50周年の「日活ロマンポルノ」をいま見ておきたいこれだけの理由 | FRIDAYデジタル

50周年の「日活ロマンポルノ」をいま見ておきたいこれだけの理由

「生きること」の物語が濡れ場から生々しく迸るー亀山早苗レポート

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日活ロマンポルノ傑作のひとつ『赫い髪の女』神代辰巳監督(1979年)。宮下順子主演。右は石橋蓮司。

「予想していたよりずっとおもしろかったです。ポルノという括りだし、セックスシーンは多いけど、それよりむしろモノクロの画面にヒロインがすくっと立っているのがかっこいいと思った」

映画『㊙︎色情めす市場』(1974年・田中登監督・芹明香主演)を観た20代会社員女性の言葉だ。この作品は、大阪西成を舞台に「うち、なんや逆らいたいんや」「ひとりで稼いでみせるわ」と名ゼリフを吐きながら体を売る女を描いており、ファンの間では「国宝級の作品」とさえ言われている。

日活ロマンポルノの50周年を記念して東京・渋谷でおこなわれているイベント「私たちの好きなロマンポルノ」(38作品上映・12月17日まで)には連日、映画好き、ロマンポルノ好きが集まっている。男女問わず、年配者も若者もいる。

最初の作品『団地妻 昼下がりの情事』『色暦大奥秘話』の2本立てが上映されたのは1971年11月20日。以来、1988年までの17年間に、約1100本の「ロマンポルノ」作品が製作、公開された。

ロマンポルノは、映画が斜陽になった時代に日本最古のメジャー映画会社日活が社運を賭けて路線変更を挑んだ事業である。「10分に1回程度の濡れ場を入れること」、「上映時間は70分程度」というルールを守れば、比較的自由に作品を撮れたため、気鋭のクリエイターたちが参加した。彼らは、限られた制作費のなかでさまざまな映画作りを模索、チャレンジできたのである。

ここから、神代辰巳、小沼勝、加藤彰、田中登、曾根中生などの名監督が生まれた。ロマンポルノからキャリアをスタートさせた監督には、村川透、相米慎二、根岸吉太郎、池田敏春、中原俊、那須博之、金子修介、石井隆など錚々たる顔ぶれがいる。若手映画人の登竜門だったのだ。

70年代はじめ、安保闘争、学生運動が盛んだったが、彼らはやがて革命の夢破れて社会へと出ていった。そして高度成長期に入った日本は、消費をよしとする時代へと突入するも、若かった彼らは心の充足を埋められず「シラケ世代」などと呼ばれていた。ロマンポルノはそんな彼らの知的興奮も駆り立てていたのだろう。

今回の企画「私たちの好きなロマンポルノ」は、ロマンポルノ未経験の世代や、女性たちにも観てほしいと、シネマヴェーラ渋谷支配人の内藤由美子さんは言う。

「性を切り口にするのは個人の好みだと思いますが、それ以上にロマンポルノは映画として素晴らしい作品が多い。たとえば『㊙色情めす市場』は『受胎告知』という原題なんですが、120分の映画にしても通用する厚みのある作品です」

内藤さんの好きな作品は『OL日記濡れた札束』『絶頂姉妹 堕ちる』だ。どちらも格差社会の中で女がつらい立場に置かれる状況を描いた70年代の作品だが、現代性が強い。そしてロマンポルノでは、女は弱者のままでは終わらない。

今回の特集では、ロマンポルノが大好きで映画館へ出向いたり配信を駆使したりと、あらゆる手段を使って観続け、『ORGASM』という映画の冊子を作っている女性たちによる特別セレクションも注目だ。誰もが知っているような名作以外から選ばれた12本が新鮮だ。代表の遠藤倫子さんは、とにかく映画が好き、そしてロマンポルノも好きだという。

「当時、あくまでも男性のために作られた成人映画、ファンタジーという側面があるので『女性にお勧め』とは言いません。その人にどんな性的トラウマがあるかわからないから。観たい人が観ればいいと思う。

ただ私たちはロマンポルノがとても好きで。俳優さんたちはどの方もとても素敵だと思うし、主演はもちろんですが、脇で作品を支える方々もみなさんそれぞれにいい味を出されていますし。え、この俳優さんがこっちの映画ではこんな役をやってるんだという新たな発見が楽しい。けっこうぶっ飛んだ作品も多いけど、それもまたおもしろい」

女が「強い意志で、どんな困難に出会ってもすべて乗り越えて人生を切り開いていく」などとたいそうなことを言う必要もないのかもしれない。ただ、おもしろいから観る。それがいちばんシンプルかつ極上の楽しみ方なのだろう。

