「川崎老人ホーム連続転落死事件」被告から届いた200枚の手記 | FRIDAYデジタル

「川崎老人ホーム連続転落死事件」被告から届いた200枚の手記

元施設職員 ’16年2月に逮捕され、’18年3月に一審で死刑判決 自供を翻して無罪主張を続ける中、まもなく控訴審も結審へ

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
今井被告から届いた手記の一部。黒く塗られている部分が目立つ。字は丁寧で、びっしりと書き込まれていた

「裁判の結果についてはなるべく考えないようにしています」

東京拘置所の面会室。事件発生後の直撃取材から、約5年半ぶりに対面した男は、筆者の「やはり死にたくはないですか?」との問いに、アクリル板の向こう側で、目を逸(そ)らして数秒考えるような素振りをした後、こう淡々と答えた。

「死については考えたことがないです。仮に(犯行を)やっていて、最悪のケース(死刑)になってもいいなら、こうして会ったりしません」

川崎市老人ホーム連続転落死事件の今井隼人被告(29)。彼は短髪に濃紺色のスウェット姿で面会に現れた。当時から印象的だった黒縁メガネをかけ、肌の血色は良く、またふっくらしたように映る。

「体重は20キロも増えました。単なる運動不足ですね」

控訴審の結審は迫っている。死刑判決が下るかもしれない。焦りはないのか。

「こう見えても、内心は焦っていますよ。当時は、取材攻勢や警察の捜査が私だけでなく家族にまで及び、私が(犯行を)認めれば家族が楽になるのではとの思いから、深く考えずに『3人を殺した』とウソの自供をしてしまったんですから」

神奈川県川崎市にある老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で悲劇は起こった。’14年11月から12月にかけて、入居者3名が相次いで転落死したのである。事件があったすべての日に、夜勤に就いていた職員は今井被告、ただ一人だった。

その今井被告は真っ向から関与を否定。警察も一旦は事故死として処理した。

ところが、’15年5月に入居者の指輪を盗んだとして今井被告が逮捕される。その後、同ホームの杜撰(ずさん)な介護実態が明るみに出て、警察は再び捜査を開始する。

そして、’16年2月15日。今井被告は殺人容疑で逮捕され、取り調べでは犯行を認める供述をした。にもかかわらず、裁判が始まると今井被告は自供を翻して、無罪を主張したのである。

しかし、横浜地裁は’18年3月22日、今井被告に死刑を言い渡した。

「二審で無実を証明します。事実、私はやってないですからね」

筆者との面会で今井被告は雄弁に控訴の理由を語りながら、雑談にも応じた。

――体調は?

「いたって普通です。コロナにもなっていません」

――日々の支えは?

「家族、支援者、弁護団……。こんな私にも応援してくれる方がいますから」

――息抜きは?

「新聞や雑誌でスポーツ記事を読むことです。私は昔から大の巨人ファンで、特に坂本勇人選手は入団前から応援しています。巨人が勝った日などは、カニやウナギの缶詰を食べて、一人祝杯をあげたりしています。またゴルフも好きで、マスターズでの松山英樹選手のイーグルパットや最終日18番のセカンドショットにも興奮しました」

――死刑制度についてどう思う?

「死刑の廃止が必要だと思います。もっと深い議論がされるべきです」

筆者が10月から今井被告との面会を重ねたのは、犯行自供から一転、一審から無罪主張を始めたからだ。

「(無罪主張の理由は)中身は一言では言えません。手記を書きます。そのほうがわかりやすいでしょう」

送られてきた手記は、便箋約200枚にも及ぶ膨大なものだった。内容は大学教授による精神鑑定結果が主である。

〈著者(今井被告)は’17年8月下旬頃から11月中旬頃までにかけて、精神鑑定医による精神(鑑定)を受けている。その結果、著者が自閉スペクトラム症(ASD)であるとの確定診断が示された。また、断定はできないが、知的能力障害が疑われ、知的能力は低い可能性が高いとの旨も示された〉(手記より。一部要約)

手記には、発達障害ASDの説明として、念を押すようにこうも記されていた。

〈状況認知や想像性の弱さ、人間関係に対する関心や共感性、情緒性が限定的であること、規則性やこだわりなどの脅迫傾向、規則性によって安定を得る傾向が見られます〉

今井被告はこう言う。

「だから私は、マスコミから母親を守ってやると捜査員に言われ、やってもいない犯行を自供してしまったのです」

確かに今井被告には発達障害などを窺わせる蓋然(がいぜん)性があった。例えば、拘置所での検閲を理由に、手記は内容が読み取れなくなるほどあらゆる箇所を自ら黒塗りにしていたのだ。他には、亡くなった3人の高齢者が認知症を患っていたこと、また事故死や真犯人がいる可能性が拭(ぬぐ)いきれないなどの考察が記されていた。

冤罪を主張するならば、アリバイや真犯人に繋がる新事実、転落死の真相を知りたかったが、それはなかった。

11月中旬、面会の最後に今井被告にあらためていまの心境を訊いた。

「ヘンな緊張感はありません。(判決は)なるべく考えないようにしています」

一方、全国紙社会部記者はこう言う。

「本人による自供には事件の当事者でしか知りえない情報が含まれています。今井被告側が主張する精神鑑定の結果だけで一審を覆すのは難しいでしょう」

控訴審は11月26日に結審する予定だ。

連続転落死の現場となった老人ホーム。今井被告の職場だった。現在は施設名が変わっている
今井被告の手記には控訴審中である現在の心境が生々しく書かれているページもあった
’16年当時、殺人容疑で逮捕される直前の今井被告。現在も髪型や眼鏡は一緒だが、体重はかなり増加している

取材・文:高木瑞穂

ノンフィクションライター。最新刊に『覚醒剤アンダーグラウンド 日本の覚醒剤流通の全てを知り尽くした男』。YouTubeチャンネル『高木瑞穂ちゃんねる

『FRIDAY』2021年12月3日号より

  • PHOTO濱﨑慎治(今井被告) 結束武郎(手記)

Photo Gallery4

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事