井上尚弥と同じ日に世界挑戦!ワタナベジム・谷口将隆の勝算 | FRIDAYデジタル

井上尚弥と同じ日に世界挑戦!ワタナベジム・谷口将隆の勝算

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伝統あるジムで次のチャンプを目指しトレーニングを重ねる谷口選手(撮影・林壮一)

「ラウンド内で必ず山場を作れ。クリンチになってもブレイクが掛かるまで、一つでも二つでも手を出せ。お前は挑戦者なんだ。常に攻めの姿勢を見せろ」

ワタナベジム会長の渡辺均(71)は、リング上の谷口将隆(27)に、そう声を掛けた。

谷口は世界ランキング1位の指名挑戦者として、12月14日にWBOミニマム級タイトルに挑む。目下、14勝(9KO)3敗の谷口にとって、2度目の世界挑戦だ。2019年2月26日、当時のWBO王者、ビック・サルダール(フィリピン)に0-3の判定で敗れて以来の檜舞台となる。現チャンピオンのウルフレッド・メンデス(プエルトリコ)の戦績は、16勝(6KO)1敗。

世界初挑戦で敗れた直後、谷口は語った。

「8ポイント差としたジャッジが1人、後の2名は6ポイント差ですから、完敗でしたね。試合が終了した時点では、やることはやったという思いでしたが、映像を見直してみると、『何でここでいかないんだ!』とじれったくなる自分がいました。

前に出てボディを狙うばかりで、動きがワンパターンになっていました。サルダールは、打って引いて、また打つと、自分より遥かに引き出しが多かった。チャンピオンの懐に潜り込み、そこで連打すべきでした。反省しています」

その後、谷口は日本ミニマム級挑戦者決定戦、同王座決定戦、同タイトル防衛戦と白星を重ね、WBO1位までランキングを上げて2度目の世界挑戦に漕ぎ着けた。一方のサルダールは、谷口の挑戦を退けた半年後に、メンデスに判定で敗れ、王座から転落。新チャンピオンのメンデスは、2度の防衛戦を共にKOで飾り、3人目の挑戦者として谷口を迎えることとなった。

この日、谷口のスパーリングパートナーを務めていたのは、ジムの後輩である重岡銀次朗(22)である。メンデスと同じサウスポーであり、高校5冠からプロに転向し、現在WBCミニマム級5位にランクされる新鋭だ。

こちらも世界を狙う重岡選手とのスパー(撮影・林壮一)

2人の世界ランカーによるスパーリングを目にした渡辺は、呟いた。

「非常にいい内容ですね。世界1位と5位がライバルとして日常的に打ち合っている。今日の銀次朗はカウンターが良かったですし、テクニシャンである谷口も世界1位の実力を十二分に見せてくれました。12月14日は、やってくれると信じていますよ」

渡辺はしばらく沈黙した後、しみじみと話した。

「うちの所属選手が火花を散らすスパーリングを重ね、勝利したことで思い出すのは1988年3月21日です。マイク・タイソンが来日し、東京ドームでトニー・タッブスと対戦した。その前座で、吉野弘幸が日本ウエルター級タイトルを奪取しました。ワタナベジム初めてのチャンピオンです。その日の夜、ミドル級の大和武士も日本王者となりました。日本では重量級の2人が、連日バチバチのスパーリングをこなして、しのぎを削っていたんです。タダで見るのが勿体ないくらいの内容でしたよ。

タイソンの前座という注目される場所で、吉野が勝ってくれた。今回の谷口も井上尚弥の前座です。我がジムの歴史を引き継いでほしいですね」

4ラウンドのスパーリング終了後、同じ階級の世界王座を見据える銀次朗は言った。

「谷口さん、強いです。1、2ラウンドは、自分が狙っていた右フックのカウンターを当てることができたのですが、3、4ラウンドはやりたいことをさせてもらえませんでした。谷口さんは、修正力が非常に高い。とても勉強になりますね」

汗をぬぐいながら谷口も振り返った。

「要所要所で、細かいパンチをもらってしまいました。銀次朗は一番学びがあり、かつ緊張する相手ですね。仮想メンデスとして、最高のパートナーでしょう。

映像を見る限り、メンデスは力強さよりも、巧さが印象的な選手です。上体が柔らかく、テクニックでサルダールをしっかりとポイントアウトしている。いざ、試合が始まったら、重圧ややり難さも感じるでしょう。パンチも伸びてきそうです。こちらはボディーワークでメンデスのパンチを躱すのではなく、至近距離でもしっかりとフットワークを駆使したいです。それらの点を頭に入れて、練習しています」

