次はイングランド戦 テストマッチで見えたジャパンの収穫と課題 | FRIDAYデジタル

次はイングランド戦 テストマッチで見えたジャパンの収穫と課題

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フォワードでは互角の力を見せる場面もあった。収穫もあったが課題が多く見つかったオールブラックス戦
フォワードでは互角の力を見せる場面もあった。収穫もあったが課題が多く見つかったオールブラックス戦

4年に一度のラグビーワールドカップが2019年、日本で開催される。初めての自国開催を控えるラグビー日本代表は11月17日、ロンドン・トゥイッケナムスタジアムでイングランド代表との一戦に挑む。

イングランドを率いるのは元日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ。この点でも今回の80分には多くのファンが注目することだろう。体制を刷新して2年が経とうとする日本代表は、かつての上司にどう立ち向かうのだろうか。

ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いる日本代表は、10月中旬から宮崎で猛練習を行い、東京合宿を経て11月3日には、東京・味の素スタジアムでテストマッチに臨んだ。

相手は世界ランク1位のニュージーランド代表(オールブラックス)。しかし、登録選手23名中18名が10キャップ(代表戦出場数)以下で、そのうち8名は0キャップと若い陣容だった。そんな相手に日本代表は、31―69と大敗。現実の厳しさを味わった。

今回は、この試合前後に見えた日本代表の現状に迫りたい。

オールブラックス戦での日本代表は、点を取られても取り返し、計5トライを奪取。その背景には「アタッキングマインドセットがあった」と、リーチ・マイケルキャプテンは言う。ここでの「アタッキングマインドセット」とはチーム独自の表現のようで、スコアや時間帯に左右されない攻撃的な姿勢を指している。

チームは今季、選手間のリーダーシップ強化に努めてきた。合宿での食事後は各々がパソコンを開き練習や試合の映像をチェックするなど、オフ・ザ・フィールドでのハードワークが際立った。24歳にしてリーダーシップグループに入っているフランカーの姫野和樹は、明るい未来を信じてこう語る。

「選手同士で話し合い、選手同士で改善することでチームがよくなる。今年はジェイミーも、そういう部分に力を入れています。これを日本代表の文化にしていければと思います」

 選手の能動的な態度に、各アシスタントコーチも応える。なかでもさらに短期間での修正能力が証明されたのが、長谷川慎コーチの教えるスクラムだろう。

10月26日の世界選抜戦(東大阪市花園ラグビー場で28-31と惜敗)では元ニュージーランド代表の左プロップ、ワイアット・クロケットに塊を割られた。すると翌週のトレーニングでは、隣同士の脇と脇をぴったりとあわせる意識、組み合った後に深く沈む動作などを再確認。オールブラックス戦では見事一枚岩になれていた。

 そもそも日本代表勢の多くは、2017年から国際リーグのスーパーラグビーで長谷川メソッドを実践してきた。長谷川が日本代表の兄弟チームであるサンウルブズを指導したことは財産となっていて、同じ失敗が繰り返されにくくなっている。フッカーの坂手敦史は試合前にこう語っていた。

「(スーパーラグビーで)多くのニュージーランドのチームと試合をしてきたので、たとえオールブラックス相手でも、『やったことがある』『あ、こいつはこんなスクラムだな』と自信を持って組めますね」

このように、大敗したゲームからもいくつかの収穫を読み取ることができる。一方で課題は、選手やアシスタントコーチの手の届かない場所にある。

この試合で相手を大きく下回った数値は、ラインアウト(タッチライン際での空中戦)での自軍ボール確保率。相手の90パーセントに対し62パーセントだった。特に19点差を追う後半の立ち上がり、2本連続で好機での自軍ボールを逸した。

日本代表のラインアウトは、ヘッドコーチであるジョセフの指導領域だ。ジョセフは練習で相手ボールラインアウト時のモール防御について事細かくレクチャーする。一方で、ジャンプとリフティングについて一家言を持つ真壁伸弥は今度のツアーメンバーから外れていた。

こうしたボスの専権事項となる選手選考、選手起用の影響は、試合中のメンバーチェンジの場面にも現れていた。

オールブラックス戦では、控えに配球のリズムを変えられるスクラムハーフの田中史朗や突進型ロックのヘル・ウヴェ、万能バックスの松田力也などを置いていた。ジョセフがリザーブを投入したのは19-45とされた後半11分以降だったが、積極采配で勝利への執念を見せるならタイミングは前半途中からあったはずだ。

ラインアウトでは、好機でボールを奪われるなど、弱点が露呈した形だ
ラインアウトでは、好機でボールを奪われるなど、弱点が露呈した形だ

ペナルティマネージメントも懸念材料だ。この日、オールブラックスのタックラーは起き上がりながら日本代表の持つボールに絡んでいた。これが「寝転んだままでのプレー」と見なされればオールブラックスの反則になるが、この日のマシュー・カーリーレフリーはこれを取らない。フィールド上でカーリーに質問を投げかけていたリーチは、首を横に振る。

「なかなか予想通りにはいかなかったです」

各種スキルの涵養やレフリーの分析などに従事した田邉淳アシスタントコーチは、このツアーから代表を外れている。チームの長所や課題をフラットに語れる田邉は選手からの信頼が厚かったのだが、なぜか今回のツアー不参加となり、その理由は明かされていない。

2015年のワールドカップイングランド大会で3勝した日本代表は、同年にジョーンズが去ってから少々、混迷を見せていた。日本協会の強化委員会がイニシアチブを取っていたと見られる後任ヘッドコーチ探しは難航し、代行ヘッドコーチを経て2016年に迎え入れたのが、ナショナルチームを初めて指揮するジョセフだった。

万事に母国のスタイルをまねるジョセフはいま、チームとメディアとの間に距離を設けている。東京合宿中は、受け答えの苦手な選手を守るためか、1日ごとの取材対象選手を4選手に絞る。6月に組まれたツアー中には、3戦中2戦目を落とすや「囲み取材1日2名」というルールを持ち出したこともあった。もっともワールドカップ期間中は、通例なら1日5~6名の選手のメディア対応が各国に義務付けられる。取り組みが逆効果を及ぼす可能性もある。

さらにオールブラックス戦2日前の練習中に、ジョセフがテレビクルーに突然の撮影禁止を申し出た。

「メディアの皆さんもジャパンを応援してくれていると思いますが、あそこでやっていたスペシャルプレーが万が一外部に漏れると無駄になってしまう。もしあれでトライが取れたらビールをおごります」

指揮官はこう笑ったが、報道陣は首をかしげて「今度からこういうことは事前に伝えてもらえたら」と広報担当者に伝えたものだ。

チームの中と外との間に溝ができかねない状況には、一部の選手からも心配の声が漏れる。せっかくボスの号令で選手主導の好チームになりつつあるのに、ボスの決断がパニックを招いては元も子もなかろう。

成長した分だけ懸念材料も目立つ。そんな日本代表が次戦で迎え撃つイングランド代表は、ワールドカップに向け右肩上がりの状態かもしれない。今季の欧州6か国対抗戦で5位に沈むなどやや不振も、11月10日に行われたオールブラックス戦では15―16と敗れはしたが善戦していた。ちなみにこの時のオールブラックスは、日本代表戦時と違い、主力を揃えていた。

今度の一戦を受けて日本代表が示すべきは、結果だけではなかろう。そこまでの過程を踏まえたうえでの、ファンが納得する指針も求められよう。本番まであと10か月。現体制の力をより高める一手が待たれる。

まずは17日の「エディ・イングランド」との試合で、選手の意志が伝わるプレーに注目したい。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある。

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