部員逮捕の激震から狙う箱根連覇 駒大3年生主将の「複雑な胸中」 | FRIDAYデジタル

部員逮捕の激震から狙う箱根連覇 駒大3年生主将の「複雑な胸中」

前哨戦で逆転優勝に導いた絶対エース田澤簾に起きた変化と覚悟

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7日に行われた全日本大学駅伝の7区で東京国際大の野沢巧理(右奥)を抜き、先頭に立つ駒大の田沢廉(写真:共同通信)
7日に行われた全日本大学駅伝の7区で東京国際大の野沢巧理(右奥)を抜き、先頭に立つ駒大の田沢廉(写真:共同通信)

箱根駅伝の前哨戦とも言われる全日本大学駅伝は7日、名古屋市の熱田神宮から三重県伊勢市の伊勢神宮まで8区間106・8キロで争われ、駒澤大学が2連覇を果たし、歴代最多を更新する14度目の優勝を飾った。

故障者が続出してベストメンバーを組めずに苦戦するなか、チームを救ったのは7区で区間賞を獲得した3年生キャプテンの田澤廉だ。4位でタスキを受けると、圧巻の走りであっという間に2人を抜き去り、1位でタスキをつないだ。学生ナンバーワンの実力を遺憾なく発揮。走力の貢献度は計り知れないが、それだけではない。人知れぬ苦労を重ねて、チームを引き締め、中間層の底上げを促した主将としての顔もある。

今年5月、箱根駅伝で4連覇を含む7度の優勝を誇る名門に激震が走った。前回の箱根で逆転優勝の立役者となったアンカーの選手が、神奈川県青少年保護育成条例違反などの疑いで逮捕されたのだ。

今季も主力となるはずの4年生が起こした不祥事。精神的にダメージを受けた部員もいた。部内にもたらした影響は想像に難くないだろう。今年度は「大学駅伝三冠」を目標に掲げるほど戦力が充実していたが、思わぬ試練を強いられることに。そして、優勝候補の一角として臨んだ10月の出雲駅伝は主軸の鈴木芽吹(2年)らが欠場した影響もあり、まさかの5位に終わる。エースの田澤は伊勢路で優勝を決めたあと、3年生主将の心労を明かした。

「いろいろあり、つらいこともありましたが、卒業した先輩たちにも支えてもらいました。練習でも自分が引っ張っていく立場になり、きつかったです。出雲では5位となり、自分の方針が合っているのかと悩んだりしました。ただ、一人ひとりの選手たちを信じて、やっていけば、結果はついてくるんだなと。全体のことをよく考えてくれる4年生の先輩もいます。だから、このチームが成り立っているんだと思います」

最上級生でただひとり全日本大学駅伝のメンバーに入り、3区を走った佃康平は頻繁に田澤とコミュニケーションを取り、大きな重圧を背負う後輩の相談相手となっている。もともと田澤が主将を務めるような性格ではないことも理解している。2年生までは自らの走りに専念し、積極的に周囲に声をかけることが少なかったタイプ。それが主将に就任してからガラリと変わり、主力に次ぐBチームにも気を配るようになった。陸上競技に取り組む姿勢はより真剣になり、面倒くさがっていた練習日誌も書いている。普段の生活から部員の模範となり、不祥事が発覚したときも、田澤は仲間の前で毅然としていたという。

「まったくブレずに『三冠の目標を達成しよう』と話していました。どんなときでも、チームを引っ張っているのは田澤です。僕は4年生として下級生に生活面で助言したり、話しやすい環境をつくったりして、サポートしています」

主力のケガにより、全日本大学駅伝5区で出走のチャンスをつかんだ3年生の東山静也は、主将となった同期から大きな刺激を受けている。競技に向き合う姿勢などは見習うべき点ばかりだという。陸上への情熱はひしひしと感じている。関係性も変化し、練習中に指摘されることも珍しくない。「ときには厳しさも必要ですので」と素直に受け入れている。反面、田澤に認めてもらえれば、モチベーションが上がる。先頭に立つリーダーのもと、5月の事件をきっかけに原点に立ち返っている。

「僕らは大会を開催してくれた人たちに感謝の気持ちを持って、臨まないといけません。走ることで、支えてくれている人たちに恩返していきたいです」

今季はレースを走り終えると、必ずコースに一礼することを徹底。伊勢路の4区で走った2年生の赤星雄斗は、初駅伝で区間4位と好走しても謙虚な姿勢を崩そうとはしなかった。

「田澤さんから常に意識を高く持つように言われていますし、練習でもよく注意されます。僕らは優勝を目指しているんだと。レースに臨む気持ちも変わりました。大会で走れていることにも感謝しないといけないと。失った信頼は、一つひとつ取り戻していこうって」

一度窮地に陥った名門をひとつにまとめ上げた田澤は、もはやレースで強いだけのランナーではない。報道陣の前ではあっけらかんとした口調で話すことが多いものの、チーム内では別の顔を見せている。主将の言葉には重みがある。苦難をともに乗り越えてきた仲間たちへの信頼も厚い。

「僕が言ったことに対して、みんなが行動で示してくれました。自分を信じてくれた。昨年と今年の優勝は全然違う。ベストメンバーがそろわずに勝てたのは大きい。箱根はそんなに甘くないのは分かっていますが、たとえ主力があまり戻って来ることができなくても、俺らでも行けるんだぞ、と自信になったはずです。いい流れで箱根にいけると思います」

新春の箱根駅伝2連覇に向け、3年生主将のもと、駒澤大の結束力はぐっと増したようだ。

  • 取材・文杉園昌之

    1977年生まれ。サッカー専門誌の編集兼記者、通信社の運動記者を経て、フリーランスになる。現在はサッカー、ボクシング、陸上競技を中心に多くの競技を取材している。

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