新年早々ミサイル打った金正恩「22年の危険な核戦略」 | FRIDAYデジタル

新年早々ミサイル打った金正恩「22年の危険な核戦略」

新年早々の「ミサイル発射」に震撼。軍事ジャーナリスト・黒井文太郎の緊急レポート

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5日、北朝鮮がミサイル発射を敢行した。今年、核実験の可能性も危惧されている。新年に錦繍山太陽宮殿を参拝する金正恩と幹部たち…この独裁体制は、危ぶまれつつも10年続いている。写真:KNS/KCNA/AFP/アフロ

5日午前、北朝鮮がミサイルを発射した。弾道ミサイルの可能性があるという。金正恩総書記が父・金正日の跡を継いで権力を世襲してから10年。年頭から、北朝鮮=金正恩は意気盛んに「攻め」の姿勢だ。

独裁政権を維持する「2つの条件」

独裁者が独裁権力を維持するための条件は2つある。もっとも重要なのは、国内で歯向かう者を根絶やしにする徹底した強権支配で、彼はこの10年、叔父の張成沢はじめ政権の有力幹部を多数粛清することで、それを成し遂げてきた。

だが、独裁権力の維持には、それだけでは不充分だ。独裁国家は国際社会でも平和を乱し、外国と対立する。独裁を維持するために人権を踏みにじり、国際社会から民主化の圧力も受ける。そうした対立が外国による軍事介入を呼び、攻め滅ぼされてしまうことがある。イラクのサダム・フセイン大統領、リビアのカダフィ大佐、アフガニスタンの前回のタリバン政権、パナマのノリエガ将軍など、過去には実例がいくつもある。

しかも北朝鮮の場合、朝鮮戦争以来、米韓軍と軍事的に対峙している。仮に戦争になって敗北すれば、独裁体制を維持できる可能性はきわめて低い。北朝鮮からすれば、独裁の維持を確実にするためには、米韓軍に負けない抑止力を持つことが絶対に必要だ。

そのため、北朝鮮は祖父・金日成の時代から戦力を強化してきた。

北朝鮮は休戦ラインを挟んで米韓軍と対峙してきたが、仮にまた戦争になれば、北朝鮮には万に一つも勝ち目はない。なんといっても米軍には核兵器がある。在韓米軍には核は配備されていないが、遠くからでもいつでも北朝鮮を攻撃できる。北朝鮮側からすれば、それを防ぐには「自分たちも核兵器を持たなければならない」ということになる。

金日成が核武装の道を模索しはじめたのは早い。朝鮮戦争休戦直後の1956年にソ連と原子力研究の協定を結び、60年代にソ連の協力で小型の研究用原子炉(軽水炉)を、80年代には黒鉛減速炉と使用済核燃料再処理施設を建設し、密かにプルトニウムの抽出を始めている。

ところがそれを米国に察知され、80年代末から国際問題化した。金日成はこっそり隠れて核開発し、それが見つかっては交渉に就くという駆け引きを繰り返した。核兵器は開発したいが、かといってその過程で米国と戦争になってはいけない。敗北が確実だからだ。そのため、戦争にならない程度に米国と交渉を継続しつつ、隠れて核開発を進めるというのが金日成のやり方だった。

2006年、悲願の核保有に成功

1994年の金日成の死亡後、金正日が跡を継いだが、彼もまた隠れて核開発を進めた。それは当然、国際社会の反発を呼ぶが、やはり押したり引いたりの交渉術で乗り切り、2006年に北朝鮮はついに核実験を成功させる。当時、一部メディアには「金正日の核開発は本気ではなく、交渉で国際社会から援助を引き出す経済的利益が目的」という外交カード論・瀬戸際外交論が語られたりもしていたが、実際はそうではなく、金正日は父・金日成の悲願だった核保有国化に成功したのだ。

金正日は同時に、弾道ミサイルも開発。2009年には2回目の核実験も成功させる。その2年後に金正日は死亡するが、跡を継いだ金正恩も祖父や父と同様に、核ミサイルの開発を進めた。

金正日の時代ですでに初歩的な核爆弾は作られていて、さらに日本や在日米軍を射程におさめる準中距離ミサイル「ノドン」も完成していたが(※より大型の「テポドン」も作っていたが非移動式なので非実戦的)、金正恩の時代になると、北朝鮮の核とミサイルの技術はさらに進歩し、もはや隠さずに開発を進めるようになった。

金正恩政権の始動は2011年12月だが、核実験は2013年2月、2016年1月、同年9月、2017年9月と続けられた。

他方、ミサイルのほうも、旧ソ連製の液体燃料エンジン技術を使った新型の開発が2017年にいっきに進み、グアムを射程に収める「火星12」、米国本土の西海岸まで届く「火星14」、東海岸まで届く「火星15」の発射実験を次々と成功させた。

高熱が発生する弾頭の大気圏再突入の技術開発状況が不明ではあるが、この火星15の発射実験成功で、北朝鮮は「米国全土を攻撃できる核ミサイルを保有した」と宣言すると、その後もさらに大型の同系統のミサイル「火星17」を開発している。火星17はまだ発射実験が行われていないが、火星15よりも弾頭の積載重量が増強されているものとみられる。

前述したかつての外交カード論の流れで、一部メディアには「金正恩は米国を交渉に引きずり出す目的でミサイル発射している」との解説もあったが、実際にはそうではなく、金正恩は独裁政権維持のための対米核抑止力確保を目指し、それをかなりのレベルまで成し遂げた。

