間もなくゴール!人力車を引いて日本を縦断する男の「意外な動機」 | FRIDAYデジタル

間もなくゴール!人力車を引いて日本を縦断する男の「意外な動機」

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

コロナ禍の北海道から沖縄までを90日かけて…

コロナ禍の日本列島を、人力車を引いて走り続ける男がいる。

鈴木悠司さん、31歳。東京・浅草を人力車で案内する現役の車夫だ。これまで人力車を引きながらアジアやヨーロッパなど11ヵ国を旅し、現在は北海道から沖縄までの約3000キロを90日かけて走る「日本列島縦断の旅」を決行中である。

ゴール地点の沖縄市コザには、12月12日に到着する予定だ
ゴール地点の沖縄市コザには、12月12日に到着する予定だ

9月5日に浅草を旅立った鈴木さんは茨城県の大洗港からフェリーで北海道へ渡り、11日に沖縄を目指しスタート地点の帯広市を出発した。北海道を横断して函館から青森県に渡海し、本州の日本海側を山口県に向かって走り、九州を南下しフェリーで沖縄県へ。ゴール地点の沖縄市コザに、12月12日に到着する予定だ。

人力車の重量は90キロ。座席に野宿用のキャンプ道具、衣類や食料、動画配信用の機材など30キロの荷物を積んでほぼ毎日、休みなく走り続ける。

「1日40~50キロのペースで2か月半以上も走っているので、脚がもうバキバキです」

そう話す鈴木さんから疲れは感じられない。「宿泊施設の利用は1週間に1度」と決め、「公園や道の駅にテントを張って野宿」「食事は持参の炊事道具で調理」を基本とするが、「1晩で回復する」という。

「日本海側はトンネルが多いし、交通の難所がけっこうあるんですよ。新潟県の親不知という地区の道路はめっちゃきつかった。断崖絶壁の海岸線に沿った道で、そこを通る時に大雨、暴風、波浪のトリプル警報が出た上に途中からひょうまで降ってきて、死にそうでした」

毎日の食事はスーパーで安い食材を買って作る
毎日の食事はスーパーで安い食材を買って作る
暴風雨の中であろうが、ひたすら人力車を引いて走る
暴風雨の中であろうが、ひたすら人力車を引いて走る

海外の可能性を知った時から「世界一周」が人生の夢に

それにしても、浅草の車夫がなぜ、商売道具の人力車を引いて旅をしているのか。

鈴木さんは学生時代までサッカー選手を目指していたが、大学3年の時に大きな挫折を経験。完全に夢をあきらめる前に憧れの地で挑戦してみたいと、大学を休学して2か月間、単身ブラジルへ。運よく中堅クラブチームの練習に参加でき、あのネイマール選手にも会えた。もう悔いはない。サッカーをやめる決心がついた。他に挑戦してみたいことも見つかった。

「突然行ってもすごい経験ができる海外の可能性を知り、ブラジル以外の国にも行ってみたいと思ったんです。その時から世界一周が僕の夢になりました」

ブラジル・サンパウロ州のサッカークラブ、ブラガンチーノの下部チームで練習に参加した
ブラジル・サンパウロ州のサッカークラブ、ブラガンチーノの下部チームで練習に参加した

大阪の大学を卒業すると世界一周の資金を貯めるため、賃金が高いという理由で上京。たまたま行った浅草で目の前を通った人力車に引き寄せられ、迷わず車夫の仕事に就く。

「3年くらい働いて資金が貯まれば人力車をやめて海外へ旅に出ようと、最初は思っていたんですよ。それが、人力車がすごく好きになって。人力車と世界一周、どっちを取るか悩んだ末に、人力車を引いて世界を旅すればいいんだとひらめいたんです」

コロナでアメリカ大陸横断を中断。「今の自分は止まっている…」

2016年、鈴木さんは先輩から安く譲ってもらった人力車を携えアジアへ。1年で7か国を巡った。その後ヨーロッパで、スペインのバルセロナとフランスのパリの往復2500キロを約3ヵ月かけて走り、次にオーストラリアのシドニーからメルボルンまでの約1000キロを1ヵ月で走破。

