電車内の犯罪を防げ!不審者検知「ディフェンダーX」のスゴイ実力 | FRIDAYデジタル

電車内の犯罪を防げ!不審者検知「ディフェンダーX」のスゴイ実力

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自爆テロ型犯罪…不審者を検知する「ディフェンダーX

11月8日、九州新幹線の車内で男が液体を床にまき、火をつけるという事件が起きた。10月31日のハロウィーンの夜、東京都調布市の京王線国領駅付近を走行中の車内で、仮装した男が刃物で乗客を切りつけ、液体をまいて火をつけるという事件が起きている。九州新幹線の犯人は、この京王線での事件を真似したのだと言っている。11月6日、東西線門前仲町駅付近で刃物男が出現。電車を利用する人々を恐怖に陥れている。

ハロウィンの夜、京王線特急内で起きた乗客17人刺傷事件。逮捕された服部容疑者が、犯行前に渋谷の街中を歩く姿は数台の防犯カメラに記録されていた(写真:アフロ)
ハロウィンの夜、京王線特急内で起きた乗客17人刺傷事件。逮捕された服部容疑者が、犯行前に渋谷の街中を歩く姿は数台の防犯カメラに記録されていた(写真:アフロ)

こうした事件を防ぐ手立てとして脚光を浴びているのが「ディフェンダーX」だ。

人間は緊張すると、顔の皮膚に精神的なストレスによる一過性の“ふるえ”が現れる。「ディフェンダーX」は、その“ふるえ”を検知するソフトウェアだ。検知すると、画面上でその人物が赤い枠で囲まれる。ソ連時代のロシアで軍事用に開発されたもので、2014年に行われたソチオリンピックではすべての入場ゲートに設置され、期間中約2600人を検知し、そのうちの92%が危険物所持や薬物所持、あるいは入場券をもたない不正入場者だったという検証結果も得られている。

国内でも2018年の伊勢志摩サミットをはじめ、現在では小売業では万引きや盗撮の防止に、食品会社では異物混入の防止、製造業では物品の持ち出し防止、倉庫業では商品の抜き取り防止など、さまざまな業種で導入されている。東京オリンピックでも、観客を入れて自転車競技が行われた静岡・修善寺駅で導入された。

「日本では民間の警備会社や企業が導入しているようです。鉄道会社も導入すればいいのにと思います」

こう言うのは、日本人で初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了し、立正大学で犯罪学を教えている小宮信夫氏。

2013年に発生したボストンマラソン自爆テロ犯人映像の解析結果。リアルタイム監視映像だけでなく、過去の録画映像からも不審者の検知することが可能だという(ELSYS JAPAN株式会社のHPより)
2013年に発生したボストンマラソン自爆テロ犯人映像の解析結果。リアルタイム監視映像だけでなく、過去の録画映像からも不審者の検知することが可能だという(ELSYS JAPAN株式会社のHPより)

自殺のサインや困っている人を見つけることも…

「『ディフェンダーX』は不審者事前検知システムとも呼ばれていますが、僕は検知された人を『声かけ対象者』とするのがいいのではと考えています。人間はさまざまな理由で緊張します。何か困っていることがあるのかもしれないし、駅であれば、これから線路に飛び込もうとしているのかもしれない。それを人間の目で見極めるのは不可能。だけど、『ディフェンダーX』を使って、赤く囲まれた人がいたら、警備員や駅員が『大丈夫ですか?』『何かお困りのことがあるんですか?』などと声をかける。それだけで自殺や犯罪を防げる可能性があるんです」

ところが、新しいテクノロジーの導入を提案すると、必ずテクノロジー懐疑派が反対するという。理由は大きく分けて2つ。1つは「人権侵害になる」ということ。

「今、防犯システムの1つとして、顔認証システムが話題になっていますが、こちらのほうが、よほど人権を侵害する可能性があると思います。というのは、認証するためには、あらかじめ顔の画像を入れておかなければなりません。だれの顔を入れておくかといえば、前歴のある人でしょう。鉄道会社が防犯のために、犯歴のある人の顔を同意を得ることなく使って問題はないのでしょうか。

対して、『ディフェンダーX』は、その場の生理現象をチェックするだけ。何かと照合することはありませんし、データを保存することもないので、人権を侵害することはありません」

DEFENDER-Xの原理。①、②、③の情報を基に解析し不審者の検知を行う(ELSYS JAPAN株式会社のHPより)
DEFENDER-Xの原理。①、②、③の情報を基に解析し不審者の検知を行う(ELSYS JAPAN株式会社のHPより)

テクノロジー懐疑派が反対する理由は、もう一つ。「効果がないのでは」ということ。ソチオリンピックでは一定の効果があったようだが……。

「理論的にはあると思いますが、実際はわかりません。なぜなら、まだ鉄道会社では導入されていないから。僕は、人権を侵害しないのであれば、やってみればいいと思います。それでデータをとってみて、効果がないのであれば導入しなければいい。最初から『効果がない』と決めつけるのは科学的ではありません。新薬を開発するときも、安全性が確認されたら、次に有効性を確認するために治験に回します。それと同じです」

警察署でも、導入の動きはない。というより、話題にさえ上がっていないのではないかと小宮氏は言う。

「最新テクノロジーへのキャッチアップに遅れをとっているのではないでしょうか。アメリカではパトロールする警官は一人1台タブレットを持っていますが、日本では交番にパソコン1台入れるのもたいへん。情報が洩れたらどうするんだというわけです。しかし、リスクが考えられるなら、それを防ぐことを考えればいい。火を発明したから文明を築くことができました。

反面、火を使うことで今でも放火や失火のリスクはありますが、だれも火の使用を禁止せよとは言いません。最初から『リスクがあるからやらない』と言っていたら、新しいものは世の中に出てきません」

争いは、少ないものを奪い合うことから始まる。テクノロジーが進化すれば、たとえば水不足だって解決し、水をめぐる争いはなくなる。平和に、幸せに暮らすためにもテクノロジーは必要だと、小宮氏は言う。

その一つが「ディフェンダーX」。犯罪や自殺を防ぐ効果があるのなら、導入を一考してみてもいいように思う。

小宮信夫 立正大学教授(犯罪学)。社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。テレビへの出演、新聞の取材、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

  • 取材・文中川いづみ

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