「医療崩壊」の旭川から医師が訴える「第6波」がくる前に | FRIDAYデジタル

「医療崩壊」の旭川から医師が訴える「第6波」がくる前に

クラスター発生の地で奮闘する阿部泰之医師の提言

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「第6波が来る前に、言っておきたいことがある」新型コロナの蔓延で「医療崩壊」を経験した北海道旭川の医師が現場から伝える危機感と対処の方法。今こそ耳を傾けたい 写真:ロイター/アフロ
「第6波が来る前に、言っておきたいことがある」新型コロナの蔓延で「医療崩壊」を経験した北海道旭川の医師が現場から伝える危機感と対処の方法。今こそ耳を傾けたい 写真:ロイター/アフロ

オミクロン株が世界中に拡散されている。これまで水際対策がゆるゆるだった日本も、11月29日「全世界からの外国人入国を禁止」する決定をした。が、すでにオミクロン株は「上陸済み」だった。

過去最大の感染者数となった第5波がようやく収まり、日常が戻ったかのように感じていた矢先の衝撃だ。しかし前兆はあった。

感染者のほとんどはワクチン未接種だった

冬には第6波が来ると囁かれるなか、11月12日に北海道旭川市でクラスターが発生した。道内の感染者22人中、15人が旭川市だ。飲み屋街で次々と感染者が出た。市内では今、何が起こっているのだろうか。

「感染者の割がmRNAワクチンの回接種が終わっていなかったんです。おもにカラオケ店でクラスターが発生しました。保健所も対応に苦慮しています」

旭川市で、ワクチン接種の最前線に立つ医師、阿部泰之先生はこう話す。2020年からの新型コロナの感染拡大を受け、旭川医大で大混乱を経験した緩和ケア医だ。現在、旭川医大客員教授を務めるとともに訪問診療専門のクリニックを立ち上げている。旭川市でコロナワクチンの接種を積極的に行ってきた。

一足早く「冬」を迎えたところ

「新型コロナの流行に季節は関係ないといいますが、北海道の場合は換気が大きな問題です。防寒のため気密性の高い建物、家屋が多く、換気のシステムを新たにつけないと十分な換気ができません。11月の時点ですでに最低気温は氷点下ですから、窓を開けておくのは難しいんです。寒さと換気の問題はなかなか難しい」

寒さが増すなか「不十分な換気」と「ワクチン未接種」という条件が重なってのクラスター発生だ。危機感をもった旭川市は、阿部医師の呼びかけもあって「駅前のイオン」で、「夜の8時半まで」「予約なし」でワクチンを接種できる体制を整えた。

「特別な、いわゆる『ワクチン忌避派』でなくても、予約が取りづらいとか、時間内に接種に行けないといった理由で接種していなかった人たちにもアプローチできています。ワクチンは怖いけれど、思い切って来たという人もいます。一方で、接種会場にマスクをしないで入ってきたり、『せんせー、これから飲みにいくけど、打ってくれる?』という人がいたり、未接種のかたの属性はさまざまですね。

それでも、現場でワクチン接種の予診をしていると、予約の『ひと手間』がバリアになっているのがよくわかります」

日本は、接種開始こそ遅かったが、始めてからが早かった。フタを開けてみれば11月現在、ワクチンを完全(2回)接種した人が「77.3%」と、世界的に見ても非常に高い接種率だ。とはいえまだ「ワクチンは害が多いから打たない」という人や、接種はするが「怖いから向精神薬をもらいに行く」という人もいる。

「ワクチン接種で注意しなければいけないのはアナフィラキシーショックです。僕はこれまで少なくとも3000人以上に新型コロナワクチンの接種をしてきましたが、アナフィラキシーを起こした人は今のところ1人もいません。アナフィラキシーの既往症がある人も数人いて、なかにはエピペンを持ち歩いているという人もいましたが、接種後、何事もなく帰って行かれましたよ」