そして2019年9月、小説や映画にも登場するアメリカの旧国道「ルート66」を走る「米国大陸横断の旅」への挑戦を始めた。-11℃の中で野宿をして凍死しそうになったり、ホームレスに「人力車を使わせてくれ」と付きまとわれたり、身の危険を感じる経験もしたが、12月までは旅は順調だった。

2019年の9月からアメリカのルート66を走る大陸横断の旅を始めた
2019年の9月からアメリカのルート66を走る大陸横断の旅を始めた

ところが、観光目的で滞在できるのは90日以内のため日本に一旦帰国していた間に、新型コロナウィルスの感染が拡大。テキサスで出会った男性の家に人力車を預けたまま、アメリカ横断を中断せざるを得なくなってしまった。

「結局、去年はアメリカに戻れず、青森県の大間から浅草までの約1000キロを1ヵ月で走りました。東日本大震災の被災地を元気づけるというテーマで」

鈴木さんは、旅をしている期間以外は浅草で人力車の仕事に専念する。海外を旅する際、人力車の輸送に往復で約80万円かかる。それプラス、自分の旅費も必要。帰国中に旅の費用を作らなければならない。

「資金を貯めるために日本にいる間はほぼ毎日、人力車を引いています。旅をしながらYouTuberの活動もしているのでスポンサーがつく場合もあるんですけど、費用のほとんどは当然、自分の稼ぎで賄っています」

しかし、コロナ禍では資金稼ぎもままならない。観光客が消えた浅草はゴーストタウンと化し、「仕事がほとんどなくなった」からだ。

「こうなったら自分で仕事を作ろうと思って、YouTubeやTikTokが集客ツールとして使えることを所属先の会社に伝えたんです。OKが出てライブ配信を始めたら、車夫に指名予約が入るようになってお客さんがめっちゃ増えました。おかげで僕も浅草で仕事ができています」

それでも心は満たされなかった。

「旅がしたくてもできない中で、自分の発信で街や人を元気づけたいなとずっと考えていたんです。たまたまアメリカのワンリパブリックというバンドの『Run』を聞いて、サビの『Run,run,run』、走り続けろって歌詞にハッとしました。 

映画の主人公のフォレスト・ガンプみたいに、どんな状況でも走り続ける人生を送りたいと思っているのに、だから自分を『ガンプ鈴木』と名乗ることにしたのに、俺は今、止まっている。部屋のベランダで毎日ビールを飲みながら、今の自分でいいのかと自問していないで、走り続けないとダメだ。『Run』を聞いて心に火がつきました」

とはいえ、今年もアメリカ横断の再開は無理。海外に行けないなら、この機会に日本全国を巡ろうと思い立った。

「去年は大間から浅草まで太平洋側を走ったので、日本海側をルートに選びました。今回は旅をしたいというより、走りたいという気持ちが強くて日本を縦断することにしたんです」

夜の暗い道は走りたくないけど、その後に飲むビールは最高!

鈴木さんが日本列島を駆け抜けながらYouTubeで配信する旅の動画を見ると、感動あり驚きありの刺激的な出会いに満ちている。

「今回は不思議と、旅をしている人との出会いが多いですね。スーパーのショッピングカートに荷物を積んで、押しながら北海道から沖縄を目指して歩いている24歳の青年とか、青森から沖縄までビーチサンダルで歩くという人もいました。ショッピングカートもビーチサンダルも一種のコミュニケーションツールで、コンセプトを持って旅をした方が確実に何かが起きるんですよ。 

その点で人力車は、人を引き寄せる力があります。しかも、差し入れしてもらった食べ物を積んでおけるから便利。SNSでビールの投稿ばかりしているから、ビールはすでに250本くらいもらいました(笑)。地元の名物を『これ食べて、覚えて帰って』と差し入れしてくれる人もいます」

