元「マネーの虎」が明かすコロナ禍のラブホテル経営「苦境の真相」 | FRIDAYデジタル

元「マネーの虎」が明かすコロナ禍のラブホテル経営「苦境の真相」

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自身の経営するラブホテルの一室で。「ラブホテル業界に市東あり」と言われる
自身の経営するラブホテルの一室で。「ラブホテル業界に市東あり」と言われる

群馬県道2号線を走る白いヴェルファイアの周囲には、のどかな田園風景が広がる。車窓から注ぐのは、小春日和のやわらかい日差し。だが、運転する市東剛(62)の表情は厳しい。社長を務めるラブホテルグループ(『Hotel SERA Group』)の経営状況が、新型コロナウイルスの影響を受け思わしくないのだ。市東がハンドルを握りながら憤る。

「ビジネスホテルや旅館が支援金を得て、我々に何の補助もないというのは、どう考えてもおかしい……。政府が『風俗業はけしからん』という主観で、物事をとらえているからでしょう。私たちは違法な仕事をしているわけじゃない。国のルールにのっとって、合法的に経営しています。職業差別を受けるのは、納得がいきません」

ヴェルファイアは県道をはずれ、市東が経営するラブホテルへ。群馬県伊勢崎市内にあるこのホテルは、ビルではなく、敷地内に1階建ての小屋が整然と並ぶ「ワンルーム・ワンガレージ」というタイプだ。廊下やエレベーターなどで他の客と接することがないので、人気が高いという。事務所で、「コロナ不況とラブホテル経営」について市東に話を聞いた(以下、発言は市東)。

「コロナの影響で、客足は最大5割、売り上げは3割減りました。国は何の支援もしないのに、税金は払えという。にっちもさっちも行かない状態です」

市東は、かつて「虎」と呼ばれたラブホテル業界で有名な経営者だ。0110月にスタートし、視聴率20%越えをたびたび記録した人気番組『¥マネーの虎』(日本テレビ系。以下『マネーの虎』)にたびたび出演。起業家が事業計画を説明し、「虎」である投資家(経営者)が出資の可否を判断する投資バラエティ番組である(04年3月に終了)。

元はピンク・レディーのバックバンド

高校卒業後はピンク・レディーのバックバンドとしてギターを担当した
高校卒業後はピンク・レディーのバックバンドとしてギターを担当した

市東は、いかにして「ラブホテル界の寵児」となったのか。まずは、業界に入るまでの経緯を振り返りたい。

「私は千葉県佐倉市の出身です。高校時代からギターにのめりこみ、卒業後はレコード会社のオーディションに合格。ピンク・レディーのバックバンドをやっていました。ただ、仕事として続けていくつもりはなかった。技術の切り売りをしているような気がして……

1年ほどで辞め、ハンバーガーショップのアルバイトを始めたんです。そこの社長が熱心でね。私のようなバイトにも、会社運営について熱っぽく話してくれた。それからです。経営に強い興味を持ち始めたのは」

市東は経営者として成功するため、近未来にマッチした業種について考えた――。これからは車社会。オートメーションが進み、人と人が接する機会は少なくなるだろう。不動産に投資するからには、24時間365日稼働させるのが理想だ。できればチェーン店化もしたい……

「頭に浮かんだのが、米国の郊外にあるモーテルです。ラブホテルなら車移動や、自動精算システムとの親和性も高い。365日営業で、軌道に乗れば店舗も増やせるだろうと考えたんです」

市東は23歳の時にラブホテル運営会社に入社し、支配人や事業部長としてノウハウを学ぶ。起業し独立したのは、34歳の時だ。

「まず探したのは、経営の傾いた地方のラブホテルです。当時はバブル崩壊直後。不良債権1歩手前のホテルが、いくつもありました。責任の多くは経営者にあった。バブル経済の上にあぐらをかき、タオルや歯ブラシなどを業者の言い値で納入していたんです。

私は20代の時に学んだノウハウを活かしコンサルタントとして、納入品を適正価格に抑えムダなカネを使わないよう、社長たちにアドバイスした。すると、1ヵ月で収益が改善。それだけの手腕があるならと、どんどん経営を任させるようになりました」

