積水ハウス55億円詐欺事件 「地面師の預金通帳」独占入手!
積水ハウス55億円詐欺事件の重要参考人にスクープインタビュー。この男の口座には30億円が振り込まれていた
〈振込 3億3000万円〉
〈振込 2億3000万円〉
〈引き出し 5000万円〉
ケタ違いの金額が並ぶ3通の預金通帳(下写真)。これは、積水ハウスから約55億5000万円を騙し取った地面師グループが使った通帳の現物である。
今回、本誌にこの「重要証拠」を提供してくれたのは、会社経営者のA氏(70)だ。A氏は地面師グループに自身が経営する複数の会社の口座を貸していたことを認めている。だが、犯行には一切関わっていないと主張。「潔白を証明できるなら」と、本誌のインタビューに応じた。
「私が話を持ちかけられたのは、昨年4月のことでした。接触してきたのは、犯行グループの一人である佐々木(利勝・59、10月20日逮捕)さんです。『大きな商談がまとまりそうだが、審査に時間がかかって口座を開設できない。一時的に口座を貸してほしい』と言われました。佐々木さんは不動産業をしていると自称しており、以前から親しく付き合っていたので、特に疑わず『お手伝いできるなら』と安請け合いをしてしまいました」
積水ハウスと地面師グループとの間で売買契約が成立したのは昨年4月だった。A氏の口座にはその直後から、次々とカネが振り込まれるようになる。
「口座にカネが振り込まれたら、それを私が引き出して佐々木さんに手渡す、という流れでした。通帳を見ると、振り込みが始まったのは昨年の4月24日から。毎回、数千万〜数億円という単位でカネが振り込まれ、合計で30億円以上が入ってきました」
A氏はカネが振り込まれるとすぐに、佐々木容疑者に連絡。毎回、最低でも5000万円を渡していたという。
「引き出すときには必ず、佐々木さんがついてきました。人目につかないよう、近くの駐車場などでキャッシュを渡すことが常でしたね。何かあったときのために、私は部下に車も用意させていました。私の取り分ですか? 4月末に5万〜10万円ほどを受け取り、6月に数十万円をもらいましたが、それだけです。
カネの出し入れがストップしたのは、昨年6月6日。銀行から連絡があり、『警視庁からの要請で、口座を差し止めます』と言われたんです。佐々木さんにそれを告げると、頭を下げて詫びを入れられました。ただ、警察の捜査については、『私も頼まれただけなので事情はわからない』としか言いませんでしたね」
その後、口座はストップしたまま約1年が経過した。すると、今年8月、A氏は突如警視庁から呼び出されたという。
「任意での事情聴取ということでした。担当の刑事に『口座を使わせてほしいと持ちかけられたか?』と聞かれたので、正直に答えました。その後計3回、警察には呼ばれましたね。同じ頃に、ニュースで今回の事件を知るようになり、やっと私が利用されたのだと気づきました。口座を貸したのは私の甘さ以外の何物でもない。猛省し、迷惑をかけた方々には深くお詫びする所存です」
警察の捜査は現在も続いており、11月6日には詐欺金を振り込むための預金口座を準備したとされる三木勝容疑者が逮捕された。これで逮捕者は計12人となったが、主犯格がいまだ逃亡中だ。地面師事件に詳しいジャーナリストの伊藤博敏氏が言う
「今回、A氏の口座が使われたのは、カネの流れを追いにくくするため。一種のマネーロンダリングでしょう。地面師一味は様々な役割を担う大勢の人間で構成されており、知らなかったと言っていますが、結果的にA氏もその一人だったということです。A氏のような末端の者も含め、逮捕者がまだまだ増えるのは間違いありません」
警察はすべてを知る本当の「地面師」逮捕にたどり着けるのか。そしてその罪を立証できるのだろうか――。
取材・写真:高木瑞穂(ノンフィクションライター)