獺祭・社長が明かす「飲食店への客足が戻らない本当の要因」 | FRIDAYデジタル

獺祭・社長が明かす「飲食店への客足が戻らない本当の要因」

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家飲みが習慣化!? 外飲みへの回帰は進むのか…

酒類の企画・開発などを手がける会社が11月3~5日、運営する酒のオンラインストアのメールマガジン会員約600人に対し「飲食店における酒類提供の時短要請解除」に関するインターネット調査を実施した。その結果を見ると、時短要請が解除されてから20時以降に飲食店に飲みに行ったと回答した人は29.1%。

一方、同じ調査で79%の人が「これから先も家飲みを楽しみたい」と答えている。

8割近い人が「これからも家飲みを楽しみたい」と回答。一方、「外で飲めるのであれば外で飲みたい」と回答したのは13.4%にとどまった(お酒のオンラインストア「KURAND(クランド)」のメールマガジン会員を対象にした調査より)

飲食店の時短営業と酒類提供制限の要請が解除され、これまで抑制されていた反動もあって飲みに行く人がある程度はいるのかと思いきや、依然として家飲み需要がこれほど高いとは。今後、外飲みへの回帰は進むのか――。

フードジャーナリストの三輪大輔氏は、こう見る。「現在、微アルをはじめ度数や果汁の濃さが細分化されたアルコール商品がコンビニやスーパーに並び、自分好みのドリンクを手軽に選べる環境が整っている。こうしたパーソナライズされた好みへの対応は飲食店にはなかなか難しいため、コロナ禍が収束した後も『居酒屋で飲むより家飲みで』という傾向が続くのではないか」。

コロナが日本の外食文化を変えるきっかけに…

全国の飲食店は疲弊し破滅の淵に立たされていると、コロナ禍で痛手を負った飲食店の苦境を世に投げ掛ける全面意見広告を5月24日の日本経済新聞に出し、大きな反響を呼んだ銘酒「獺祭」の蔵元、山口県岩国市にある旭酒造の桜井一宏社長は、今の状況に何を思うのだろう。リモートでインタビューすると、こんな言葉が返ってきた。

「コロナが日本の外食文化を変えるきっかけになるのではないか、そう感じています」 

さて、どういうことか。 

「私自身もそうですが、外食したり外でお酒を飲んだりする時間は、いわゆる非日常のひと時だったんだと気付いた人がいたんじゃないでしょうか。 

ウィズコロナの社会では、一回飲みに行くことが特別な行為と捉えられるようになる気がします。仕事帰りに飲みに行く場合も、生ビールが1杯390円なのか400円なのかで選択するのではなく、ちょっと特別な楽しい時間を過ごすために少々割高でもメシと酒がうまくて気持ちのいい店を選ぶ。そういうお客さんが増えていくことが、外食文化がより洗練されるきっかけになるんじゃないかと思うんです。 

そのためにはもちろん個人の所得が上がらないといけませんし、経済が回らないといけないわけですが。それがうまくかみ合っていけば、飲食業界はより良い方向に発展していくだろうと考えています」 

日本経済新聞の一面で「このままでは、飲食店がコロナ禍の最大の犠牲者に」と訴えた旭酒造の意見広告。大きな反響を呼び、SNSでも話題になった

飲食店を槍玉に挙げるような感染対策は正しかったのか?

もっとも、今はまだ客足の回復が鈍いため通常営業への復帰を見送る店も少なくなく、飲食業界に活気が戻ってきたとは言い難い状況のようだ。

ところで、旭酒造は獺祭を海外展開しているが、コロナ禍が旭酒造の業績に及ぼした影響はどうなのだろう。海外の飲食店状況とあわせて桜井社長に聞いてみた。

「昨年の4月、5月が特にひどくて、国内は前年比4割を切るところまで落ち込みました。

逆に海外では、コロナ禍で日本に来られないことから、日本酒の需要が非常に好調だったんです。ロックダウンしている国からもけっこう発注がありました。ロックダウンを終わらせるためのロードマップが、国民に示されていたからだと思います。この条件が満たされればテラス席での接客はOKにする、入店人数は何人まで可能にするといったように、制限が段階的に緩和されていった。だから飲食店は先を見越して発注できる。結果的に、飲食店は一気に疲弊することもなく回復していったんでしょう」

