「人権問題補佐官」創設で期待される「脱・人権軽視国ニッポン」 | FRIDAYデジタル

「人権問題補佐官」創設で期待される「脱・人権軽視国ニッポン」

国際社会のなかの日本。岸田政権に期待する〜軍事ジャーナリスト黒井文太郎レポート

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「人権軽視国ニッポン」中国やロシアの人権蹂躙に対して、常に弱腰だった日本がついに…。新設された「人権問題担当補佐官」の意味は。世界の自由と民主主義を守る第一歩が踏み出された 写真:AFP/アフロ

11月10日に第2次岸田内閣が組閣されるのに合わせて、官邸は新たに「人権問題担当の総理大臣補佐官」ポストを作ることになった。初代補佐官には元防衛相の中谷元氏が予定されている。

岸田政権が中谷氏を「人権問題担当補佐官」に起用するということは、日本政府が対中国を念頭に強硬姿勢に転じる、少なくともその姿勢をアピールするという大きな意味を持つ。

中谷氏は自民党内の対中国強硬派の有力議員の一人で、超党派の「対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)」の共同議長を務めている。JPACは2020年7月に中国政府による「香港弾圧」に抗議するために発足した議員グループで、香港弾圧やウイグル人弾圧など重大な国際人権法違反を「特定人権侵害問題」と位置づけ、国会で「特定人権侵害問題対処法」(通称「日本版マグニツキー法」)の成立を目指す。国際的な政治家グループ「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」とも連携している。

JPACは中谷氏と当時、国民民主党議員だった山尾志桜里氏が共同議長で牽引してきたが、国会内で主導権をとれるほどの勢力ではなかった。2021年6月には中国の人権弾圧を非難する国会決議の採択も見送られている。

日本だけが「弱腰」だった対中国の裏側

日本政府は安倍政権時に、対中国経済安全保障を念頭に「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を打ち出したことで強く中国に対処しているとのイメージが一部にあるようだが、実際には香港やウイグルの人権問題で欧米諸国が非難声明や制裁などを出した際にも、しばしば参加を見送ってきた。中国を刺激したくなかったからだ。

中国を刺激したくないのは、もちろん経済的な不利益に対する懸念があるからで、そうした声の中心は経済界である。さらに外務省(有力OB含む)、二階俊博元幹事長ら自民党内の有力議員、公明党らも中国に対しては彼らなりの国益の観点から、比較的融和路線を志向していた。安倍政権も、新型コロナの流行で直前に延期決定するまで、習近平の2020年4月の国賓招聘を予定していたほどだ。

しかし、中国はとくに2014年以降、習近平政権が軍事力増強、強引な対外進出、国内の人権侵害を急速に進めており、近年さらに加速している。それを受けて米英が対中国強硬路線を進めてきたが、さらに2021年夏以降、EUも対中国強硬路線に転じている。西側有力国で日本だけが、中国に対して「腰が引けている」状況になっていた。

だが、とくに米バイデン政権やEU諸国が人権問題をクローズアップするなか、日本だけスルーし続けるわけにもいかない。そうした国際的な環境での今回の岸田首相の決断は歓迎できる。

「人権問題補佐官」に寄せる期待

その背景には、自民党内で対中国強硬派の意見が強まっていたこともある。たとえば今回の衆議院選挙公約でも、日本政府がこれまで避けてきた「中国を名指ししての非難」がしっかり明記されている。今後、人権問題担当補佐官の創設が名前倒れにならないよう、大いに期待したい。

人権問題担当補佐官の創設では、さらに期待したいことがある。

中谷補佐官(予定)が中国の人権侵害を非難していくだろうことは歓迎できるが、世界にはそれ以外にも人権侵害を行っている国がいくつもある。それらの問題にも、ぜひ斬り込んでほしいのだ。

じつは日本は、国際社会では「人権軽視国」といわれてもしかたのない国だ。対中国非難声明・制裁に後ろ向きだったことは前述したが、他にもロシア、ベラルーシ、ミャンマー、イランなどの人権問題でもそれは同様だった。

西側主要国が連帯してこれらの国々の人権侵害を非難したり制裁したりする際にも、しばしば参加を見送ってきた。国際社会の大勢に同調して参加する場合も、目立たないように末端に名を連ねる程度で、対ロシアなどでは事実上制裁を骨抜きにするような動きもしてきた。

近年、西側主要国はG7外相会合をこうした人権侵害非難の場に使うことが多く、日本の外相もG7外相声明に名を連ねているが、なるべく大事にしたくない意向なのは、日本国内での発表を、ほぼ外務省報道官談話だけで済ませていることからも伺える。

外務省サイドとしては、そうした国に対しては、高圧的な態度で迫るよりも融和姿勢で臨んだほうが逆に効果が高いということだろうが、これまで実際には日本政府の融和姿勢がこれらの国の人権侵害緩和に結びついた例はない。こうした国々の施政者は自らの人権侵害を自覚しており、甘い態度は単に利用されるだけに終わっている。

