ユウキロックが語る「激変したM-1のレベル」と決勝進出の意味 | FRIDAYデジタル

ユウキロックが語る「激変したM-1のレベル」と決勝進出の意味

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いろいろな思惑が交錯する

今や、この時期の風物詩と言っても過言ではない「M-1グランプリ」。その規模は、回数を重ねるごとに大きくなり、審査方法の変更、敗者復活戦の誕生、5年間の休止、笑神籤の導入など、さまざまな変化を繰り返してきた。

かつて、スポットライトは優勝者のみに当たっていたが、最近は、2位や司会者とのトークで印象付けたコンビにも当たるようになった。

「M-1」の第1回大会で2位を獲得し、それ以降も同賞レースに出場し、現在でも研究を続けているユウキロックさんに、決勝進出の持つ意味や、その変化についてうかがった。

長年、「M-1」を研究してきたからこそわかる「決勝」に出る意味。準決勝や敗者復活戦の変化についてお話します(撮影:スギゾー。)
長年、「M-1」を研究してきたからこそわかる「決勝」に出る意味。準決勝や敗者復活戦の変化についてお話します(撮影:スギゾー。)

かつての「M-1」はバトルロワイアルだった

――最近の「M-1」は初期とずいぶん変わった気がします。ユウキロックさんが出場されていた頃の決勝進出には、どんな価値や意味がありましたか?

ユウキロック(以下、ユウキ):ぶっちゃけ、あの頃は決勝を意識してなかったと思います。第1回目に関しては、何が何だかわからない状況でした。僕たちにしてみたら、「M-1」に出ることよりもゴールデンの時間帯に生放送で漫才ができることの方が嬉しかったですし、意味もありました。その上で、優勝したら賞金1千万円がもらえるということがついてきた感じです。 

当時の僕は調子に乗っていましたし、漫才の最前線で活躍している若手10組の中に入って当然だと思っていました。なので、予選もそんなに緊張することなく、いつもの寄席と同じように「一番ウケてやろう」という気持ちでしたね。優勝を意識しだしたのもけっこう遅くて、最終決戦くらいのタイミングでした。決勝本番でも、「M-1」で戦っているというよりも、ゴールデンで漫才をやれることに対する緊張の方が大きかったと思います。

当時はオンバト以外のネタ番組がなかったので、ゴールデンの生放送で漫才ができることが、本当に珍しかったんです
当時はオンバト以外のネタ番組がなかったので、ゴールデンの生放送で漫才ができることが、本当に珍しかったんです

――では、ご自身が出場されていた頃と今とを比べて、「M-1」はどう変わったと思いますか?

ユウキ:僕らの頃の「M-1」は、わかりやすく言えば「バトルロワイアル」ですね。もともと「M-1」は、10年経っても売れない芸人に引導を渡すという意味もあった賞レースなので、優勝者だけが生き残って、他のコンビは死ぬという感じだったんです。 

今の「M-1」を例えるとしたら、「紅白」かな? 選ばれた芸人たちの祭典ですね。なので、昔と比べて、すごくいい時代になったと思います。 

変化するきっかけになったのは、やはり「THE MANZAI」でしょう。それまでの「M-1」とは趣旨が真逆で、芸歴10年以上のコンビにも夢を持たせる賞レースとして生み出されたんで。その後、2015年に「M-1」が復活しますが、「THE MANZAI」を挟んだこともあって、名前は同じでも中身は全くの別物になったんだと思います。

――復活した時点で、すでに大会の性格が変わっていたんですね。

ユウキ:そうなんです。だから、予選を落ちることに関しても軽いですよね。昔は、3回戦で落ちるなんて、すごく恥ずかしいことで……。僕らも4回目の出場では追加合格しましたが、一度3回戦で落ちてるんです。そのときは、ボケとツッコミを入れ替えたからというのもあるんですが、舞台に立てないくらい恥ずかしかったですね。「M-1」で優勝できなかったことが、解散のきっかけのひとつになったコンビはたくさんいると思います。でも、今はそこまでじゃないかなと思います。特に、吉本以外は。

――吉本と他事務所では、認識がちがうんですか? 

ユウキ:全然違うと思います。吉本は優勝しかないです。初参加とか芸歴が浅い場合は決勝、準決勝を目指すこともあるかもしれませんが、基本的には優勝あるのみですね。というのも、吉本は芸人が多いですからコンビ数も多いし、ファイナリストも優勝者も多いんです。だから、準決勝に残ったくらいでは認められないんですよね。 

でも、他事務所は所属している芸人が少ないんで、コンビも少ない。必然的に、「M-1」で準決勝に残るコンビも少なくなるので、「準決勝に行けた!」となるのかなと思います。

決勝進出の価値を変えたオードリーの成功

――決勝進出の意味合いが変わってきたと感じたコンビはいますか? 