私自身が、最初にリアルタイムで観たのは今回も上映されている『狂った果実』(1981年・根岸吉太郎監督)だ。大学生だった当時、将来に希望も持てず、非常に虚無的に生きていた。だから映画のテツオに共感を覚えた。そんな彼が金持ちのお嬢さんにもてあそばれて破滅に向かって一直線に転げ落ちていくのが衝撃だった。そこからロマンポルノに惹かれ、70年代の作品をリバイバルで観るようになっていった。

第1回作品で、ロマンポルノの代名詞にもなっている『団地妻 昼下がりの情事』(西村昭五郎監督・白川和子主演)は、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『昼顔』を彷彿とさせる。だが団地妻は決して貧乏ではないものの、『昼顔』のヒロインほど裕福でもない。当時、急激に増えた団地を舞台に、さまざまな欲求不満を抱えた人妻が堕ちていき、最後はとてつもない悲劇が待っている。おしなべて、ロマンポルノには当時の社会的背景がきっちり描かれている。

女優たちの裸もきれいに撮られている。セックスシーンでは監督も俳優も、いかに女優をきれいに見せるかに腐心したという。初代SMの女王と呼ばれている谷ナオミさんに話を聞いたことがあるが、彼女は撮影の数日前から下着すらつけずに生活していたそうだ。肌に下着の跡がついていたらきれいに見えないからだ。そういった出演者やスタッフの限りない努力と工夫があるからこそ、濡れ場シーンは美しい。

ロマンポルノと名乗っている限り、やはり濡れ場は観る側にとって大事だ。成人映画とはいえ、今ならR15におさまる作品がほとんどらしいが、当時はロマンポルノで興奮する男性は多かったのだろうし、すんなり作品に溶け込めるなら女性でも「感じる」ポイントはあると思う。

私がいつも「観て」と人に勧めてしまうのは、『赫い髪の女』(1979年・神代辰巳監督・宮下順子主演)だ。なぜなら男女の関係の原点がここにあるから。雨の中、赫(あか)い髪の女を拾ったトラック運転手の光造(石橋蓮司)は彼女を部屋に連れ込む。女の素性も過去も何もわからない。映画のなかで、女には名前さえないのだ。だがふたりは狭い部屋で、ひたすらセックスをする。

ブルースバンド「憂歌団」の物憂い歌が流れ、外から雨が吹き込む湿った狭い部屋で、ただ「まぐわう」男と女からは、生々しい匂いすら漂ってくる。女はインスタントラーメンもろくに作れない。ときおり家に残してきた夫や子どもたちの話をする。それが本当かどうかさえもわからない。光造がいないと彼の下着を身につけて寝ている女に「変態」と怒鳴りながらも、光造はそんな女に愛しさを覚えていく。

光造は女を拾うと、いつも同僚の孝男と“シェア”してきた。たとえ自分の女でも、だ。それがふたりの取り決めだった。赫い髪の女も孝男にシェアするが、そのとき光造は生まれて初めて「嫉妬」を感じる。男が「愛」を覚えた瞬間である。不器用な男と正体不明の女が、誰にもまねのできないような「愛」を手に入れる過程には、しゃれた言葉もお金も必要ない。だからこそ男女の原点なのだと思う。

何度も観ている『赫い髪の女』なのに、今回はほろりと涙がこぼれた。赫い髪の女が、孝男と若い女(光造たちが勤める会社の社長の娘)が駆け落ちすると知って「若いっていいわね」と絶望的な声で叫ぶシーンだ。自分が失った若さをしみじみと思い返して泣けてきた。そう言いながらも、映画の中のふたりはすぐにまぐわうのだ。まるで自分たちの命を迸らせるように。それぞれの欠落した部分を埋めるかのように。

宮下順子の相手を食い尽くすようなセックスシーンは、当時の若い男性たちにどう映ったのだろうか。あんな女に食われたいと思ったか、欲望に忠実な女に怖さを覚えたか。今の男性たちは確実に後者が多いと思われるが、当時は女の肉欲にきちんと太刀打ちするのが男の甲斐性だったのではないだろうか。

時代が変わり社会が厳しくなって骨抜きにされてしまった男たち、そしてそんな男たちに苛立つ女が多い今こそ、この映画のたくましい男女を観てほしい。ロマンポルノは永遠である。

日活ロマンポルノ50周年記念「私たちの好きなロマンポルノ」:東京・渋谷シネマヴェーラで、12月17日まで開催中。11日(土)には『狂った果実』上映後、城定秀夫監督&横浜聡子監督のトークショーも予定されている。

http://www.cinemavera.com/schedule.php

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『(秘)色情めす市場』は日本映画界に衝撃を与えた作品。ヒロイン芹明香は聖母である
  • 取材・文亀山早苗写真提供日活

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