『ガッテン!』終了検討…NHKはなぜ「最強の武器」を捨てるのか | FRIDAYデジタル

『ガッテン!』終了検討…NHKはなぜ「最強の武器」を捨てるのか

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写真:共同通信社
写真:共同通信社

NHKが『ガッテン!』と『バラエティー生活笑百科』の終了を検討しているという。このニュースを聞いて、真っ先に思ったのが「NHKよ、“ダサ面白スピリッツ”を失わないでくれ!」ということだ。

“ダサ面白スピリッツ”という言葉を聞いたことがあるだろうか? 無いはずだ。無理もない。私が勝手に作った言葉だからだ。どういうことか説明しよう。

番組は始まればいつか終わる。特に『バラエティー生活笑百科』は、司会の笑福亭仁鶴さんが今年8月にお亡くなりになったのだから、番組終了だとしても無理もない。それ自体はやむを得ない。しかし、この2番組の終了は、ここのところよく民放の長寿人気番組が終了しているのと「同質のニュース」だと思いたくなるだろうが、決してそう思ってはいけない。全く異質なのだ。

民放の長寿人気番組が今年たくさん終了したのは、簡単に言ってしまえば「広告価値の評価基準が変わった」からだ。最近流行りの「コアターゲット」というやつだ。平たく言うと「CMにお金を払う広告主が、若者に見てもらえる番組じゃないとお金は出さないよ」と言っているから、民放はお年寄りしか見ない番組を終了した。民放で番組を作っているテレビマンたちはいま「テレビを見ないとわかっているZ世代の若者」たちに、なんとかテレビを見せようとする無理ゲーを必死で頑張っている。

ではNHKはどうか? 誰もNHKでCMを見たことはないはずだ。「広告主」というやつとは全く縁がない。「個人視聴率」も「コアターゲット」も全く関係ない。だからお年寄り向け番組を終了させる必要は、これっぽっちもないのだ。

いや、むしろNHKの受信料を真面目に払ってくれているのは、お年寄り向け番組を楽しみに見てくれているお年寄りが多いだろうから、「もっとお年寄り向け番組を充実させるべきだ」というのが正しいという理屈になるはずだ。だから、民放の長寿人気番組終了と、NHKの長寿人気番組終了は、一見同じ流れに見えるかもしれないが、全く違う話なのだ。

さて、ここで私が作った「ダサ面白スピリッツ」という言葉について説明したい。民放キー局のテレビマンとして、「NHKの番組最強の武器はこれだ!」と身に染みて実感したことだ。

むかし、『コメディーお江戸でござる』という番組があったのを覚えているだろうか。1995年から2004年までやっていた、化け物長寿人気番組だ。私はこの番組が始まった時、テレビ朝日入社3年目の20代・若くやる気に溢れるテレビマンだった。そして、この番組のタイトルを聞いてものすごい衝撃を受けた。

正直「あり得ない。どうかしてしまったのだろうか?」と頭を棍棒で殴られたような感じがした。分解してみよう。「コメディー」「お江戸」「でござる」だ。どの要素を取っても現代日本で流行しそうな要素がない、と思った。「コメディー」という言葉も古臭いが、それはまだいい。「江戸」にわざわざ「お」をつけて、しかも「ござる」で締めた理由が読めない。そもそも「お江戸でござる」とか言ったことがある人物は、江戸時代も含めて1人でも存在したことがあるのか?とんでもないキリングセンスだ!と若かった私は言葉を失った。

でも間違っていたのは、間違いなく私だ。『コメディーお江戸でござる』は、テレビ的にはとてつもない正解なのだ。NHKを見ているメイン視聴者層に深く刺さる番組演出を体現した素晴らしいタイトルだったのだ。

「テレビは、センスが良い必要はない。ダサくても多くの人に面白いと感じてもらうほうがいいのだ。ダサいくらいが、安心して全国の人に見てもらえるのだ」という貴重な教訓を、この番組は若くて未熟なテレビマンの私に教えてくれた。これ以来私は、NHKは「ダサ面白スピリッツ」というテレビ界最強の武器を持つ巨人だと思って尊敬してきたのである。

話を『ガッテン!』と『バラエティー生活笑百科』に戻そう。これら2つの長寿番組が、「ダサ面白スピリッツ」満載の番組であることは疑いようもないだろう。特に私は『生活笑百科』が大好きだが、この番組は「まだ現役でご活躍だったんだ!」とビックリするような上方のベテラン師匠たちが出演し、そのコテコテのショートコントを見られるのが何より素晴らしい。

