岸田の決断が遅すぎる…「10万円分配」で聞こえる地方の悲鳴 | FRIDAYデジタル

岸田の決断が遅すぎる…「10万円分配」で聞こえる地方の悲鳴

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岸田首相の宝物は「国民の声ノート」と「聞く力」。その耳はどっちを向いて、なにを聞いているのだろうか 写真:つのだよしお/アフロ
岸田首相の宝物は「国民の声ノート」と「聞く力」。その耳はどっちを向いて、なにを聞いているのだろうか 写真:つのだよしお/アフロ

敵に隙を見せない「超安全運転」中の岸田文雄首相。アドリブ禁止、決まったコード進行で安全発言のみを繰り返すのが、その手法だ。

先の総選挙を通じ、自民党と公明党は「子育て支援策」として「10万円給付」を声高にアピールした。反対の出ようはずもない選挙公約。岸田首相と公明党にとっては、コロナ禍の「一律10万円支給」好評で味をしめた「現金ばらまき政策」だったがー。

実務を担う地方自治体の叫び

「安全」なはずのこの政策、まさかのほころびは地方から噴出した。12月9日、大阪市の松井一郎市長は会見で、この政策について記者に意見を求めた。

「5万円+5万円分のクーポン券がいいという人は手を挙げて。いますか?」

挙手する記者はいない。

「そうやろ、そうなんや。クーポンより10万円現金でもらったほうがいいやろ。誰だってそうなんや。他の人にも聞いてますが、100%現金支給がいいと言うてますわ。そんなこと当たり前なんや。残念ながら年内は、5万円しかお届けできないことになりました」

岸田首相の「新しい資本主義」がいう「分配」の第一弾としてまずは子どもへの給付金を決めたが、雲行きは怪しい。国民目線からすると「所得制限」はまあ理解できた。が、10万円は「現金とクーポン」で、「クーポンの支給は半年先」では「話が違う」という声が出るのは当たり前だ。

「時間差給付となった理由は、今年度の予備費から現金支給分を捻出し、クーポン分の財源は来年度予算で確保するためです」(内閣府職員)

そこでつまずくとは、なんともケチな政策である。経済的困窮者は、リアルな日常の危機に瀕している。半年先では遅いのだ。そんな国民の声を忘れぬよう、岸田首相は「国民の声ノート」に書き取ったのではなかったのか。そもそも、苦境に立たされた人は、首相と会って窮状を訴える余裕すらないのだが。

不満の声は、大阪市に続いて、群馬県太田市からも上がった。清水聖義市長は7日、「10万円を現金で市民に給付する」と発表したのだ。

クーポン券「田舎では使うところがない」

時間が経過するにつれ、自公の選挙公約の実行が、国民や地方自治体の実情とあまりに乖離していることを突きつけられていく。茨城県北茨城市の豊田稔市長が言う。

「現金給付の5万円用の予算、3億5千万円は国から来ます。残りの3億5千万円については、専決処分で北茨城市が立て替えます。年内中に、子どもたちにきちんと10万円を届けてやりたい。そもそも、うちのような田舎では、クーポン券を発行したところで使うところがないんですから。クーポンじゃ、役に立たない。渡しても仕方がないんです」

日本中から、こんな声が後を絶たない。それでも内閣府は次のように通達している。

「クーポン発行が出来ない場合は、現金給付を可とする。しかし、その場合、理由書を提出すること」

国民から徴収した税金を使うのになんとも上から目線だ。自らの裁量でどうにでもできるといわんばかりの通達に、現場自治体からは疑問の声が上がった。

「分配」が遅すぎる理由

松野官房長官は会見で、「クーポンを基本にした給付としたい」、しかしながら「自治体の実情に合わせる運用も可能とする」という「グレー」な発言をしていた。一方、岸田首相は国会答弁で、

「クーポン給付は子育てに直接的・効果的な子ども支援だ。民間事業者の振興や新たな子育てサービスの創出、消費の下支えも期待される。まずはクーポンでの給付を原則検討してほしい」

と述べた。が、「地方の実情も聞き入れる」とも。

クーポンを言い出した手前、引っ込みがつかなくなっているのだろうか。考慮の足りない発案、グレーな運用でのごまかし。となれば、岸田政権を選択した国民からの信義は失われかねない。重ねて、こうも言う。

「実情に応じて現金での対応も可能とする運用方法を検討します」

一体、どうしたいのか。13日の答弁で岸田首相は

「特定の条件をつけて審査することはない」

と、前言を翻した。年内、役所の稼働日は2週間しかない。「今から、なにをどうすれば年内給付ができるのか」そんな声も聞こえる。

また、今回中学生までは子ども手当制度を活用するが、高校生以上への給付方法はこれから検討するという。「10万円」のグダグダ感は否めない。

「国民の声」に地方自治体の首長たちは…

群馬県下の渋川市、太田市、前橋市、沼田市などは早々と「全額現金給付」を決めた。全国から聞こえる「国民の声」はたった2つなのだ。

「現金10万円給付のほうが使いやすい」

「クーポンは支給までの手間と経費がとてつもなくかかる」

ある自治体の首長はこう断言する。

「国の言うことを聞かぬならクーポン発行予算は支払わないと言ってきたときは、予算執行の行政訴訟を申し立てるつもりです」

首長たちは、市民と直接向き合い、その悲痛な声を第一に考えている。これが真実の「国民の声」ではないだろうか。

「5万円分をクーポン」ではなく「全額現金で給付」を認めるケースについて岸田政権の基準はいまだ定まっていない。ある市長は、こんな話をする。

「公明党議員から『子どもに一律10万円給付は、選挙で公明党が言い出した案。しかし、所得制限が設けられ、その後、現金とクーポンに様変わりして、公明党の原案通りではなくなってきた。今、公明支持者には、5万円とクーポン券を皆さんにお届けします、と言っちゃっているので政府案で執行してほしい』と、申し入れがありました。政府案通りの給付にしなければ、国からクーポン発行分の予算が来なくなるかもしれない。それが公明党に対する批判となると困るというんです。

要は、公明党が言い出した子ども支援なのに、約束した通りの『分配』にならず困っているということです」

別の村長はこう言う。

「国は、金は出すから後は自治体でやってくれといつも丸投げ。クーポン券は自治体が作成し、給付は郵便局に配達してもらうことになるんです。うがった見方をすれば、年賀状売り上げが大きく減っている日本郵政への救済策なのかと疑いたくなる。現金支給だけなら、経費は4分の1以下で済むんです」

岸田首相は、そつなく政権運営しているように見えるが、決断が遅く曖昧さが残り、地方自治体の混乱を招いている。地方の声は国民の声だ。首相自慢の「聞く力」その耳は、いったいどこを向いているのか。

  • 取材・文岩城周太郎写真つのだよしお/アフロ

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