その点、日本はどうか。飲食を介した場のリスクが一番高いという考えに固執し、酒類を提供する店は悪とばかりに、国や自治体は飲食店に営業制限を強いてきた。

「去年の何もわからない状況で営業時間や酒類の提供を制限するのはしょうがない面もあったと思いますが、1年以上過ぎても制限策の中身は変わりませんでした。諸外国のように、感染者の数や感染対策の状況に応じたやり方があって然るべきでしょう。なぜ一度決めた方針を押し通すのか、疑問を感じずにはいられませんでしたね。 

感染を抑えるための対策と並行して、飲食店の閉店や倒産を抑えるための対策も必要です。意見広告にも書かせていただきましたが、0か100かではない。飲食店がしっかり生き残っていけるように、政府は対策をきめ細かく柔軟に見直すべきではなかったでしょうか」

帝国データバンクによると、コロナの影響を受けた倒産は飲食店が全業種中最多で、その数は390件(10月26日現在)に上る。国や自治体の飲食店を槍玉に挙げるような感染対策によって、飲食業界は多大なダメージを受けている。

飲食店への営業時間短縮や酒類提供制限の要請が全面解除となった10月25日の都内の繁華街。通常営業に戻ったものの、人出は決して多くはない(写真:アフロ)

来年からは借入金の返済も…協力金より飲食店が希望を持てる環境づくりを

今月11日、政府がまとめた飲食や旅行、イベントに関する行動制限の緩和案が明らかになった。緩和後は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域でも認証店であれば人数制限は不要で、酒類提供も可能。時短要請は宣言地域のみ認証店であっても午後9時までとなる。

国は大きな打撃を受けた飲食や旅行の回復に本腰を入れて乗り出すつもりらしい。しかし「第6波」への警戒からか、年末を迎える前から宴会の見送りを考える企業などもあるようだ。

東京商工リサーチが10月に全国の企業に対して実施したアンケート調査で「忘年会また新年会を開催するか」と尋ねたところ、70.4%の5760社が「緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に関係なく開催しない」と答えている。

今年も宴会需要は望めず、飲食店のダメージはさらに増しそうだ。

前出の三輪氏は「制限の解除によって飲食店は、これまで自治体が支給していた時短協力金を得られなくなる。飲食店としては売上を早期に戻していく必要があるが、コロナ前の70%まで戻ればいい方だと言われている。

しかも来年からは、金融機関からの借入金の返済が始まる。原材料の高騰などで食材の値上がりにも直面する。今後、倒産する飲食店が増える可能性が少なくないだろう。飲食店にとっては、これからが本当の正念場かもしれない」と予測する。

だが、桜井社長はこう見ている。

「確かに厳しい状況ですよね。でも飲食店さんの皆が皆、自治体からのサポートがずっと続くことを望んではいないし、ばりばり働いて借金を返したいと考えている経営者のほうが多いと思います。国や自治体には、皆さんが希望を持てるような状況を整えていくことに全力を注いでほしいです。 

私たちもこの1年半で意識が大きく変わりました。売り上げががくんと落ちて、旭酒造のお酒を飲みたいと思ってくださるお客さんにどれだけ支えられていたか気付かされました。コロナ禍で社員もそれを感じ、大事なお客さんのためにも絶対的な品質を追求しよう、前に進もうと思ってくれている。会社としては社員が働きやすい環境を作って、皆の気持ちに報いていかなければいけないと強く感じています。それがいい酒に結び付くよう目指していくつもりです」

国や自治体の対応を批判するより前を向きたい――それが桜井社長の今の気持ちなのだろう。

桜井一宏(さくらい・かずひろ) 旭酒造代表取締役社長、4代目蔵元。1976年、山口県生まれ。’03年に早稲田大学を卒業し、都内のメーカーに勤務した後、2006年に旭酒造に入社。製造部門での修業を経て’10年に副社長となり海外マーケティングを担当し、同社の銘柄「獺祭」の海外での評価を確立した。’16年、父の後を継いで社長に就任。

  • 取材・文斉藤さゆり写真アフロ

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