自分のウーバーイーツ体験を映画に!若手監督が描いたリアルな貧困 | FRIDAYデジタル

自分のウーバーイーツ体験を映画に!若手監督が描いたリアルな貧困

全国順次公開中のドキュメンタリー映画『東京自転車節』が話題沸騰中。ウーバーイーツ配達員として働いた体験を通して伝えたかったものとは

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『東京自転車節』を撮った青柳監督

異色のドキュメンタリー映画『東京自転車節』がジワジワと人気を集めている。今年7月10日に「ポレポレ東中野」(東京)で公開されて以降、大阪や愛知で順次公開され、10月に入ってからは神奈川、埼玉、兵庫とさらに館数を伸ばしている。

コロナ禍で職を失い、貧困層となった自らの実体験を描き出したのが、映画監督の青柳拓さん(28)だ。山梨から東京に出稼ぎに出て、ウーバーイーツドライバーとして過ごした時間を、携帯電話での撮影をメインとした簡易機材のみで撮りあげた。映画を通じて伝えているのは、「現代を生きる若者のリアルな貧困」だ。

「私の年収はコロナ前でも100万円弱。それがコロナでゼロになりました。それでも自分のことを貧困層だという自覚はまったくないんです」

コロナ禍のなか、「若年層の貧困」がメディアに取り上げられる機会が増えた。しかし青柳さんは、表面的な報道を見て違和感を覚えることがあった。構造的な問題をストレートニュースとしてではなく、いかに世間に伝えるか。そこにメガホンをとった理由も凝縮されている。

「貧困にも2種類あると考えていて、一つが金銭的な貧困。もう一つが精神的な貧困です。その二つが重なるほうが多いのが今の日本の現状でしょうが、この二つは分けて考えるべきだと思う。幸い私はやりたいことをやれており、確かにお金はないですが、精神的には豊かだと自覚があるんです。

だから自分のことを、貧困層と思われることには抵抗がある。むしろこの状況はネタになる、と思ってポジティブに捉えてます。そんな人間を貧困というカテゴリーに当てはめていいのか。でも世間からそう見られるなら、その状況を利用して映像で世に訴えるという手法を選びました」

山梨県市川三郷町に3人兄弟の末っ子として生まれた青柳さんは、日本映画大学に進学。だが、父が体調を壊し一家の家計は苦しくなったという。大学時代には550万円の奨学金を借りて何とか卒業するが、1年間は学費を捻出するためにバイトに明け暮れて、休学を余儀なくされている。

もともとはフィクション映画を専攻していたが、途中からドキュメンタリーへと畑を変えた。その理由を聞くと、在学中に自分の才能のなさに絶望したからだと回顧する。

「同級生と比較しても、自分の脚本がいかにつまらないか痛感したんです。上には上がいるし、逆立ちしても敵わない、と。ただドキュメンタリーだと題材が面白ければ、才能のなさをカバーできると考えたんです」

在学中に撮った『ひいくんのあるく町』は、同校の卒業制作作品としては初となる劇場公開作品となった。23歳にして商業作品の監督となったが、結果的にみればその栄誉が自身を貧困に落としれたかもしれない、と青柳さんは当時を振り返る。

映像関係の会社から就職の声もかかったが、映画公開の準備などに追われ、就職活動する時間が取れなかった。卒業後は山形の実家に帰り、時折入る単発の映像の仕事を受けながら、運転代行のアルバイトや居酒屋など不定期で働いた。だが、新型コロナウイルスの影響で、これらの仕事がすべてゼロになったのだ。

奨学金の返済に苦しむ人々を描き、自身もマグロ漁船に乗り返済を目指すドキュメンタリー作品も動き出していたが、コロナをきっかけに企画が止まった。地元では仕事がまったくなかった。最後の手段として、出稼ぎでウーバーイーツドライバーとなり生活費を稼ぐということを考えついた。

ウーバーイーツドライバーは稼げる、というニュースなどを目にしていたが現実は厳しかった。当初は1日10時間、50キロ以上を走り7600円しか稼げなかったこともある。慣れと共に1万円程度は稼げるようになったが、決して割のいい仕事とはいえなかった。昨年4月頃から、職を失ったフリーターやテレワーク中の会社員が配達員の仕事になだれ込んできたのだ。競争は激化し、稼ぎは減っていく。それでも、青柳さんは「強い中毒性があり稼ぎが少なくともハマっていった」という。

『東京自転車節』を撮った青柳監督
『東京自転車節』を撮った青柳監督

「一言でいえば、“リアルスマホゲーム”みたいな感覚です。決められた数の配達をこなすことで収入が増える『クエスト』という仕組みもあり、あと一件、もう一件という沼から抜け出せない。何よりスマホ一台で出来る気軽さがあり、お金もすぐ入るから病みつきになってしまって。ただ、事故などが起きても補償もないし、すべては自己責任。本質的にウーバー側はノーリスクで、ドライバー側は搾取され、踊らされているという構造なんです。

でも、それに気づいている人は、たぶんウーバーイーツをしないんです。便利で時代に合ったビジネスですが、こういうシステムが根付いていけば、人と人との距離が離れていき、孤独を生み出し、それが結果的に貧困に繋がっていくという危惧もあった。じゃあどうすれば踊らされるのではなく、踊れるか、ということを自分の経験を通して映像で見せたかった」

東京では部屋を借りる資金もなく友人宅を渡り歩いたが、時には路上や歌舞伎町のネットカフェや個室ビデオ店で寝泊まりすることもあった。その際には、現代社会の縮図を感じたという。

「炊き出しをもらうことも考えたんですが、最後で自尊心が働き受けられませんでした。当時個室ビデオでは、30分100円の利用料金で、牛丼やカレーが食べ放題という取り組みがあった。これがかなりライフラインになりましたね。若者やおじさんが列をなし、黙々と牛丼とカレーを平らげて帰っていくんです。面白いのは100円払っているという意識があるから、誰も『ありがとう』と言わないことでした。でも、炊き出しのある公園に行くと、若い人はいない。そんな線引きがくっきりと見えたのも興味深かった」

映像は主に自身のiPhoneで撮った。セルフドキュメンタリー作品ゆえに、自撮りが多いYoutuberの撮影方法を参考にしたという。そこにも青柳さんなりのメッセージが込められている。

「ウーバーイーツドライバーとして東京の街を走って気づいたのは、どこを切り取っても切実さが映り込んでいたことです。誰もいないのに『客引きは辞めましょう』アナウンスが流れる渋谷や新宿。『三密は避けて』と、小池都知事がオーロラビジョンで話すところに満員電車が走っていたりと、あべこべなんです。

そういう時代だからこそ、若者の社会に対する接し方も変わってきて、僕のような若造でもiPhone一つで表現できたりもする。言い方を変えれば、誰にでも表現できるチャンスがある時代なわけです。YouTubeなんかその最たるものですよね。僕の仕事を時給換算すると600円以下でした。それでも人間的な豊かさがあると思い込み、周りに貧困と言われてもピンとこないところがやっかいですが(笑)」

自身の借金は一向に減る気配がない。それでも青柳さんには貧困という言葉は当てはまらないという気がするのだ。気鋭の映像作家は、次回作に向けて東京へ移り住み、題材探しのために街を走る。

『東京自転車節』を撮った青柳監督
  • 写真水口屋フィルム/ノンデライコ 提供

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