性的マイノリティを描く漫画『ラストジェンダー』が伝える愛と自由 | FRIDAYデジタル

性的マイノリティを描く漫画『ラストジェンダー』が伝える愛と自由

「自分のなかの偏見を越えて」作者・多喜れいさんインタビュー/1~3話試し読みも公開!

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『ラストジェンダー ~何者でもない私たち~』(作:多喜れい/『イブニング』連載中)には、ひとが生きる苦しさや喜びがつまっている

「漫画家になる前は、アパレル店員だったんです。いろんなお客さんと接してきたなかで、忘れられない、今も心に引っかかっている出来事があって…」

漫画家の多喜れいさんは、そう言ってまっすぐにこちらを見た。

多喜さんは、さまざまな「セクシャルマイノリティ」が登場する話題のマンガ『ラストジェンダー』を描いている。

青年コミック誌『イブニング』に連載中の『ラストジェンダー ~何者でもない私たち~』。この作品の舞台は、ハプニングバーだ。ここに集う人々はみな、どこかに「ふつうではない」背景を抱えている。出会いを求めてハプバーにやってくる彼ら彼女ら……ときには性別を超えた「ひと」が交錯するドラマが展開するこの意欲作に、漫画の世界を超えて注目が集まっている。

連載開始から約1年。まもなく第2巻が発売になるこの作品、読者は男性に限らず、また年代も幅広いのだという。

「『少数派=マイノリティ』を描きたかったんです。なぜかって、自分のなかにある『モヤモヤした気持ち』を、作品にして、解消というか、形にしたくて。

かつて店員として働いていたショップは、若い女性のお客様が多かったんですが、ある時、五十代くらいのスーツ姿の男性客がいらして。花柄のスカートをご覧になっていたんです。『贈り物ですか』ってお声がけしたら、その方がちょっとためらうように小さな声で『試着してもいいですか?』ってすごく申し訳なさそうな感じで仰って。

正直『えっ? 着るの?』って驚いてしまって。でも、もちろんお客様なので試着室にご案内しました。けど、私の『えっ?』っていう反応は伝わってしまったと思うんです。結局その方は買わずに帰られてそれっきりだったんですが…。お帰りになった後、すごく申し訳ないことをしてしまったなと。きっと、勇気を出してお店にいらしたんだと思うんです。

無意識の差別ってこういうことをいうんだろうな、って。自分のなかにそういう偏見があったことにすごいショックを受けました。レディスのお洋服を着てみたいという男性がいても、いいはずなんです。私はショップ店員として、フラットに対応すべきだったなと反省しました。

この時のことがずっと引っかかっていて、作中に出てくるマリーというキャラクターは、その方がモデルです。そういう過去の自分の気持ちとも向き合いながら描いていました」

登場人物のひとり「マリー」は、身体的には男性だけれど、心は男性7割・女性3割の「両性」で、メイクやロリータファッションを楽しむという設定。外見は「できる管理職」ふうだし、実際にそういう立場にある。妻に本当のことを打ち明けられず、ハプニングバーでだけは「自分」を出せるというキャラクターだ。

妻を愛しているけれども…。「両性」のマリーにとって、「BAR California」は自分の女性性を解放できる大切な居場所。マリーとその家族にスポットが当たる4話は必見

多喜さんの造形する「できる管理職≒マリー」は、そのビジュアルも印象的で、縦巻きロールの髪、フリルたっぷりの可愛らしいドレスをまとった「マリー」の、メイクを施した顔は、しっかり「管理職」の顔に重なる。その画力、表現力にも驚かされる。

マリー以外にも、トランスジェンダーでバイセクシャルの蘭、人を好きになる際に性別を問わないパンセクシャルの真生など、多様なジェンダーやセクシャリティを持つキャラクターたちが登場する。

「登場人物たちは、実在の人にヒントを得ています。私が今まで出会った人の実体験も、少し反映されているかもしれません。

私自身は、恋愛感情がちょっと薄いな?と自分で感じていて。『友だちとして好き、人として好き、異性として好き』の境目が曖昧なんです。良い人だなと思ったら好きなのか? それとも手を繋ぎたいって思ったらもう好きなのか? どこからどこまでが好きになるの?って自分のなかにハテナがいっぱいあります。

