経験してわかった…米国と日本「オミクロン危機管理の決定的な差」 | FRIDAYデジタル

経験してわかった…米国と日本「オミクロン危機管理の決定的な差」

アメリカで最初のオミクロン株が発生したアニメイベントに日本から参加したカメラマンのリアルレポート

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加藤氏のもとに届いたアニメNYCからのメール(提供:加藤博人)
加藤氏のもとに届いたアニメNYCからのメール(提供:加藤博人)

クリスマスイブの24日、東京都内で新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の初の「市中感染者」が確認された。それに先立ち、12月1日、アメリカ政府の首席医療顧問を務めるファウチ博士がホワイトハウスで会見し、同国内で初めてのオミクロン株感染について発表。

2例目として公表したのは、ミネソタ州在住のアメリカ人で、11月20日にニューヨークで行われたアニメのイベント「アニメNYC」に参加していた。この感染者は11月24日の検査で判明しており、実質、アメリカ国内でオミクロン株初の感染者だったが、このアメリカ人が参加していたイベントに、当時、米国出張中のカメラマンの加藤博人氏も参加。遠隔監視を受けている加藤氏のリアルレポートにより、日米の危機管理意識の違いが浮き彫りになった。

27カ国から5万3000人が参加した「アニメNYC」

12月3日の朝9時前、見慣れない英語のメールが一通、届いた。私が先月参加したアニメNYCからのものだった。すでにニュースで自分が参加していたアニメNYCでオミクロン感染者が出たことを知っていたが正直、直接メールが届いたのには驚いた。参加者全員に送っていると思われた。

「アニメNYCオミクロンの重要な最新情報」と題された文面を和訳すると以下のようなことが書かれている。

<アニメNYCオミクロンの重要な最新情報
2021年12月2日

Anime NYCチームは本日、今年の参加者の一人がCOVID-19のオミクロン亜種に陽性であったことを通知されました。ミネソタ州保健局によると、この参加者は11月22日に軽い症状を発症し、11月24日に検査を受け、その後症状は回復しています。

私たちは、様々な州機関との調整を行っているニューヨーク市保健局の職員、バッジ(入場証)をオンラインで注文したすべての参加者、そして出展者、アーティスト、パートナー企業と積極的に協力しています。参加者の皆様には、NYC Test and Trace Corpsまたは地元の保健局から、さらなる情報と推奨される次のステップについて、メールまたは電話でご連絡を差し上げます。是非、検査を受けることをお勧めします。

ニューヨーク市のパートナーの皆様には、本日およびアニメNYC開催までに多大なご支援とご指導をいただきました。

ニューヨーク・アニメ・コンベンション
2021年11月19日~21日 ニューヨーク州ジャビットセンター>

内容はすでにニュースで報道されたものとほぼ同じ。ニューヨーク保健当局と連携して感染拡大防止に尽力していくこと、参加者はすぐにPCR検査を受けるようにという指示である。また、ニューヨークの保健当局または、居住地にある保健当局から連絡があるとも書いてあった。

アニメNYC(Anime NYC)とは、2017年よりジャヴィッツ・コンベンション・センターで開催されているアニメに関連した総合的なイベントである。ロサンゼルスで開催される米国最大のアニメイベント『Anime Expo』(2019年12万以上)に次ぐ大規模なイベントである。コロナ禍の今年は人数制限をしたが過去最高レベルとなる5万3000人が参加した。入場時には全員に陰性証明ではなくワクチン接種証明書の提示を義務付けており、その確認のために筆者は寒空のもと3時間以上並んだ。開場前から並んだ人は5時間以上も待機列の中にいたと聞く。

会場内ではコスプレイヤーを含む全員にマスク着用を必須とし短時間でも外していると注意を受けていた。チケット購入時にはメールや電話など連絡先の記載を義務付けられていたがこれも何かあった時に連絡が取れるようにということだろう。

