渋谷区富ヶ谷 6.5億円を騙し取った「地面師集団の巧妙手口」 | FRIDAYデジタル

渋谷区富ヶ谷 6.5億円を騙し取った「地面師集団の巧妙手口」

現場は代々木公園にほど近い高級住宅街にポツンとある更地 本物の地主が台湾在住ということを悪用して……

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12月1日、移送される福田容疑者。売り出し中の地面師で、今回の事件では全体の絵図を描いたとみられる
12月1日、移送される福田容疑者。売り出し中の地面師で、今回の事件では全体の絵図を描いたとみられる

「あの富ヶ谷の土地のことは以前から知っていました。一等地にあり、いい物件だと思っていたのです。そんなとき、取引先の知人から『富ヶ谷の土地の買い手を探している人がいる。地主から任されている弁護士事務所の人間で、価格は6億円らしい』と聞きました。

不動産業を営む私の目から見て、あの土地は最低でも8億円、場合によっては10億円でも買い手がつく物件とみていましたので、転売で必ず利益が見込めると思ったのです。しかも買い手を探しているのが弁護士でしたから、まさか詐欺に関わっているとは思いもしませんでした」

そう語るのは都内の不動産会社で社長を務めるA氏。

久しぶりに「地面師」という言葉を目にした人も多いだろう。12月1日、警視庁捜査2課は無職・福田尚人(ひさと)容疑者(60)と会社役員・山口芳仁容疑者(54)を詐欺などの疑いで逮捕した。二人は本物の土地所有者になりすまし、買い主から代金を騙(だま)し取る「地面師」とみられる。

「逮捕容疑は’15年9月に渋谷区富ヶ谷にある480㎡の土地の所有者になりすまし、都内の不動産会社から約6億5000万円を騙し取ったというものです。山口容疑者は本物の地主の関係者になりすまして被害者を騙し、福田容疑者は全体の絵図を描いたとみられます。

舞台となった土地は代々木公園にほど近い高級住宅街にポツンとあります。いまは更地になっていますが、以前は樹木が生い茂り、『なぜ一等地にこんな場所が?』と疑問に思うような土地でした」(全国紙記者)

その6.5億円を騙し取られた不動産会社の社長というのが、A氏なのだ。A氏が事件を振り返る。

「’15年8月に知人を介して地主の代理人をしている吉永精志という弁護士を名乗る男に会いました。場所は彼がオーナーを務めているという弁護士事務所でした。吉永は地主の戸籍や旅券などを提示しながら『6億円で買い手が見つかっているが、こうしてせっかくお会いしているから、6億5000万円ぐらいならそちらに(売却することが)できる』と言う。相場より安い理由は『地主の息子に借金があり、早急な現金化を望んでいる』というものでした」

吉永は実は以前に地面師らと組んで詐欺を行い、懲戒処分を受けた札付きの元弁護士だった。しかし、話を聞いたA氏は1ヵ月ほどで富ヶ谷の土地を購入することを決めてしまう。

「地主への面会は『銀座の病院に入院中で外出できない』と言われ、なかなか実現しませんでした。結局、私が地主のなりすまし役と会ったのは契約の3日前のことで、その時点で話を事実上決めてしまっていました。契約当日には山口容疑者もその場にいて『地主さんの運転手や身の回りの世話をしている』と話していました。

契約を終えるまでの間、私は結局福田容疑者には会っていません。こちらも早く土地を手に入れたいという気持ちがあり、そこにつけ込まれたところはあります。しかし相手を信用してしまった一番の理由は地主の代理人が弁護士であり、交渉場所も弁護士事務所だったというところです」

「自分たちも騙された」

この事件を著書『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』で詳報した、ノンフィクション作家の森功氏が語る。

「今回はまさに地面師たちのずる賢さが集約された事件と言えると思います。ひとつは、本物の土地所有者は台湾華僑で、台湾在住の高齢男性だったのです。つまり本人と非常に連絡が取りづらいということを見越したものだったということ。もうひとつは弁護士の法律事務所を詐欺の商談の場所に利用したこと。『弁護士』『弁護士事務所』という信用性を巧みに利用して詐欺事件を作り上げました。

福田は大物ではありませんが、地面師業界では『売り出し中』の存在でした。山口、吉永には私は取材でじっくり話を聞きましたが、要は彼らは口を揃えて『自分たちも騙された』と言うのです。こうした言い逃れは地面師集団の常套手段なのですが、捜査が難航する原因になるのです」

前出・A氏が語る。

「二人が逮捕されてホッとしています。しかし福田も山口も、その後同じような事件を起こしています。もっと早く逮捕されていれば、ほかの被害者が出ることは防げたのではと思います」

福田、山口の両容疑者は逮捕されたが、吉永は事件後に亡くなった。前出・森氏はこう語る。

「今後も必ず同様の事件は起きるでしょう。今回は法務局の職員が偽造印鑑を見破ったことで事件が発覚しました。実印はそれだけ偽造に技術が必要なのですが、デジタル化が進んで実印が廃止の流れになれば、ますますこうした事件は発覚しにくくなる可能性があります。指紋認証や顔認証など確認する方法は増えるでしょうが、次は地面師集団はそれに対抗する手法を編み出すでしょう。イタチごっこは続くと思います」

闇の詐欺師集団は、今日も水面下でうごめいている。 (文中一部敬称略)

舞台となった渋谷区富ヶ谷の土地。井ノ頭通りに面した好立地で不動産業者なら誰もが惹かれる土地だった
舞台となった渋谷区富ヶ谷の土地。井ノ頭通りに面した好立地で不動産業者なら誰もが惹かれる土地だった

『FRIDAY』2021年12月24日号より

  • PHOTO蓮尾真司

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