中学1年からボクシングジムに通い始めた谷口は、高校2年次にインターハイでベスト8となる。龍谷大学に進学し、最終学年ではキャプテンを務めた。

「龍谷大にスポーツ推薦で入学する学生は、経営学部や経済学部が多いんです。が、僕は文学部歴史学専攻で、練習の傍ら、真面目に授業に出ていました。卒論は、古代中国の習わしや、政略結婚、妓女、芸子、舞子等の風俗史についてまとめました。

体育会の学生もしっかり学べ。スポーツ馬鹿じゃ世の中で通用しない。授業に出席しても点数が悪ければ単位は出さないという校風でした。僕にはそれが良かったと思います。よくボクサーは頭が悪いみたいに言う人がいますが、そういう声を消したいなという気持ちを強く持っています。文武両道を自分に課したことで、律することを覚えました。プロボクサーとなってからも、それが生きているように感じます」

大学時代は全日本選手権で3位、国体で準優勝している。現WBAライトフライ級スーパー王者の京口紘人と共にワタナベジムにスカウトされ、上京した。

京口紘人(奥)とともにシャドーを行う谷口選手

「以来、京口とは切磋琢磨してやってきたつもりですが、彼は8戦目で世界チャンピオンになり、2階級を制して現在も無敗です。正直な話、どこかに嫉妬心もありましたね。だから、アドバイスしてくれているのに、なかなか素直に聞き入れられない自分がいました。視野が狭かったですね」

谷口はデビュー7戦目の日本タイトル王座決定戦、10戦目のOPBF東洋太平洋タイトル王座決定戦で共に敗れた。敗北を肥やしとしたものの、前回の世界挑戦は、4カ月前にWBOアジアパシフィック王座に就いたばかりで、時期尚早という声が挙がっていたのも事実である。京口に追いつきたいという焦りもあった。

「でも、世界タイトルに挑戦してみて、京口がいかに大きなプレッシャーを乗り越えて来たのかが分かったんです。ただただ凄いな、と尊敬しますね。サルダール戦以降は、わだかまり無く、自然と京口の言葉が入ってくるようになりました。こちらからも躊躇なく質問をぶつけています」

谷口は10月上旬からスパーリングを開始し、「質の高さ」を意識しながら、合計120ラウンドをこなしてメンデス戦を迎える予定だ。

「自分のボクシングを貫くよりも、リング上でメンデスが苦しむ動きを観察しながら戦うつもりです。先にアクションを起こして、その都度、戦い方を工夫したいですね。メンデスが嫌がることを、徹底的に続けていこうと思っています。彼に考える時間を与えないことが、勝利へのカギとなるように感じます。

それから、しっかり前に出る印象をジャッジに与え、ポイントを取りたいですね。サルダール戦と同じ失敗はしたくありませんから。どんなに泥臭くても、見栄えが悪くても、勝ち切ってみせます。その日だけでいいので、世界一の男を超えますよ」

2019年2月26日のサルダール戦から、再挑戦までの日を、谷口は次のように述べた。

「もう一歩、相手に近づく。そこで連打する。ジャブを打ち続ける。メンタルの強化。攻めねばならない時に出る。仕留め切る。簡単にパンチをもらわない、など自分の課題を克服するように取り組んできました。あっという間でしたね。それって、つまり充実していたってことですよね。日本タイトル挑戦者決定戦からやり直して、一歩一歩キャリアを積んできた自負もあります。メンデスはサルダールに勝ったということで警戒していますが、僕もこの2年10カ月の間に進歩しましたから、何としても勝ちますよ」

なんとしても勝って歴代の選手と肩を並べたい(撮影・林壮一)

渡辺会長が例に挙げた、ビッグマッチの前座ということを谷口はいかに捉えているのか。

「井上尚弥選手の前座に出場できるというのは、本当に光栄です。井上選手が2年ぶりに日本で試合するのですから、日本中が注目しますよね。そこでいい試合をすれば、自分を覚えてもらえます。ありがたいです。

これまでに、僕を見向きもしなかった人が『スゲエな』『こんな選手もいるんや』と感じる試合を見せたいです。ジムの大先輩である吉野弘幸さんがタイソンの前座で名前を売り、スターになったという前例を、是非、僕も受け継ぎたいですね」

12月14日は、WBA/IBFバンタム級チャンピオンの井上尚弥が、IBF4位のチャレンジャー、アラン・デイパエンをいかに料理するかに関心が集まっている。今回の井上も、早いラウンドで圧勝しそうだ。

井上がリングに登場する前のセミファイナルが、谷口に与えられた場所である。2年10カ月の努力の成果をいかに見せるか。

世界戦に向けて、決意の表情(撮影・林壮一)
  • 取材・文林壮一

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