ユウキ:敗者復活戦から勝ち上がって優勝したサンドウィッチマンのドリームもありますが、一番大きいのは、2008年に2位になったオードリーだと思います。敗者復活戦から勝ち上がって2位になって、優勝したNON STYLEよりも注目を浴びて、その翌年の「M-1」に出なかった。出ない選択をして、今も第一線で売れ続けている。 

オードリーは、優勝しなくても売れるんだというのを証明したコンビですね
オードリーは、優勝しなくても売れるんだというのを証明したコンビですね

あと、「決勝に出ることに意味があるんだ」と僕自身が実感したのはトム・ブラウンです。僕は今、養成所で講師をしているんですが、「M-1」決勝の前に、トム・ブラウンのネタ見せに参加したことがあります。その頃から今のスタイルが出来上がっていて、ネタもめちゃくちゃよかったですね。ちょっとリズムネタっぽいし、キャッチーやし、内容も入ってきやすい。 

面白かったんですけど、ただ、「ダメー」が邪魔してるように見えて、これでは優勝できないと思ったんです。「ダメー」を入れることで、笑いが伸びにくくなるかもしれないから外した方がいいってアドバイスしたんですが、その後、決勝に行ってすごいハネて、「俺、エライこと言ってたな」と思ったんですけど、優勝はしなかった。その時に気づいたんです。 

僕みたいな昔のM-1に出てた吉本育ちの芸人は、優勝しないと意味がないと思っていたんですが、今のコンビは、決勝に出ることで大きなものが得られる。ケイダッシュさんはオードリーの成功例があるので、わかっていたと思います。僕も、その辺りから、状況を見てアドバイスするように変わりましたね。最終的には優勝を目指してるんですが、優勝じゃなくても、人生が激変するような大会になってきているんで。

決勝は、出ると人生が変わるくらいに価値が上がったんですが、準決勝でもちょっと人生が変わることがあるんですよ
決勝は、出ると人生が変わるくらいに価値が上がったんですが、準決勝でもちょっと人生が変わることがあるんですよ

今は準決勝も準々決勝も面白い

――「本当は準決勝が一番おもいしろい」と聞いたことがありますが、これは本当なのでしょうか?

ユウキ:今は準々決勝も面白いと思います。というのも、準決勝に残れば「セミファイナリスト」っていう肩書がつくんで、テレビに出られたりします。それに、セミファイナリストは敗者復活戦に出るんで、「敗者復活戦で話題になったコンビ」という煽りもつけられます。最近のテレビ番組は、若手の青田買いが盛んになってきてますし、ローカルの賞レースでもちゃんとした肩書になるんですよね。 

最後の25組に残れば、戦いは最終日まで続くし、テレビの生放送で漫才ができるので、最近は敗者復活戦の価値も上がってきていると思います。去年でいうと、ランジャタイがそうですね。知名度が上がっただけじゃなくて、独特な世界感の強めなコンビだという理解が広がっている気もします。

1度も準決勝に行ったことがないコンビの中には、「まずは準決勝に残りたい」と思っているコンビもいると思います
1度も準決勝に行ったことがないコンビの中には、「まずは準決勝に残りたい」と思っているコンビもいると思います

――確かに、今年に入っていろんな番組で見た気がします。

今の時代、彗星の如く現れるカリスマ的なコンビは少なくて、今年は準決勝、来年は決勝と順にステップアップを狙います。そうすると、知名度も一緒に上げていくことができて、ネタ中のフリが弱かったり、自分の我を通したりしても、知名度がそれをカバーしてくれるから、ウケやすくなるんです。

とはいえ、コンビによってさまざまな考え方があるのも事実です。準決勝に残るために準々決勝に一番いいネタをするコンビもいれば、決勝に行くために準決勝は温存しておきたいというコンビもいるでしょう。 

いろいろな思惑が交錯する準々決勝を勝ち上がったコンビによる準決勝は、間違いなく面白いでしょうね。今年の準決勝の日程も12月2日と決まりましたし、準々決勝を見逃したという方でも、準決勝からチェックしたら、「M-1」の面白さがより深まるんじゃないでしょうか。 

  • 取材・文安倍川モチ子

    WEBを中心にフリーライターとして活動。また、書籍や企業PR誌の制作にも携わっている。専門分野は持たずに、歴史・お笑い・健康・美容・旅行・グルメ・介護など、興味のそそられるものを幅広く手掛ける。

  • 撮影スギゾー。

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