トー横界隈リンチ殺人事件「被害者が死の7日前に語っていたこと」
関口寿喜容疑者(26)ほか、少年2人が逮捕 新宿の新スポットで起きた悲劇 犠牲者はボランティア組織『歌舞伎町卍會』に参加して人生のやり直しを目指した40代ホームレスだった…
11月28日、夜8時過ぎ――新宿・歌舞伎町。一棟の雑居ビルの中へ、30人ほどの若者のグループが入っていった。屋上に到着すると彼らは線香を取り出し、缶チューハイとともにお供えして、手を合わせた。一人の男性が涙を流しながら、「こんなことするなんて、絶対許せないっすよ……」と、つぶやいた。
彼らの正体は『歌舞伎町卍會(まんじかい)』。近年、未成年者による薬物乱用や売春など犯罪の温床となっているトー横界隈で、ゴミ拾いや治安維持活動を行うボランティア組織だ。仲間の一人が前日、この屋上でリンチに遭(あ)い、殺害されたのだ。
「11月27日午後2時過ぎ、『星座館ビル』の屋上で40代ほどの男性が4人組に取り囲まれ、殴られていると通報がありました。現場に急行すると、すでに男性は意識不明で、全身アザだらけだった。素手で複数回にわたり、殴打されたものと見られています。顔は原形を留(とど)めておらず臓器に損傷もあり、搬送先の病院で息を引き取りました。被害者はホームレスの氏家彰(うじいえあきら)さん(当時43)。主犯格の関口寿喜(じゅき)容疑者(26)ほか、少年二人を傷害致死容疑で逮捕しました。一人はいまだ逃走中です(11月30日現在)」(捜査関係者)
その被害者こそ、FRIDAYが先週号で『卍會』に密着取材を行った際、話を聞いた「ホームレスのアキラさん」だった。なぜ彼が狙われなければいけなかったのか。FRIDAYは被害者と容疑者の関係をよく知る元『卍會』幹部に接触した。
「関口は茨城県出身で、今年10月初旬まで『卍會』の副会長を務めていました。その前は指定暴力団『住吉会』系三次団体に所属していたと、吹聴していた。稼業名は『龍成昇』で、『卍會』内ではノボルさんと呼ばれていました。アイツが『女目当てで卍會に入った』と言っていたのを覚えています。
救いを求めて『卍會』に入った身寄りのない女子たちに宿を与え、そこで性的関係を持ち、後に美人局(つつもたせ)をさせるのです。関口は『卍會を利用したシノギをしたい』という計画を私に明かしていました。ところが、数々の問題行動が総会長にバレて、関口は除名されました。
その際、関口は彼を慕っていた少年5人を一緒に連れて出ていったのですが、それが今回の実行犯です」
そんな関口容疑者はなぜホームレス男性を襲撃したのか。そこには、「トー横界隈」ならではの複雑な理由が隠されていた。元幹部が続ける。
「実はアキラさんは関口から10万円ほどカネを借りていて、服ももらっていたんです。ところが、借りたカネは返さないし、もらった服も売っていた。約1年前のある日、アキラさんが家出志願のメンバーの悩みを聞いていました。それを見た関口は、普段からの不満を爆発させ『ホームレスの分際で偉そうなこと言うな』と、怒鳴りつけ、取っ組み合いのケンカになったんです。
さらに決定的だったのは、関口が一番気に入っていた女子に、アキラさんが手を出そうとしたこと。アキラさんは彼女に『カネがないなら、男をひっかけてきな。俺が美人局でカネを取ってきてあげる』と、持ちかけたんです。アキラさんも管理売春に手を染めていたんですよ。それを伝え聞いた関口が激怒。それ以来、襲撃の機会を伺っていたようです」
アキラさんに問題行動があったのは間違いない。ただ、彼は悔い改め、更生を目指していた。『卍會』総会長のハウル氏もアキラさんを応援していた。
「アキラさんは今年8月ごろから、一緒にゴミ拾いをしていました。たしかに問題を起こしていたし、正式なメンバーではなかったけれど、みんなからお父さんのように慕われていました。実の親にかまってもらえない子は、アキラさんのところに行くんです」
死の7日前、アキラさんはFRIDAY記者に熱く夢を語っていた。
「僕もこの子たち(『卍會』メンバー)と一緒で、親がアル中でDV家庭でした。父も早くに亡くなり、居場所がなかった。だから、困っている子供がいたら、一緒に悩み、話を聞いてあげたい。トー横界隈では身寄りのない未成年を狙う犯罪が増えています。私は一人でも多くの子供たちを悪い大人から守ってやりたいと思っています」
子供たちを犯罪から守ろうとしていたアキラさんはしかし、少年たちに命を奪われたのである。
『FRIDAY』2021年12月17日号より



PHOTO:結束武郎(アキラさん、追悼会) 蓮尾真司(送検)