戦後日本の「ことなかれ主義」

それでも日本が他国の人権問題に対して一貫して融和的な態度をとってきたのは、戦後日本の歴代政権が伝統的にとってきた対外的「ことなかれ主義」の延長ではないかと筆者は考えている。

戦後日本は、米国の同盟国として安全保障を確保しつつも、主体的な政治的主張はひたすら控え、経済的な利益を優先してきた。政治小国として振舞い、経済成長後はODAばら撒きによって、他国とのトラブルを避ける。日本外交にとっての「良い外交」とは、諸外国から気に入られることで、相手が人権侵害国であっても例外ではない。それが日本外交の歴史的な「文化」になっているのだ。

なにより日本政府のそうした姿勢は、海外に進出する日本企業にとってはありがたい。友好国の企業という立場であれば、現地でも商売がしやすい。外国の人権侵害は日本政府の責任ではないし、苦しむ現地の人々のことなど無視してしまえば、日本経済には好都合だ。

人権は「人類全体」の問題だ

しかし、人権問題は人類全体の問題である。国際社会がそれを問題視しているときに、日本だけ「見ないふり」をしていていいのだろうか。岸田政権の人権問題担当補佐官創設を機に、そうした世界全体での人権問題に積極的に関わっていくことはできないだろうか。

そこで指摘しておきたいのは、外務省だけでなく政治の世界でも、一部の政治家にとくにミャンマーとロシアで、人権侵害政権との関係があることだ。

たとえば対ミャンマー外交では、日本ミャンマー協会(会長・渡邉秀央元郵政相)や笹川平和財団/日本財団などが、ミャンマー問題とかねて深く関わってきた経緯がある。そのなかでもとくに、前者に関与する一部の自民党系政治家や日本企業は、ミャンマー軍事政権とも深い人脈がある。

日本政府・外務省はこれまで国際社会でも、主要国としては明らかに突出してミャンマー軍事政権に甘い対応をしてきているが、人権問題に関しては、他のG7諸国並みに毅然とした態度を望みたい

「プーチンへの忖度」で領土は戻らない

対ロシアでも、これまで突出した融和路線でやってきた。とくに安倍晋三元首相の、プーチン大統領に対する長年の「親愛感アピール」は、国際社会でもかなり際立っていた。

こうした日本の親ロシア姿勢の背景には、もちろん北方領土返還問題がある。領土交渉を進めるために、プーチン政権を刺激したくないという発想だ。

しかし、そんな「対プーチン忖度」が、領土交渉に1ミリもプラスになっていないことは、これまでの経緯からも明らかだ。そもそも領土問題と人権問題は別の話であり、人権問題で日本だけが「見ないふり」をすることは、諸外国からどう評価されるかをよく考えるべきである。

ベラルーシやシリアの人権問題でも、日本政府はきわめて消極的だが、それらを批判することは、黒幕であるプーチン批判に通じるためだろう。とにかく外交問題でプーチン大統領の機嫌を損ねないというのが、日本政府のこれまでの政策だったが、その方針転換こそ必要ではないかと思う。

ただし、対ロシア外交においても、外務省や、安倍政権で対露融和政策を主導してきた官邸の経産省出身総理秘書官(当時)などだけでなく、これまでプーチン大統領を「信頼できる人物だ」と強く主張してきた森喜朗元首相や、鈴木宗男参議院議員(日本維新の会)など一部政治家の影響力は大きい。それになによりも、プーチン批判は親密な関係を誇示してきた安倍元首相に対する間接的な批判にもなり得るため、自民党議員にはそれなりに高いハードルでもある。

世界の自由と民主主義を守る政権に

しかし、プーチン政権はロシア国内で反体制派を弾圧するに留まらず、国外で反体制派を暗殺したり、ウクライナやシリア、リビアなどで直接的な弾圧・殺戮に加わったり、中国と組んでベネズエラのマドゥロ政権や北朝鮮の金正恩政権など世界中の人権侵害独裁国を実質的に外交支援したり、フェイク情報を拡散して欧米民主主義社会の分断を扇動したりするなど、世界の民主主義を破壊する行為を繰り返している。

ロシアの人権問題をスルーすることは、大げさではなく、世界の自由と民主主義にダメージを与えることと同義だ。「人権問題担当補佐官」の創設が、真に日本政府の国際的人権問題への取り組みになるかどうかは、対中国だけでなく対ロシア外交でも人権問題を重視できるか否かで判断できるだろう。もちろん中谷補佐官ひとりで対ロシア政策の大きな転換はできないので、そこは岸田首相の決断に、強く期待したい。

  • 取材・文黒井文太郎写真AFP/アフロ

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