「怒って、怒って」

『マネーの虎』に出演していた40代前半のころ
『マネーの虎』に出演していた40代前半のころ

市東は、徹底的にムダを省いた。その最たるものが、自社で請け負った内装や電気工事だ。

「ビル1棟の内装を建築家やデザイナーに頼めば、数億円かかることもあります。自分たちでやれば、1000万円でできますよ。なにも立派な内装にする必要はない。利用者が『ガマンできる範囲』なら、素人仕事だろうと経費削減を優先すべきでしょう。

電気経路も独学で学びました。枕元の電気スイッチの設置を外注すると、数十万円は必要となる。自分でやれば、パネル購入代の5000円ですみます。自前にこだわり、その分ホテル代を安く設定。他社の宿泊代が7000円から8000円のところ、ウチは4000円ほどに抑えられています」

従業員には、内装や電気の知識を得るよう指導。物件の買収などで銀行から10億円ほど借り入れていたが、コンスタントに年間3億5000万円ほど売り上げ、徐々に借金を返済した。店舗数も、群馬県を中心に最大7店まで増加。利用者は、年間8万組を超える。そんな時だ。『マネーの虎』から出演依頼があったのは。

「担当プロデューサーからメールをもらいました。バブル崩壊後に店舗を増やせた経営術を、番組にいかしてほしいと。他の出演者(『虎』と呼ばれる経営者)はAVメーカー『ソフト・オン・デマンド』の高橋がなりさん、ラーメン店『なんでんかんでん』の川原ひろしさんなど、キャラクターの濃い人たちばかりでした。

スタッフは、『虎』からの出資を願う起業家たちの話を聞いて『怒ってください、怒って』とせきたてます。起業家の話は、ほとんどが具体性がなく事業計画というより『思いつき』レベル。怒る以前に呆れてしまいました。私は、一人の起業家にも出資したことがありません。

『カネがあれば上手く行くという発想が間違っている』と発言すると、スタッフからは『それを言っては番組が成り立たないので……』と諫められました。そうした私のスタンスが、番組の方針と合わなかったのでしょう。結局『マネーの虎』に出演した期間は、1年に満たなかったですね」

出演後も、ラブホテル経営は順調だった。スマートフォンの無料アプリなど、最新システムを導入。シャワーが出ないなどのトラブルがあれば、誰が工事をし、進捗状況はどれぐらいか従業員で共有できるようにした。

「トラブル処理を業者にお願いすれば、『5日後にうかがいます』ということになるでしょう。その間、部屋を閉鎖せざるを得ず、収益があがりません。従業員が対応すれば、その日のうちに直る。合理的でしょう」

「風俗業はけしからん」

20年4月、市東は新店舗を出す予定だった。だが……。同時期にコロナが急激に感染拡大。計画がとん挫しただけでなく、客足は一気に途絶える。

「ウチは価格設定が低いので不況にも強いという自負がありましたが、コロナには勝てませんでしたね。通常、ヘビーユーザーは安いホテルを選びます。しかしコロナで外出もままならず、たまに利用するなら贅沢しようと、ユーザーが価格設定の高いラブホテルを利用するようになったんです」

国や自治体の方針も打撃となった。旅館業にはなんらかの補助が出ても、ラブホテルには支援がないのだ。

「例えば群馬県は宿泊者へ、『愛郷キャンペーン』として今年10月から1泊5000円ほどのキャッシュバックをしています。場合によっては、1000円以下で泊まれます。しかし対象はビジネスホテルや旅館。私たちにはなんの恩恵もないばかりか、ユーザーをとられてしまっているのが現状です。

何度か国会議員や県議にかけあいましたが、私たちの声は一般の人々に届いていません。議会で話題にしてくれる議員もいましたが、『風俗業はけしからん』などという理由で与党がとり合ってくれなかったそうです。コロナの影響を受けているのは、旅館業だけではない。私たちにはなぜ支援がないのでしょう。『生きる権利』を、職業差別で取り上げられるのは納得がいきません」

緊急事態宣言が解除され、ようやく客足は下げ止まった。しかし収益回復には、ほど遠い。現在は、昨年4月に新規開店するために用意していた預貯金を切り崩し、なんとかやり繰りしている状態だ。

「このままでは座して滅びるしかない。議員に頼んでいるだけでは、ラチがあきません。もう、自分でなんとかするしかない。今は私自身が、政治の世界に挑戦する準備を進めているんです」

コロナと政治に翻弄された、市東のラブホテル必勝法。「マネーの虎」は、自らの力で国や自治体の方針を変えようと模索している。                

(文中、敬称略)

  • 撮影山崎高資

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