのものでした」(同)という。岸被告自身も、借用書を書かされていた1人だった。

岸被告は、高畑さんの件について当時、通報を考えたが「通報者の名が知られてしまう」ことを恐れた。その代わりに「自分が暴力を振るっている」と知人に伝え、通報してくれることを期待したのだ……と一審公判で語っている。福岡地裁が認めたように「高畑さんに暴行を加えることを楽しんでいた」のか、それとも、岸被告が書き連ねたように、彼自身も山本被告に操られていたのか。捜査によって、山本被告らの行状すべてが掘り起こされているわけではないようだ。

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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