学校での性被害を描くマンガが伝える「子どもたちの苦しみの現実」 | FRIDAYデジタル

学校での性被害を描くマンガが伝える「子どもたちの苦しみの現実」

苦しんでいる子どものために「社会の呪いを解く」決意をした漫画家・さいきまこさんインタビュー

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「私にも『社会にかけられた呪い』というのがあったんだな、と『言えないことをしたのは誰?』を描いていくなかで気がつきました。この作品を描かなければ気づけなかったかもしれないし、苦しんでいる方をセカンドレイプしてしまう恐れすらあったかもしれません」

こう語るのは漫画『言えないことをしたのは誰?』の作者・さいきまこさん。生活保護や子どもの貧困、介護など社会問題をテーマにした漫画を描き続けている。

『言えないことをしたのは誰?』では学校内で起こる「スクールセクハラ」の問題を描き、2019年に電子雑誌『ハツキス』で連載がスタート。多数のメディアにも取り上げられ、大きな反響を呼んだ。

教師と生徒の間にある「権力関係」。それを利用して行われる性暴力の悪質さ、卑劣さ、残酷さを、『言えないことをしたのは誰?』は描き出す/©さいきまこ/講談社

衝撃の作品、だが現実は…

2021年11月に最終巻となる6巻が発売されたが、さいきさんは「描いても描いても描き足りなかったというのが正直な気持ち」と作品が完結した今そう語る。

「1年半ほど取材をして連載に臨んだのですが、知りたいこと、知らないと描けないなと思うことが連載中もどんどん出てきて、取材をしながら描き続けていました。元々この作品は、保健室の先生を中心に、生徒たちが抱える様々な問題を描いていくというのがプロトタイプで、スクールセクハラもその『様々な問題』のうちのひとつだったんです。

というのも、前作『神様の背中』で子どもの貧困問題を描くにあたり、たくさんの人に話を聞いたのですが、そのなかで『保健室の先生にだけは自分の気持ちを打ち明けられた』という声があって。養護教諭は生徒をジャッジしないから、保健室だけが校内で唯一安心できる場所だと。

親しくさせてもらっているノンフィクションライター・秋山千佳さんの著書『ルポ保健室』でも、そんな保健室の役割が書かれていて、『ここから問題を掘り起こすストーリーを展開していけるのでは』と考えました。

ところが取材を進めていくなかで、スクールセクハラの中でも殊に、教師からの性暴力の問題があまりに大きすぎて。大人になってからもトラウマに苦しんでいるという被害者が大勢いるのを知り、『これは『問題の一つ』としてではなく、全力で取り組んでしっかり描かなければいけない』と思ったんです」

学校をはじめとした教育現場で起こるセクシュアル・ハラスメントが「スクールセクハラ」だ。教員同士、生徒同士、教員と保護者というケースも含むが、中でも深刻なのが教師が加害者で生徒が被害者となるケース。生徒に対して権力を持っている教師が、その立場を利用して行うからだ。

2021年12月21日に発表された文部科学省の調査によれば、2020年度にわいせつ行為やセクハラで懲戒処分や訓告を受けた公立小中高校などの教員は200人 。うち児童生徒らが「性暴力・性犯罪」の被害者だったケースは96件に上ることが明らかとなった。

今回は初めて刑事告訴の状況も調査し、犯罪に当たらないとして告発しなかったのは30件、被害者・保護者が望まなかったなどの理由により告発にまでいたらなかったのが39件だったという。これらは表面化しているものだけであり、水面下で起こっている被害の数は更に多いと思われる。

教師による性暴力の闇に

『言えないことをしたのは誰?』では、ある中学校の養護教諭・神尾莉生の受けた一本の電話から、教師による性暴力の被害が明らかになっていく。

「あなたの学校に時限爆弾が仕掛けられてる」という支離滅裂な内容に困惑し、いたずら電話かと疑った莉生だが、それは、かつての生徒からの悲痛な告発だったのだ。

「円城」と名乗る女性は、なぜ校長室ではなく、保健室の先生宛に電話をかけてきたのか……。気になった莉生は、話を聞くために彼女の元へと向かう /©さいきまこ/講談社

「作品の感想と一緒に、『実は私も小さい頃こういうことがありました』『あの時はわからなかったけど、もしかしたらあれはそうだったのかもしれない』と過去の体験を打ち明けてくれる読者もいました。これは取材のなかでも感じていたことなのですが、被害にあったけど言えなかった、という方が本当に多くて。

スクールセクハラに限らず、小中学生が性被害を受けた場合、まだ性の知識に乏しく、自分が被害に遭ったという自覚がないこともあり、成長してから気づくというケースが多いそうです。作中では『時限爆弾』と表現したのですが、被害を自覚しないまま抑うつなどに悩み、それが爆発するかのように、自殺企図など強烈な症状が表れる人もいます」

被害者はなにも悪くない

「『何かおかしい』と感じていたとしても、周囲に言えないというケースも多い。性被害を打ち明けることに恥辱感があったり、うまく言葉にできないというのもあるのですが、『あなたにも非はあったんじゃないの?』と責められるのではないか、怒られるのではないか、信じてもらえないのでは、と口をつぐんでしまう人も多くいるんです。

『言えないことをしたのは誰?』というタイトルの『言えない』というのはダブルミーニングで、自分がされたことを言えない、被害を訴えることのできない被害者の実情や気持ちというのも含まれています。いったい何が『言えなく』させているのか。それはもしかしたら、『この社会によってかけられている呪い』も関係しているのではないかと、描きながらそう考えていました」