大阪弁の弁護士さんの個人的見解を「法律はどうでしょう」とかなりざっくりした括りで紹介し、なんとなく法律知識も増えた気がする。「上方ベテラン師匠の健在ぶりも確認できつつ、少し賢くなった気にもなれるダサ面白番組」なのだ。この番組が視聴者に課すハードルは限りなく低い。「実家に帰ってお茶の間で寝っ転がって安心して見られる」素晴らしい国民的番組だ。

こういう番組を終わらせるなら、ぜひ後継番組もこういう「ダサ面白スピリッツてんこ盛りの」番組にしてほしいのだ。日本全国、老若男女が寝っ転がって「ハハハハハ」と笑えるような番組が求められていると思う。

しかし、私は大きな懸念を抱いている。ひょっとして「Z世代のSDGsライフスタイルを応援する、ソーシャル連動新感覚双方向バーチャルバラエティ」みたいな感じの番組が始まりはしないかと。自分で勝手に書いて感心したのだが、上の括弧の中みたいな番組が、いかにも今のNHKの大好物っぽい感じだ。なんというか、不要に意識が高い。不要に洗練されていて、オサレな感じがする。そう、「スタイリッシュ」というやつだ。

私にもそこそこ若いNHKの知り合いがいるのだが、みんな総じて意識が高い。そして、真面目だ。口癖は「うちは、ダメですよね。民放さんにいろいろ教えて欲しいんです」で、とても腰が低い。みんなだいたい良い人だ。なんだか知らないがやたらと新しい事をやりたがっている。

「若い人に受信料を払い続けてもらうためにも、斬新で面白いスタイリッシュな番組を作らねば」という使命感にひたすら燃えている。なぜか視聴率も頑張って取りたがっている。私はこういう人たちに会うたびに、「NHKは民放ではないのですから、視聴率を気にしないでください。NHKにしか作れない番組を作ってください」と口を酸っぱくして言っているのだが、なぜかあまりまともに受け止めてもらえない。

で、彼らが作りそうなのが「Z世代のSDGsライフスタイルを応援する、ソーシャル連動新感覚双方向バーチャルバラエティ」的なやつだ。これ、申し訳ないがやめておいた方がいい。

まず、若くて意識が高い人間は、いまさらテレビなんか見ない。今後も受信料を払ってくれる若者を獲得したいなら、ターゲットは「意識高い系じゃない、普通にそのへんにいる若者たち」だ。「ダサ面白スピリッツ」が必要なのだ。若者向け『コメディーお江戸でござる』を作った方がいい。なのにNHKに入るような人たちはみんなそもそも意識が高いから、なんとなく「意識が高くてスタイリッシュ」な番組を作りたくなってしまうのだ。

私は大学で教えていたり、ちょうど20歳の息子がいたりするので、まあまあ若い人たちと話をする機会が多いが、彼らから「NHKの実験的でスタイリッシュなバラエティ」の話を聞いたことがない。残念ながら、多分ほとんど若者には届いていないのだ。その反面「NHKの実験的でスタイリッシュなバラエティ」の話は、業界周辺のオッサンオバサンからはよく聞く。「NHKが斬新な番組を作っていて頑張ってる。素晴らしい」とか言っているのは正直ほとんど高齢者ばかりな気がする。

業界は意外と狭いし閉鎖的だから、業界内のあちこちから称賛の声を聞けばなんとなく「オレたちのやっていることが届いているな」という気になるかもしれないが、ぶっちゃけそれは単なる「内輪受け」だ。業界の外にいる日本全国津々浦々の若い人に響かなければ、若者のテレビ離れなど食い止めることはできない。

テレビマンは、すぐカッコいいものを作って、「オレの作品」とか言って自慢したがる。でも、本当にカッコいいテレビマンは「あえてダサい道をいく」のだ。テレビは、カッコいいものではない。みんなが気軽に楽しむものだ

きっと、NHKにいたら「オレたちも民放みたいにカッコいい若者向け番組を作ってみたい」と思うのかもしれない。「NHKなんてダサいな」と思われているという思い込みがNHKの人にはあるのかもしれない。確かに、業界関係者の交流会みたいなところで、自己紹介で「コメディーお江戸でござるのディレクターです」と言いながら名刺を出すのには、羞恥心との戦い的なものを経験するのかもしれない。

でも、気にしないでほしい。本当にカッコいいのは、業界の王者だからこそ使える切り札「ダサ面白スピリッツ」を堅持することだ。ぜひ、これからもNHKには、「ダサカッコいいテレビ業界の巨人」で居続けて欲しい。多くの民放テレビマンたちもきっとそれを望んでいると思うからこそ、こんな辛口なラブレターを書かせてもらったということなのだ。

  • 鎮目博道/テレビプロデューサー・ライター

    92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。近著に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)

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