旅の途中で出会ったショッピングカートを押して日本縦断中の24歳の青年
旅の途中で出会ったショッピングカートを押して日本縦断中の24歳の青年
ビーチサンダルを愛用する旅人とは野宿を共にした
ビーチサンダルを愛用する旅人とは野宿を共にした

今回、日本を縦断するにあたり、車夫の先輩で冒険家の阿部雅龍さんが関る全国展開の大人塾「熱中小学校」から協力の申し出があり、道中では各地の熱中小のスタッフや受講生など地元住民と交流する機会もある。

「地方の人はおもてなしの心が細やかで、コロナ禍を忘れるくらいフレンドリーに接してくれるんですよね。熱中小学校を通じてつながった人たちの気持ちを人力車に乗せて、アメリカ横断に連れていこうという気分になっています」

出会った人々の温かさを活力に走り続ける日本縦断の旅も、すでに大詰めを迎えている。

「実は、旅のスケジュールが今までで一番タイトなんです。人力車は年末年始がめちゃめちゃ忙しくて、その前に旅を終わらせないといけないので、どうしても1日に走る距離が長くなります。走るペースも一番過酷です」

その過酷な旅を、鈴木さんは目いっぱい楽しんでいる。

「僕の旅のテーマは『JUST FOR FUN』。アメリカを旅している最中に珍しくネガティブ思考になり、何のために走っているのかわからなくっていた時に出合ったのが、この言葉だったんです。アリゾナ州の砂漠の真ん中で『JUST FOR FUN』と書かれた看板を見て、その日の夜、路上でギター弾きのおっちゃんから唐突に『JUST FOR FUN』と言われて。頭の中が一気にクリアになり、俺は楽しむために旅をしているんだと気付いたんです」

旅の過程ではアクシデントに見舞われることもあれば困難にぶつかることもある。そんな状況さえも、just for fun、楽しむのみ。

「トンネルを通るのは危険と隣り合わせだけど、ここを人力車が走るなんて奇跡に近いよなと思うと面白くなってきます。夜の暗い道は走りたくないけど、この後に飲むビールは最高においしいよなと考えると乗り切れる。そういう逆境を楽しんでいる姿をインスタグラムのストーリーズでアップすると、悩んだり苦しんだりしている人からメッセージが来るんです。『死のうと思ったけど生きることにしました』とか『手術を受ける決心がつきました』とか。ストーリーが誰かのためになっていると思うと、また頑張れるんですよね」

これまでで最も過酷な旅だが、「ゴールした時にどんな景色が見えるのか楽しみ」と話す
これまでで最も過酷な旅だが、「ゴールした時にどんな景色が見えるのか楽しみ」と話す

アメリカ大陸横断は来年の5月に再開する予定だ。ただし、中断した場所、テキサスからのリスタートは考えていない。

「振り出しに戻ってもう一度カリフォルニアから出発し、半年ほどかけてニューヨークまで走ります。 

僕は確実に、50歳になっても世界を旅しているでしょうね。80歳になっても身体が動く限り、現役の車夫として人力車を引き続けたい。フォレスト・ガンプと一緒です。人生、Run,run,runで行こうと思っています」

なぜ、それほどまで走りたいのか。

「走らないと何も始まらないから。走り出せば必ず出会いがあり、何かが見つかると信じています。それを証明したくて、僕はたぶん走っていると思うんです」

日本のガンプは、一期一会を求めて走り続ける。

鈴木悠司(すずき・ゆうじ)車夫、YouTuber、TikToker。1990年、京都府生まれ。大阪の大学を卒業後、世界一周の資金稼ぎを目的に上京。2013年に浅草で人力車と出合い、車夫の仕事に就く。2016年から世界一周を目指して人力車を引きながらアジア、ヨーロッパ、アメリカの11か国へ。コロナ禍のため現在は米国大陸横断を中断中。

  • 取材・文斉藤さゆり

Photo Gallery9

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事