米国との戦争を避けつつ、新型兵器を開発

しかも、その過程で米国と戦争にならないよう巧妙に振る舞った。とくに2017年に米国に届くミサイル開発に成功すると、今度は一転して、緊迫した対米関係を鎮静化すべく、融和攻勢に出た。2018年2月の平昌オリンピックを契機に韓国の文在寅政権を取り込み、「非核化」をちらつかせながら米トランプ政権に緊張緩和交渉を持ち掛け、同年6月には史上初の米朝首脳会談に至った。

しかし、実際にはその後も北朝鮮は非核化にはまったく応じず、核武装を既成事実化させている。北朝鮮は非核化の条件として必ず米国の対北朝鮮核戦力の放棄も掲げており、自分たちだけが核兵器を放棄することは一貫して拒否している。つまり金正恩は独裁政権の生き残りのための最重要な戦力である「米国に届く核ミサイル」を一方的に手放す気など、最初からなかったのだ。

ちなみにこの点で、一部には「経済制裁解除のために非核化するはず」との見方もあったが、制裁解除は独裁生き残りの必須条件ではなく、北朝鮮自身もそれを最優先してはいない旨を明言している(※2020年の新型コロナのパンデミックでは北朝鮮自らが中国国境閉鎖・取引停止しており、制裁解除が最優先政策ではないことを裏付けている)。

対米融和工作では、2019年2月の2回目の米朝首脳会談であくまで非核化を拒否して決裂すると、中国とロシアの後ろ盾を得て国際社会の圧力を回避しつつ、新型ミサイルなど戦力強化に邁進した。

こうした新兵器の中でも、跳躍滑空型短距離ミサイル「KN-23」や極超音速中距離滑空ミサイル「火星8」(一度発射しているが未完成)などは、低い高度を飛ばすことで米軍イージス艦などのミサイル防衛を掻い潜ることを狙うものだ。つまり金正恩は、まず米国に届く核ICBMを開発すると、対米融和工作を仕掛けて非核化を拒否しつつ戦争を回避し、さらにミサイル防衛を突破するミサイルなど実戦的な新型兵器の開発を粛々と進めてきたのだ。じつに巧妙な手法である。

こうして北朝鮮では、金日成が核武装計画に着手し、金正日が初歩的な核武装を成し遂げ、金正恩が実戦的な対米核戦力を構築した。その間、独裁者3代はそれぞれ、米国と戦争にならないように細心の注意を払って駆け引きした。

駆け引きに成功、核武装国に

金正恩はこの10年間でその難しい駆け引きに成功した。いまや米国も、武力を行使して北朝鮮に非核化を強要するような強硬策を検討することはない。事実上、北朝鮮は核武装国となった。金正恩はきわめて危険な戦略家である。

そんな金正恩は2022年も、核ミサイル戦力の強化を図ることは疑いない。金正恩は2021年1月の党大会で軍事力強化の5カ年計画の一部内容を公表しており、今後もそれを継続するために必要な「実験」を行うだろう。

まず、すでに完成したもののまだ発射実験をしていないグアム核攻撃用の潜水艦発射型弾道ミサイル「北極星5」を発射する。完成間近とみられる新型潜水艦から発射する可能性もある。北朝鮮は長時間の潜航が可能で究極の核戦力プラットフォームといわれる原子力潜水艦の開発が進んでいることを公言しており、その完成はまだしばらく先のことだろうが、必要な実験が行われるかもしれない。

また、対韓国・対日本用の新型の長距離巡航ミサイルの実験を重ねて、性能を向上させる。米軍のミサイル防衛を突破して日本とグアムへの核攻撃を狙う極超音速中距離滑空ミサイル「火星8」の発射実験も続ける。やはりイージス艦では撃ち落とせない跳躍滑空型短距離ミサイル「KN-23」を改良して射程を千数百㎞に延ばし、日本全土を狙えるようにする可能性もある。

さらに、おそらく完成したがまだ発射していない新型機動式弾道ミサイル(おそらく準中距離)と超大型ICBM(火星17)の発射実験もあり得る。後者の場合には、開発を宣言している多弾頭で行われる可能性もある。固体燃料型の新型ICBMの開発も宣言しているので、その開発途中の段階で必要な発射実験も考えられる。核ミサイルではないが、やはり開発を宣言している偵察衛星の打ち上げもあるかもしれない。

もっとも警戒すべきは、新たな核実験だ。北朝鮮の前回の核実験は2017年9月で、それ以降、小型軽量化や威力強化(水爆)は大きく進展しているはずで、その実証実験を北朝鮮は行いたい。

ただ、前述したようなミサイル発射実験と違い、核実験となれば後ろ盾の中露も北朝鮮を庇うことが難しく、米バイデン政権も強い態度で臨んでくることは必至だ。つまり、ミサイル発射は2022年も繰り返されるが、核実験が実行されるか否かは国際政治状況をみて、金正恩が慎重に判断することになる。たとえばウクライナ紛争や台湾問題などでロシアや中国と米国との対立が激化したりすれば、金正恩にとっては核実験の大きなチャンスになる。

2022年、金正恩の「戦略」からやはり目が離せない。

  • 取材・文黒井文太郎写真KNS/KCNA/AFP/アフロ

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