そう言うとさいきさんは、作中に出てくる平手さんというキャラクターのことを例にあげた。平手さんは部活の顧問である杉崎に『特別に指導をする』と学校外に呼び出され、二人きりになってしまうが、莉生が現場に踏み込んだことで学校側にも事態が露呈する。

「被害は未然に防げた」とする同僚の岸先生に対し、「防げていないし、もう被害は始まっている」と莉生は訴える。平手さんがスクールセクハラのターゲットにされたことは事実で、本人もそれに気づいてしまったかもしれない。

「もしこの漫画を描いていなかったら、私も平手さんのような体験をした人から話を聞いたとき、『でも、実際に何かされたわけじゃないんでしょ?』『何も起こってないんだよね?』と思ってしまっていたかもしれません。それこそ作中の岸先生のような、被害者に追い打ちをかける『セカンドレイプ』にあたりますよね。

いったいなぜこう考えてしまったのか? と考えたとき、私自身もまた『そんなことくらいで?』という周りの声や、『このくらい我慢しなくちゃ』という抑圧を経験してきていて、無意識のうちに思い込んでしまっていたのでは、と作品を描きながら気づいたんです。

性被害を性被害と思えない、声を上げた人が『なんでそのくらいで?』と言われてしまう、そんな社会で生きていくうちにかけられてしまう呪いですね。本当に根が深い問題だと思います」

理解を示してくれた同僚の岸先生や武矢先生の協力もあり、被害の連鎖を断ち切ろうと杉崎に立ち向かっていく莉生。

最終6巻で物語は結末を迎えたが、被害者たちは深く傷ついたまま、これからの人生を生きていかなければならない。心を壊し、日常生活もままならない紗月や、「自分がもっと早く声を上げていれば犠牲者は増えなかったのに」と罪悪感を抱えて苦しむ遥といった被害者たちの姿が痛々しいほど克明に描かれる。

「結末については、もしかしたらもっとスッキリするような展開を望んでいる読者さんもいるかもしれないと思っていました。

けれど連載前に取材を始めた時から、勧善懲悪の物語にはならないし、できないなと思っていたんです。知れば知るほど、完璧な救いというのが存在しない問題だという想いが強くなっていったので。読後に『もやもやする』という読者さんもいたかもしれませんが、この作品においては、これで良かったんじゃないかと思っています」

頭痛や腹痛で保健室を頻繁に訪れる紗月。周りからは「仮病」と思われている彼女だが、教師からの性被害に遭い、心身がさいなまれていた。苦しむ彼女に莉生は何をしてやれるのか―― /©さいきまこ/講談社

タブーとされるものを『可視化』する意味

「私が漫画にしたことで傷ついた、という人が絶対にいないとは言い切れません。だからせめて、間違ったことを描かないように、知識を得たかった」と綿密な取材を重ねて本作を描き切ったさいきさん。社会問題を描き続けてきた理由について尋ねると、「さきほど言った『社会の呪い』もそうなのですが、タブーとされて見えにくくされてしまうものを『可視化』したいという気持ちがある」と答える。

「スクールセクハラに限らず、必ずしもすべての性被害者が『声を上げたい』というわけではないと思うんです。

状況は様々で、百人いれば百通りの被害があります。誰にも言いたくない、自分の胸にしまい込んだまま誰にも知られたくないという人だっているはずです。いまの社会の空気の中なら、なおさらです。それは第三者が『こうするべき』と強要するようなことでは絶対にないですし、どの行動が正解ということでもない。

でももし、本人の意志で声を上げたい、被害を訴えたいと思った時、声を上げられる社会でないといけないし、声を上げた人を守ることのできる社会でなければいけないと思います。

そのためにも、こういう見えない問題、隠されてしまう問題をもっと『可視化』していくことが重要なんじゃないかと。見えることによって、考えるきっかけや語るきっかけになるということもあるのでは、と思うんです」

作中、娘が性被害にあっていたのを隠していたと知った岸先生が、どんな言葉をかけていいのかわからず悩むという印象的なエピソードがある。『呪い』が蔓延する社会で、どうすれば子どもたちを守っていけるのか。どうしたら大切な人に、「言えない」苦しみを抱えさせずにすむのか。

私たち大人が知識を身につけ、考えて、その呪いを解いていく。そして「言えない」苦しみのない社会を目指さなければならない。もちろん、犯罪そのものを起こさない努力とともに。


さいきまこ:2000年に漫画家デビュー。生活保護をテーマとした『陽のあたる家〜生活保護に支えられて〜』(’13年)で「貧困ジャーナリズム大賞2014」特別賞を受賞。子どもの貧困がテーマの『神様の背中〜貧困の中の子どもたち〜』(’14年)、介護と高齢ニートがテーマの『家族の約束~あなたを支えたい~』(’17年)など、社会問題を題材にした漫画を発表。


中学の養護教諭・莉生のもとにかかってきた一本の電話。
「あなたの学校には時限爆弾が仕掛けられている」 支離滅裂な内容に、いたずら電話だと思った莉生だったが…。
しかし莉生は、かつてこの学校で行われていた性暴力について知り、さらに今また、そのおぞましい行為が進行中であることを知る。
被害の連鎖を食い止めるため、そして過去に被害を受けた人間を地獄から救い出すため、莉生の孤独な闘いが始まる――!

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  • 取材・文大門磨央

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