深刻な状態ではないが、ワクチン接種後に「発熱した」「だるかった」という人は少なくない。こういう副反応も、ワクチン危険説を唱える理由になっている。

「迷走神経反射といって、緊張のあまり副交感神経が優位になって血圧が下がり、倒れてしまう、ひどい場合は『失神』することもあります。これはワクチンの種類や中身には関係がありません。だから予診のときにどれだけ緊張をほぐせるかが大事なんです。会場に、ガチガチに緊張して来る方もいるので、僕はとにかく予診の際に緊張がほぐれるように手を尽くしています。不安そうな人には飴をあげて励ましたり、副反応を心配していたら『熱が出たり腫れたりしたら、いい免疫を持ってる証拠と思って!』と話しています。正確ではないんですが(笑)、プラスに捉えてもらえばいいと思っているんです」

ワクチン接種の予診で医師に冗談を言われる。それは、気持ちをほぐそうという気遣いだったのか。流れ作業のような接種会場での小さな気遣いに、心を打たれるではないか。

mRNAワクチンと言えばオミクロン株の流行もあいまってブースター接種の開始時期についても議論の最中だ。「抗体価が下がるなら、毎年追加で打つ必要があるのか、ワクチンは意味がないのでは」といった声も聞かれる。

「ワクチン接種してから時間が経つと抗体価が下がりますが、時間が経てば下がって当然です。でも身体に新型コロナの記憶は残るから、ウイルスが侵入してきたとき、細胞は動いてくれるはずです。抗体価はミサイルのようなもの。予め作っておくと、肝心なときにすぐ使えます。それが少なくなっても設計図があれば、敵が来たときにミサイルを作れるんです。だから3回目のブースターショットを打たないと全然意味がないよってことではなくて、万全にしておきたいなら打ちましょうという感じです。僕は機会がくればブースターを打ちますがそれよりもまず、飲み会の前でもいいから、2回目までの接種をしてほしいですね」

敗戦処理から積極的な戦いへシフトできた

阿部医師が「駅前イオンの3階に出店」してまで、ワクチン接種を進めるのは、理由がある。

「ワクチンができるまで、我々医療従事者がやっていたのは『敗戦処理』でした。感染した人の症状を和らげ、なんとか改善させるしかなかった。積極的な治療もありませんでしたから。

でも、ワクチンはその病を『予防』できるんです。感染を防ぎ、もし感染しても重症化しないようにできるんです。ワクチン以前には感染した人の受け入れを待っているしかなかったのに、ワクチンのおかげで、病との戦いに積極的に介入できるようになったんです。だからみんな頑張っている。コロナそのものの治療は僕の専門ではありません。だから、その前の予防に力を入れてきたんです

クラスターが発生して、地域の医療が崩壊した経験をもつ現場ならではの強い思いがあるのだ。

後遺症に対応するもうひとつの医療

「もうひとつ問題は、感染して後遺症がある人のケアをどうするか、です。

無症状だった人でも後遺症が出ることがあります。だるさが抜けない、嗅覚がもどらない、頭がぼんやりするなど、症状はじつにさまざまです。

今、各地に『コロナ後遺症外来』ができていますが、この対応に緩和ケアの医術が有効だと思うんです。私たち緩和ケア医はふだんから『治らない病気』をかかえた人たちを診ています。後遺症の症状そのものへの直接の処置ではないけれど、苦しんでいる人の今ある状況に気持ちを近づけて、楽にしてあげることができるんです。感染予防に加えて、感染後のケアにこれからは力を入れていく必要があるでしょうね」

書店には、反ワクチンを煽る本もベストセラーに並ぶ。が、最前線の医師の言葉には切実感がある。第6波は来るのだろうか。予断を許さない状況が続くが、ワクチンを接種して、手洗い、マスクで予防する。自分を守るために、できることをまっとうしたい。

阿部泰之医師が開業した訪問診察医療専門のセンター「Ai(あい)クリニック」https://aiclinic.life/は、在宅で療養する患者さんの体と心を守る。北海道上川郡東神楽町の「アパートの1室」から、在宅で療養する患者さんの体と心を守る。

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  • 取材・文和久井香菜子写真ロイター/アフロ

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