『日本沈没』でわかった国内テレビドラマのCG「本当のレベル」 | FRIDAYデジタル

『日本沈没』でわかった国内テレビドラマのCG「本当のレベル」

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日曜劇場『日本沈没—希望のひと—』(TBS系/毎週日曜よる9時放送)。小栗旬、松山ケンイチ、杏、仲村トオル、香川照之といった豪華キャストが集結した 写真:『日本沈没—希望のひと—』公式ホームページより

TBSのドラマ 『日本沈没ー希望のひとー』が、とある“業界人”たちの注目を浴びている。それは「日本のドラマCG制作に関わるクリエイター」たちの熱視線である。

日本のCG業界は「予告編を見てザワついた」という。なにせ「日本が沈没する」わけだから、かなり大規模なCGショーになることは間違いない。一気に業界内の期待感が高まったのだ。

日本のテレビドラマのCGは近年、多額の予算を使い大がかりなCGを連発する韓国ドラマなどに押され気味で、元気がないとも聞く。言ってみれば日本のドラマCG業界がある意味「沈没」しそうな感じだというわけだ。

そんな中、業界人たちは『日本沈没』をどう評価しているのか? 日本のドラマCG業界の現状と問題点についての話も合わせて、CG業界のクリエイターたちに聞いてみた。

ただならぬ危機感を持つのは、東京キー局でドラマなどのCG制作を担当する局員である。

「日本のドラマCGの現状ですが、海外に比べると予算が厳しく、演出の要望にも十分に応えられない状況にあると思います。

本来であればカメラを動かしたいシーンでもFIX(注:カメラを固定すること)にせざるを得ないとか、3DCGを使ってしっかりとモデルを作って対応したい所をスチール写真で済ませてしまうなど。また、連ドラの場合は撮影から編集までの時間が数日というケースもあり、十分にクオリティを上げられない事も多いです。

あとは、人材不足もあるかと思います。CGを目指す若者はゲームに流れる傾向にあり、テレビドラマのVFXはあまり人気がないんです。これについては我々がもっと情報発信して、人材獲得に努めていかないといけないんですけど。

Netflixなどで韓国のドラマを見る事がありますが、正直レベルが高いと思っています。予算とスタッフの数が違うんでしょうね」

多くのCGクリエイターを輩出するデジタルハリウッド大学の小倉以索准教授も「ここ20年くらい、若者にはゲームCGが常に一番人気」だと証言する。

「『民放ドラマのCGを作りたい!』という人は少ないかもしれません。そもそも、テレビドラマを見てるという若い人が少ないと思います。もちろん、恋愛ドラマや韓流ドラマを見ている若い人はいますが、それらを見てCGを作りたくなる人も残念ながら少ないと思いますし」

そして、日本のドラマCGがなぜ「安っぽく見えてしまう」のかについて、小倉准教授はこう指摘する。

「韓国は映画でのCG技術を経験し、そのノウハウを蓄積してテレビのCGにも活かしているのではないでしょうか。日本も同じように、映画で培った技術はありますが、それを活かせるだけの予算やスケジュールがないのでは?と思います。

『少し安っぽいな』は時間をかければ絶対に良くなります。しかし、優先順位が低かったり、オンエアに合わせた締め切りがタイトなので『このままでGO』サインが出てしまうのでは、と思います」

そんな中、『日本沈没』のCGは、プロから見ると明らかにそのレベルが違うのだという。

「『日本沈没』は、連続ドラマでも特別で、予算があって時間もかけて作っていると感じます。同業者として、すごくやりがいのある作品だと思います」(前出の東京キー局ドラマCG担当)

「第1話の島が無くなるシーンは一般の人からすると、CGに見えないと思います。ド派手な爆発やド派手な破壊などは時間も予算もかかるし、手間暇のかかるCGですが、これをやれるのは、レベルが高いと言えると思います」(デジタルハリウッド大学 小倉以索准教授)