ニューヨークで行われた『アニメNYC』の会場前の様子。筆者も寒空の中、3時間以上待った(撮影:加藤博人)
ニューヨークで行われた『アニメNYC』の会場前の様子。筆者も寒空の中、3時間以上待った(撮影:加藤博人)

協賛企業はCrunchyroll(北米におけるアニメの配信会社)を筆頭に、紀伊國屋、講談社、バンダイナムコなどの日系企業が多数。駐ニューヨーク日本総領事館の後援も受けている。

届いたメールには「すべての参加者は~~電子メールまたは電話を受け取る必要があります」と書かれておりメールによる追跡以外に電話でも追跡を行ったと考えられる。世界27カ国から参加した3.5万人にメール、1.8万人に電話…凄まじい執念の追跡が行われていたのだ。

このあと、1週間後の12月9日はさらに2通目のメールが、今度はニューヨーク保健当局から筆者のもとに届いた。内容は1通目とほぼ同じだったが所属する医師の署名がついており、NY市内の検査場の案内なども記されてあった。『症状があるならすぐに検査を受けること。症状がなくても検査を受けてください』との指示が書かれていた。

筆者もそのニュースは見ていて本当に驚いた。とはいえその時点で会場を訪れてから10日が経過しており、アメリカ出国時ニューヨークでPCR、日本入国時空港検疫で抗原定量検査を受けていずれも陰性だったのでとくに危機感を感じることはなかった。もちろん会場でも常にマスクを装着していたし、他の人もつけていたのでアニメNYCの参加を理由にそこまで広がらないのではないか、と個人的には感じていた。

サッカー天皇杯準決勝の川崎―大分戦の観戦に訪れた大勢のサポーター。国内の主要スポーツで初めて観客数の上限が撤廃され、17,595人が集まった(写真:共同通信)
サッカー天皇杯準決勝の川崎―大分戦の観戦に訪れた大勢のサポーター。国内の主要スポーツで初めて観客数の上限が撤廃され、17,595人が集まった(写真:共同通信)

天皇杯準決勝後に判明した感染者とその後の対応

日本でもオミクロン株感染者が続々と増え、12月12日にサッカー天皇杯準決勝を観戦した男性が17日にオミクロン株へ感染していたことが判明した。天皇杯を主催した日本サッカー協会は「来場に際しての事前のご案内」として、来場を控えてほしい条件を複数提示。その中で「(試合当日から)過去14日以内に政府から入国制限、入国後の観察期間を必要とされている国、地域等への渡航または当該在住者との濃厚接種がある場合」とし、その男性が米国から帰国して16日に感染が判明した女性の知人で、男性は感染した女性と会った後に天皇杯を観戦した行動に批判が集まっている。

大会を主催した日本サッカー協会はこの男性の観戦エリア(SA席 メインベンチ左側 メイン上層北側 Bゲート 216、217ブロック)を等々力競技場がある川崎市サイドへ報告し、ホームページでも公表。「体調が悪い方は検査を受けてほしい」と訴えた。日本サッカー協会は天皇杯のチケット購入する際、「JFA会員ID登録」を義務付けたが、たとえば購入者が4人分チケットを買った場合、購入者以外の3人のデータは購入時点では協会側に登録されない。その“漏れ”を少しでも減らすため、試合当日、会場で観戦者全員に「QRコード」の登録を求めたが、あくまでも任意のため、サッカー協会が試合前の時点で全員分のデータをとれたわけではなかった。

また、感染者を追跡する役割を担う川崎市保健所もアニメNYCのように全員に電話やメールで追跡することはしていない。どのように追跡したのか?川崎市健康福祉局保健所感染症対策課に誰を対象にどのような追跡をしたのか?尋ねてみた。

「対象としたのはオミクロン発症の男性の周辺(SA席メインベンチ左側メイン上層北側Bゲート216 /217ブロックの一部)の79席に座っていた方々です。本来このエリアは84席ありますが当事者の男性とその家族合計4名と1席は販売されていませんでした。該当する79席それぞれ購入代表者の方々の連絡先をJFA経由で入手し、電話をしました。また、代表者からチケットを買った人にも連絡をお願いしています。

