居酒屋では外国人客とトラブルも そもそも「お通し」って何?

誰もが一度は疑問に思ったはず。「お通し」とはいったいなんなのか?

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創業160年を越える鶯谷の居酒屋、鍵屋。お通しは煮豆が無料で提供される

一日の仕事を終えて居酒屋に入り、「とりあえずビール!」

最高の瞬間だ。そして、ジョッキと同時に、ササッと目の前に現われる小鉢。ほとんどの店がこの「お通し」に200〜400円程度の価格をつけている。その値段も明記してないことが多く、「お通しいくらですか?」とも聞きづらい。実はぼんやりとした理不尽さを感じている方も多いのではないだろうか。

私もこの「お通し」には悔しい思い出がある。「1000円でどれだけ呑めるか」という企画で、ある店に入ったときのこと。生ビール400円、酎ハイ300円、おつまみ300円を注文し、「よしっ、ジャスト1000円すばらしい!」と歓喜した瞬間、頼んでもいない小鉢が現われた……。お通し400円プラス。中身は、ほんのちょっぴりの煮物。無念。

長年仕方ないことと呑兵衛たちが受け入れてきた、その「お通し」文化に近年異変が起きている。

きっかけの一つは、「インバウンド」である。

気軽に和食が楽しめる「居酒屋」は、外国人観光客からも人気だ。しかし、有料の「お通し」に納得できない外国人が多いという。多くの外国人旅行者を飲食店などに案内するツアー会社の社員はこう話す。

「無条件で出てくるからサービスかと思いますよね。有料だと言うと、『じゃあ要らない』という方もいました。初めは『日本の慣習だから』と説明していたのですが、私もだんだん、『よく考えれば理不尽だ』と思うようになり、断ってみたんです」

すると、その店では了承して無しにしてくれたという。「そういうものだから」と諦めて長年文句も言わず受け入れてきた「お通し」文化。まるで日本を象徴しているようである——っておおげさか。ともかく「黒船」は来た。

そもそも「お通し」とは、「注文の品を帳場に通したしるしの意」であり、「客の注文した料理ができる前に出す簡単な食品」(広辞苑)のことである。

居酒屋における「お通し」の歴史は意外に浅く、「昭和になってからのもの」(『江戸の居酒屋』伊藤善資)という説が有力のようだ。

ではお通しは断れるのか。立教大学法学部で消費者法を学ぶ学生たちが、法的に調査、研究成果が発表されている。

居酒屋における「飲食物提供契約」が成立するにあたって、

「一方が契約を申し込み、他方が申込みを承諾する必要がある」

「客としては、入店する際に『とりあえずお通しを出して』のような形で注文してはいないから(中略)居酒屋と客との間に契約関係は認められないのである」

(細川幸一ゼミ「居酒屋における『お通し』を考える」から引用)

簡単に言えば、断れるのだ。ただし、うっかり箸をつけてしまえば返せないので諦めるしかない。

こうした流れのなか、メニューに「お通し300円」などと明記する店も増えた。「いくらなんだろう」というモヤモヤもなく、これは歓迎である。

御徒町にある『佐原屋本店』の場合、「お通しはない代わりに一人一品以上注文してください」と明記してある。これまたスッキリしていて、いい形ではないだろうか。

と、「お通しじゃまもの論」を書いてきたが、店によっては楽しみでもある。

すぐさま飲みたい呑兵衛にとって、待たずにつまみが出るのはありがたいし、その店ならではの工夫が見える喜びがあるからだ。魚のアラだったり、残り野菜のキンピラなど、お金をかけずに工夫していれば、ちょっとしたものでもうれしい。

そもそも、工夫もなく、手間もかけないどうでもいい料理を出し、黙って数百円を取るという店が増えたからこそ「反撃」が起きたのではないか。

最近増えているのが、恵比寿の『おじんじょ』など、数種類から「選べるお通し」を出す居酒屋だ。選べるうえに、バリエーション豊か、どれもきちんと手間暇をかけた料理である。好き嫌いがある人も助かるだろうし、数人でシェアすればいろんな味が楽しめるのがいい。

また、お決まりの3,4品を1000円〜1500円程度で出すケースもある。この場合、お通しというよりも、「店指定でこれだけは食べてもらう料理」。客があらかじめわかるようにさえしておけば、店の姿勢がわかり、いいのではないかと思う。

左下の小鉢に入った煮豆が鍵屋のお通し(無料)

数は多くはないが、お通し無料という店もある。

鶯谷にある『鍵屋』の創業はなんと1856年、160年以上の歴史を持つ老舗だ。『鍵屋』のお通しはお代は取らず、決まって「煮豆」。やさしい味わいがうれしい上に、大豆は酒を呑む前に食べる理想の食べ物。「お通し」の「注文の品が出るまで」という元来の意味を守り、ささやかなつまみに徹している。老舗らしいいさぎよさだ。

1945年創業、錦糸町の『太田屋』も無料でお通しを出している。

「うちは家族だけでやっていて、お待たせしてしまうことも多いので。お通しは簡単なものですが、お代はいただいてません」(店主 宮野雄治さん)

なんともうれしいお言葉。これこそ、お通しの原点ではないだろうか。

※文中のお通し、価格は取材時のものです。

  • 取材・文・写真本郷明美

    1967年福島県古殿町生まれ。専門商社、編集プロダクション勤務を経て1993年からフリーライターとなる。バリアフリー関連、歴史、教育などの分野を取材する一方で、自他共に認める根っからの酒好きを活かし、自称「のんべえライター」として記事を執筆。著書に『どはどぶろくのど 失われた酒を訪ねて』(講談社)など

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