『なかよし』人気漫画が描く「緊急事態下の青春と未来」
『どうせ、恋してしまうんだ。』のネットにはない青春/1~2話試し読みも公開!
「昨年春、緊急事態宣言で学校生活が突然ストップしました。卒業式も入学も、部活もなにもかもが消えてしまった。すごくショックでした。10代のころの私は部活命だったので」
『どうせ、恋してしまうんだ。』の作者、満井春香さんは、執筆のきっかけをこう言った。
「もともと高校生の話を描こうと考えていました。水泳部を舞台にと、実際に水泳の大会を取材したりして構想を練って。ちょうどそのころ、新型コロナウイルスが猛威を振るい始めました。日常がどんどん失われていく、奪われていくなかで、コロナ禍の小中高生を応援する漫画にしたいという気持ちが強くなったんです」
雑誌『なかよし』に連載中の『どうせ、恋してしまうんだ。』は、漫画家志望の高校2年生・水帆(みずほ)と、幼なじみの男子高校生4人との青春の日々を描いた作品だ。
少女と少年たちの恋愛のドキドキ&青春のキラキラが詰まった、まさに王道青春ラブストーリー。けれど、水帆たちの生きる世界では「未知の感染症」が流行していて、インターハイや修学旅行など高校生活のイベントができなくなっているという設定だ。
「私自身、小中高とバレーボールに打ち込んできたので、部活ができないうえ、大会が中止になって、ものすごいショックです。部活動は生活のすべて、人によっては人生の目標ですから。
だから、緊急事態宣言下で、部活や学校行事がすべて中止になった小中高生たちのことを考えたとき、気が気でなかったし心が痛みました。部活動の目標も、自分の力を試すような機会もなくなったのに、気持ちを発信する場もない。報道でもあまりフォーカスされないし、自分たちの言葉で語れる機会もないと感じたんです。
担当編集さんと『きっと世の中に出てきていない切ない気持ちがたくさんあるはずだよね』と話していくなかで、今の読者たちの状況を無視してキラキラした青春ストーリーを描くことはできないなと思いました。相当悩みましたが、『未知の感染症が流行している』という設定で描くことを決意しました」
現実ともリンクする過酷な状況のなかで生きる登場人物たち。しかし作中では、前向きに精一杯「今」を楽しむ水帆たちの姿が生き生きと描かれている。「日常を大切に描きたかった」と満井さんは語る。
「学校生活だけが人生の全てじゃないって大人は簡単に言っちゃうけれど、でもそれって大人になっていろいろを経験したから言えることだよなぁ、と。こんな状況だからしょうがないっていうのも正論だけど、当事者の子たちからしてみると『しょうがない、じゃ済まなくない?』って。
でも、そんな苦しい状況のなかにも、切ないことややるせないことだけじゃなく、人の優しさや温かさを実感するような出来事とか、かけがえのない瞬間というのがきっとある。だから感染症が流行しているという背景ですが、それが物語の中心ではなく、水帆たちが生きる日常を大切に描くことで『こんな状況だけど、青春することだってできる』という前向きなメッセージを送りたかったんです」
作品は、大人になった2030年の水帆が、2020年の高校生だった夏を振り返るという構成。感染症の流行という背景、時間を行き来する設定、さらにキャラクターにも仕掛けがあり、かなり挑戦的なのだ。
親子で読まれる作品に
連載中の『なかよし』は、もともとローティーン向けの漫画雑誌で創刊67年。満井さんのように「子どものころ夢中だった」という世代が作家になっている。2世代、3世代に渡るファンも多い。近年は、過去の人気作品の「リブート(※注)」を手がけ、当時の読者が大人になって「戻って」きているという。掲載誌のそんな活況もあり、この意欲作は大きな注目を浴びている。
「自分たちの気持ちを代弁してくれてありがとう、という中高生からの声に励まされます。また、親御さんの世代から『自分の子どもも、部活がなくなって輝月たちと同じ状況。共感する』『親子で読んでいます』という声もいただいてます。小学生からは『水帆になりたい!』っていう直球の感想や『みずほ、がんばれ!』って手紙をもらって…すごく嬉しいです。
私はもともと『なかよし』の愛読者で、小学生の頃からずっと読んでたんです。社会人経験ののち、漫画家デビューしました。私がこの作品で『なかよし』で連載と決まった時は夢のようで…編集長さんは本気で言ってるのかな…!? と思ったんですが、幅広い世代の読者さんに読んでもらえてほんとにありがたいです」
「主人公1人に対し、イケメン幼なじみが4人」という胸きゅんが過ぎる設定も、小さなお友だちからお姉さん、お母さん世代まで幅広い読者の心を掴んでいる要素のひとつだろう。
「私自身は異性の幼なじみっていなくて、憧れの気持ちがありました。輝月たち男子キャラの4人にはそういう自分の憧れや夢をギュッと詰めています! 幼なじみって恋愛漫画では王道の設定だと思うんですが、それが4人も!って、贅沢ですよね。4人で、魅力的な男子の要素をほぼ全部カバーしてます」
4人の男子キャラが揃うシーンはたしかに圧巻だ。
「自分の少女時代を振り返ってみると、将来や未来のことってなんだか漠然としていたし、20歳の自分すら想像できなかった。まして、今の10代の人たちは、私たち大人が経験してない、想像もつかなかった現実を生きています。ネットで、たくさんの情報が入ってくるでしょう。でも、ネットやSNSで世界を覗いてみても、それで自分たちの未来の可能性はわからないんです。
だから『ネットで検索できない未来』を描きたいんです。青春恋愛漫画というフィールドで、日常のリアルと同時に、その向こう側にあるはずの明るい未来や希望を描いていきます」
※注:リブート=再起動。過去の作品をベースに、新たな視点で新しい物語を作る。雑誌『なかよし』では『東京ミュウミュウ オーレ!』や『マーメイドメロディーぴちぴちピッチaqua』など、多くのリブート作品が掲載されて、人気をよんでいる
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- 取材・文:大門磨央