聞いたことはまず、実際に観戦に行ったかどうか?住所はどちらか?ということです。住所を確認し管轄の保健所から「検査を受けて欲しい」という連絡が届くことも伝えました。ちなみに検査は強制ではなく任意です。行政検査となりますので検査代金は公費負担です。

なお、この79席の方々は濃厚接触者には該当しません。全員がマスクを着用して静かに観戦しており、

・マスク無しで15分以上会話
・大声を出して応援

などの行為はなかったためです。ただし、オミクロン自体がまだ素性が良く分かっていなかったので念のため連絡をとって検査を促しました」

以上が川崎市保健所からの回答である。ニューヨークのように参加者全員(5.3万人)にメールや電話で連絡をすることはしていない。

アニメNYCはニューヨーク市が全面バックアップして万全の防疫体制のもと2年ぶりに開催されたイベントである。しかし、53000人全員にワクチン接種証明書の提示を義務付けたものの、結果的にアメリカ第一号となるオミクロン感染者が出てしまった。これ以上ニューヨークから全米に広まるのを極力抑えるために、執念の追跡を行ったのではないかと考える。

イベントの主催者が感染追跡にどこまで関わるかは、国の法律や制度とも関係しているため、単純比較はできないが、「感染を最小限にとどめたい」という思いをどこまで行動に移すか、という危機感の日米の違いは明らかだろう。

その後、オミクロン株まん延防止の目的でアメリカ入国に必要なコロナ検査のタイミングは出国前3日から1日以内に短縮された。また日本入国に関しても12月4日午前0時以降カリフォルニア州が強制隔離3日間の対象となったのを皮切りに、5日午前0時にはニューヨーク州が追加され、12月17日時点ではミネソタ州、コロラド州、ハワイ州など合計15州からの入国(乗り換えは除外)が3日隔離対象となっている。

しかし、日本入国に必要な陰性証明書はいまだに「海外出国前72時間の検査」となっており、アメリカの「出発前1日」に比べるとかなり緩い。日本のオミクロン感染者の中には入国後、14日間の自主隔離期間に発症しているケースもある。入国時の検査では陰性だったはずだが、空港検疫では「すり抜け」が3割とも言われている。

検査結果の判明まで短時間で済む、という理由で変異株の発見が難しいとされる抗原検査を使用し、詳細な検査が必要だと判断した場合に限ってPCR検査を実施しているのが現状だ。ただそのスタンスでは、オミクロン株感染者を全員あぶり出すことは難しい、と見られている。日本は危機管理方法を見直さない限り、同じような過ちを繰り返し続けることになる。

『アニメNYC』の会場前には、何重にも折り重なって列ができた。入場前のワクチン2回接種証明の確認に時間が割かれたためで、開場前から並んだ人は5時間以上待ったという(撮影:加藤博人)
『アニメNYC』の会場前には、何重にも折り重なって列ができた。入場前のワクチン2回接種証明の確認に時間が割かれたためで、開場前から並んだ人は5時間以上待ったという(撮影:加藤博人)
アニメNYCの参加者は世界27カ国から5万人以上が集結。会場内もソーシャルディスタンスがとれないほどの人だかりができたため、マスク着用は徹底されていた(撮影:加藤博人)
アニメNYCの参加者は世界27カ国から5万人以上が集結。会場内もソーシャルディスタンスがとれないほどの人だかりができたため、マスク着用は徹底されていた(撮影:加藤博人)
中国のゲーム会社によって運営されるオンラインゲーム『原神』のコーナーもあった(撮影:加藤博人)
中国のゲーム会社によって運営されるオンラインゲーム『原神』のコーナーもあった(撮影:加藤博人)
アニメイベントには新日本プロレスの展示もあった(撮影:加藤博人)
アニメイベントには新日本プロレスの展示もあった(撮影:加藤博人)
  • 取材・文加藤博人

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