こうした「CGにお金と時間をかけて勝負するドラマ」が制作されることによって、ドラマ CGを目指すクリエイターの卵たちが増えるかもしれない。そういう意味でも『日本沈没』が、今や「沈没しかかっているかもしれない」日本のドラマCG業界の救世主となるのではないかという期待感は大きいようだ。

では、日本のドラマCGが、世界で戦っていくためにはどのような課題をクリアすれば良いのだろうか? 専門家たちはこんなことを指摘する。

「海外では、巨大モニターなどにCGを写し、それを背景にして撮影を行うバーチャルプロダクションが流行りだしています。日本でも少しずつ出来るところが出始めているけれど、従来の制作フローを変えて対応する必要もあるので、日本のドラマで使われるようになるのはまだ先になりそうな気がします。

また最近の画像処理ソフトは、AIを使って写真から人物をきれいに消したり、若返らせたり、風景の季節を変えたり出来るようになってきているので、AIには大変注目しています。それにより作業効率が大きく改善されて、同じ時間でよりクリエイティブで完成度の高い映像が生み出せると期待しています」(前出の東京キー局ドラマCG担当)

世界でも取り入れられつつある新しい技術を活用することで、日本のドラマCG業界に活路が見出せるかもしれないという。さらに、技術的な面に関してはこんな見方もある。

「日本では、NHKの美空ひばりさんを蘇らせたCGは静止画としては良いのですが、動き出した途端に『不気味の谷』現象で違和感を感じるCGになってしまいました。こういったリアルな人間をCGで表現する技術は、CG技術の最高峰であるハリウッド映画や海外ドラマに比べればまだまだです。

一方で、『今際の国のアリス』では渋谷をフルCGで再現したり、『全裸監督2』でのF1など実写にしか見えません。また、『日本沈没』の島の崩壊も高いレベルのCG表現だと思います。よって、分野によっては世界レベルなものもあれば、まだまだの部分もあるというのが現状ではないでしょうか」(小倉准教授)

そして、CGのみならず全体的にクリエイティブのレベルを上げなければならないと、小倉准教授は指摘する。

「この間、とあるテレビ局のCGディレクターさんにお話を聞いたところ、『クオリティを上げないとヤバい、という危機意識が少ない。演出・撮影・照明・編集・VFX含めて全体的な質を高めないと、例えばリアルな恐竜のCGが作れても“作品としてのジュラシックパーク”は日本では作れない』と問題点をおっしゃっていました。

私自身も以前に、とある番組でCGを一生懸命作ったのに、ほとんど使ってもらえなくて悔しい思いをしたことがあります。CGの技術もさることながら、すべてのクリエイターの意識改革があれば、もっと良いものを作れそうな気がします。もちろん、作業量に見合う報酬が支払われることは必須条件ですが」

小倉准教授が話を聞いた「とある局のCGディレクター」はこんなことも話していたという。

「ボクがスーパーバイザーとしてやっている作品を、同じ予算で別の人がやっても同じクオリティは出せないと思います。そこにはボクのこだわりや、人脈、ノウハウ、見る目、などいろんな要素があります。なので、もちろん予算は重要ですがまとめる人の力も重要だと思っています。ハリウッドみたいにもっと大きなチームになると、トップの比重が薄くなると思いますが、日本の現状だと、トップによりクオリティの変動が大きいと思っています」

つまり、CGのクオリティだけを追求するのではなく、CGを取り巻く他の技術の向上と、「CG制作というプロジェクトを理解し、それを統率していくリーダーの存在」が日本のドラマCGのレベルを上げるために必要だというのだ。

いずれにしろ、『日本沈没』のような、ハイクオリティで大掛かりなCG に依存するドラマが制作されることによって、日本のテレビマンたちや視聴者のみなさんが、より「CGというものの大切さ」に気づいていくことで、日本のドラマCGのレベルは一層上がっていくのだと思う。

世界で戦える日本のドラマ、日本のCGを目指すための大きな足がかりに『日本沈没』がなってくれれば良いな、と私は期待している。

  • 取材・文鎮目博道/テレビプロデューサー・ライター

    92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。近著に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)

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