そしていろんな人の話を聞くなかで『絶対に自分はそうならないとはいいきれない』と思うようにもなってきて。『一般的』とか『ふつう』という大多数の枠からはじき出されてしまった『少数派』に属する人々の話を描きたい、と最初に思っていたのはそんな気持ちも関係していたかもしれません」

読み切りで発表した時からキャラクターへの共感の声が多く寄せられていたという本作。「この漫画を読んで自分が『パンセクシャル』だとわかった」「自分はこれにあたるのかもと思った」といったコメントも多いと担当編集は言う。

しかし作品では「身体や性は、その人の一面でしかない」「知識だけで個人の人格を決めつけてほしくない」というメッセージが、繰り返し発信される。

「この作品で描かれていることがすべてではないと、伝えたいんです。こうすべき!こうあるべき!という決めつけや押しつけはしたくないから」

多喜さんはそう強調する。

「自分がなんなのかわからないという気持ちや、自分がどこに属しているのかわからないという気持ちって、マイノリティだけでなくマジョリティも持っているんじゃないかと思うんです。

服を考えるときでも、私って清楚系? 可愛い系? とか悩む気持ちってありますよね。いろんなジャンルやカテゴリーがあるのに、そのどれかひとつの枠にはめたがってしまう。

セクシャルマイノリティも、いろんな言葉がどんどん生まれているなかで、例えばひとくくりに『同性愛者』っていっても、歩んできた人生もそれぞれ違うし、性格もまったく違うと思うし。自分の肩書きや位置づけみたいなものを、自分自身で無理にラベリングしたりカテゴライズしたり、『決めなくちゃいけない』ってなるのは違うんじゃないかなって。

もちろん、自分がどれにあたるのかわかったことで安心できたり、自信に繋がるということだってあると思う。でも、ジェンダーやセクシャルのカテゴリーだけがその人のすべてでは絶対にない、と思いながら描いています。

これからもっともっと世の中は自由になっていくはずと思っているので、皆がそういう『自分らしさ』や『あなたらしさ』を大事にできるようになればいいなって。自分もそうありたいですし」

ネーム(話作り)の段階でも、「この人物はこういう行動や言動はしない」「いや、するかもしれない」「したほうがいい」「それはあり得ない」と担当編集と激論を交わし、「決めつけている自分」と葛藤しながら制作しているという多喜さん。

「作品もキャラクターも自分がクリエイトしたものだからどんなに排除しようとしても、私の意思が入ってしまいます。けれどもこのキャラはこういう人物だと決めつけたら、作品の自由さがなくなってしまうので、常に登場人物との対話を繰り返しているんです」

今、「多様性を尊重」という言葉をひんぱんに目にする。

「多様性を尊重するって、今、目の前にいる人をちゃんと見ること、多様な考えを理解する心をもつということなんじゃないかと感じています。現実でも漫画のなかでも、それを大事にしていきたいです」

ハプニングバー「BAR California」に集う人々は、性別も性癖も立場も超え、この店でのひと時を楽しんでいる。ここでしか本当の自分をさらけだせない人も……
ハプバーに初めて足を踏み入れた真奈美。「こういう汚れた場所に来れば、自分はまともだと思えると思った」と言う真奈美に、常連客の蘭がバイセクシャルだと打ち明けて……

多喜れい:2018年、『社畜とギャルが入れ替わりまして』(マガジンエッジ)でデビュー。現在『らぶキョ ~家庭教師が××すぎて勉強どころじゃない~』をマガジンエッジにて連載中。11月22日『ラストジェンダー ~何者でもない私たち~』第2巻が発売予定

 

『ラストジェンダー ~何者でもない私たち~』2巻 書影

ハプニングバー「BAR California」。ここは性別・性癖・性的指向も異なる人々が集まる場所。
人々は「何か」になるためにこのバーを訪れる――。

人の数だけセクシャリティがある。
性と愛にまつわる珠玉のオムニバスストーリー!

『ラストジェンダー ~何者でもない私たち~』第2巻は11月22日発売!

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『ラストジェンダー ~何者でもない私たち~』1~3話を試し読み!↓↓

  • 取材・文大門磨央

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