双子のパンダ「シャオシャオ・レイレイ」が見せたスゴイ成長
誕生から140日の成長記録と動物園の思い

上野動物園にジャイアントパンダの「双子」が生まれて140日。その成長を支える動物園スタッフに成長のようすと「思い」をきいた。
2021年10月23日、ママと双子パンダの生活が始まった
「6月に生まれた双子のパンダとお母さんが3頭揃うのは、じつは出産以来初めて。10月23日に『新生活』が始まりました。どう反応するかと思いましたが、母・シンシンは驚くようすもなく、子どもたちの体をなめたり、授乳をするなど落ち着いて世話をしているので、ほっとしています」

こう話すのは、上野動物園・教育普及課長の大橋直哉さんだ。上野動物園で双子のジャイアントパンダ「シャオシャオ」と「レイレイ」が生まれたのは、6月23日。この双子のパンダ、じつは「実際に生まれるかどうか、出産するまでわからなかった」のだという。
ジャイアントパンダには「偽妊娠」といって、妊娠していないのにおなかが大きくなったり、乳房が大きくなって、まるで妊娠しているような状態になることがあるのだそう。シンシンも一度「偽妊娠」があった。しかし「母体への影響を考えて、エコーなどでの検査は実施していないため、本当に妊娠しているかどうかは、出産して初めてわかることもある」という。それだけ、パンダの妊娠・出産はデリケートなのだ。
「出産は深夜の1時過ぎでした。赤ちゃんは、生まれてすぐ産声をあげ、シンシンが近づいて抱き上げたので、ほっとしました」(上野動物園・園長の福田豊さん)
その喜びのなか、2時32分、なんと2頭目が生まれた。
「2頭目出産の報告を受けたときは、とても驚きました。そしてもちろん、心から嬉しかったです」(福田園長)
生まれたときの体重は1頭が124g、もう1頭は翌日測ったところ146g。双子というと、体重が少ないのではと心配されるが、4年前に生まれたシャンシャンは147gと、ほとんど体重差はなく、命の危険を心配する小ささではなかったとか。
そもそもジャイアントパンダは、非常に未熟な状態で生まれる生き物だ。シカやウマなど、生まれてすぐ立ち上がる動物が多いなか、生後100日経っても、自力での移動はままならない。しかもパンダは、1度に1頭しか育てないといわれている。
産後、1時間ほどで1頭を保育器へ。このときから、8名の飼育担当者と5名の獣医師で、24時間体制でパンダの見守り&お世話が始まった。

「抱っこしてミルク」は、やらない理由
それから双子パンダはすくすく成長。生まれて10日ぐらい経つと、耳や背中の部分の毛が黒くなってきて「パンダらしいもよう」も。8月上旬には、2頭とも体重2㎏を超え、赤ちゃんというより、子どもという感じまで成長した。
1頭ずつ交代でシンシンに預け、保育器にいるほうのパンダには、飼育係さんがミルクを与えるという交代制で育ててきた。子パンダはなにしろかわいくて、抱っこでミルクを飲ませるなんて、うらやましい…と尋ねると、
「いえいえ、ジャイアントパンダはあくまでも野生の動物。抱いて人工乳を飲ませることはありません。人工乳を飲ませるときは、保育器のなかにいるパンダに乳首をくわえさせるだけです。
子どもを入れ替えるとき、持ち上げたり、持ち運んだりすることはありますが、スキンシップやコミュニケーションをとるために抱くことはしていません」
人工乳を飲ませるときは「人工乳の温度が飲みやすく調節できたか」「吸いつきがいいか」「誤嚥しないように、むせないように角度の調整ができているか」などを確認しながら、細心の注意を払うから、緊張の連続。「かわいいパンダを抱けてうらやましい」なんて…失礼しました!
このころになると、尺取虫のような動きで前進したり、時おり前脚に力を入れて上体を持ち上げることもできるようになってきたとか。人の声や物音にも敏感になって、寝返りもじょうずになってきた。ミルクは、多いときは一度に300mlも飲むという。
ここまでくれば、もう安心?
「まだまだ小さいことに変わりはなく、油断はできません」

じゃれあったり「仲良し」に見えるけど…
8月下旬になると、2頭とも体重は3600g超。身長は50㎝ほどに。大きくなってきたため、保育器から卒業した。
交代でシンシンのもとに行くため、2頭が会えるのは保育室からシンシンのもとへ、シンシンのもとから保育室へと入れ替えるときだけだった。わずかな時間だが、一緒にいるとじゃれあって、とても仲良しに見える。
「そう見えますよね。でも、相手をどう認識しているかはわかりません。まだ目もぼんやりとしか見えていないので、もぞもぞ動くものに興味を示しているだけかもしれません。
動物を扱うときに、気をつけなければいけないのは、人間と同じだと思わないこと。人間と同じ感覚で見てしまうと、飼育のうえで必要な判断を間違えてしまうことがあるからです」
なるほど…つい「かわいい」とか「仲良し」とか、こちらの基準で見てしまうのは改めなくては。
10月8日には、命名があった。オスはシャオシャオ、メスはレイレイ。母乳で育っているが、最近、乳歯も生えてきたという。そろそろ離乳食?
「ジャイアントパンダに離乳食はありません。親の真似をして笹をかじったりしながら、徐々に固形物に慣れていく感じです。シャオシャオとレイレイのお姉さん、シャンシャンは6月12日生まれですが、翌年の5月に初めてリンゴのかけらを口に入れました。それを考えると、シャオシャオとレイレイも来年の春ごろから、リンゴやタケを食べ始めるかもしれません」
元気に育ってくれるのがなによりの幸せ
早くシャオシャオとレイレイに会いたい! 今のところ2022年1月の公開を目指して、ラジオを聞かせて人の声や音に慣れさせるなど、準備を進めているという。現在、9㎏ほどにまで育った。
「元気で育ってくれるのが、なによりありがたいです。すくすく育っていくのを見ると、この仕事をしている幸せを感じます。そして、ジャイアントパンダという生き物のことを、広く皆さんに知っていただくきっかけとなる存在になってくれればと思います」
中国には広大なジャイアントパンダ保護地域があり、そのなかにパンダの保護や研究を行う施設がある。シャンシャンも近い将来、その研究施設で暮らすことになる。
「保護下で、ジャイアントパンダは安定して増えていっていますが、保護地域以外では野生のパンダの数が減っていますし、生息地の環境破壊も進んでいる。保護しなくても増えるような環境になればいいと思います。
野生の動物について知ってほしいことがたくさんあります。シャオシャオとレイレイを通して、現状を知ってほしいし、我々も、ジャイアントパンダを含めた野生動物の保全につながるような情報発信をしていきたいと思っています」
かわいいだけじゃない、シャオシャオとレイレイは重要な任務を背負っているのだ。
3頭が落ち着いて暮らしているのを見て、夜の見守りがなくなり、母子での新しい生活が始まった。6月の出産直後、
「職員一丸となってジャイアントパンダ母子の観察と保護に万全を尽くしています」
といった言葉の通り、上野動物園のスタッフの尽力のもと順調に成長した双子のパンダ。来年1月には、一般公開が予定されている。その日が、今から楽しみだ。

取材・文:中川いづみ写真提供:(公財)東京動物園協会