『スパイダーマン』最新作が「過去一ヤバい!」と言えるワケ
ついに日本公開! 劇場に行く前に、過去作の復習&本編の見どころを徹底ガイド《※公式情報以外のネタバレなし》
2022年の日本映画界において、最初のビッグウェーブといえばやはりこの作品を置いて他にはないだろう。1月7日に公開された『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』だ。
全米では2021年12月17日に公開。1月5日時点で全世界の興行収入は13億ドル(約1578億円)を超えている。これはなんと、歴代12位の数字だ。公開後3週間足らずでこの成績を叩き出しているところに、本作の“ヤバさ”を感じずにはいられない。
ちなみに、全米オープニング興行成績(公開初週3日間)では歴代2位(2億6000 万ドル超)、全世界では歴代3位(6億ドル超)。コロナ禍における最大のロケットスタートを飾っている。内容も絶賛されており、娯楽シリーズの最新作ながらアカデミー賞に推す声も多い。
日本では『劇場版 呪術廻戦 0』ほか国内作品が好調だが、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』がこの独特の市場においてどれほどの旋風を巻き起こすのか、期待が高まるところ(そもそも日本公開がまさかの3週間遅れになったことで多くのファンが怒りをあらわにしており、本作への熱量がうかがえる)。
本稿では、本作の位置づけを整理しつつ、ネタバレなしで簡単な作品紹介を行う。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を目いっぱい楽しむためのガイドとしていただければ幸いだ。
ついにつながる『スパイダーマン』シリーズ
まず、本作の立ち位置を改めて見ていこう。トム・ホランドが主演を務めた『スパイダーマン』シリーズ(タイトルに「ホーム」が入ることから『ホーム』シリーズとも呼ばれる)においては、3作目。そしてこのシリーズは、『アベンジャーズ』に代表される「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」の作品でもあり、他のMCU作品とも物語が繋がっている。時系列順に並べると
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(’16年)
『スパイダーマン:ホームカミング』(’17年)
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(’18年)
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(’19年)
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(’19年)
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
となる。トム・ホランド版スパイダーマンが登場するのは通算6作目だ。そのため、過去5作品を観ておくと内容がスムーズに入ってくることだろう(細部までみっちり楽しみたい方は、MCU全作品&『ヴェノム』をはじめとするソニー・スパイダーマン・ユニバースほかも履修しておくと安心だ)。
ただ、今回においてはさらに特殊な仕掛けがなされている。実は本作には、ソニー・ピクチャーズが過去に実写化した『スパイダーマン』シリーズ、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズのキャラクターが登場するのだ。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の予告編が公開された際には、『スパイダーマン』シリーズのグリーン・ゴブリンやドクター・オクトパスといった“ありえない”敵の登場に、ファンが騒然となった(しかも演じているのはオリジナルキャスト!)。
つまり、上記のリストに加えて
『スパイダーマン』シリーズ3作(サム・ライミ監督/トビー・マグワイア主演)
『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ2作(マーク・ウェブ監督/アンドリュー・ガーフィールド主演)
も観賞しておくと、より楽しめる構造になっている。
しかし本来、『スパイダーマン』『アメイジング・スパイダーマン』『ホーム』シリーズは全て独立しており、ましてや主演俳優も異なっていて、つながらない存在だった。『ホーム』シリーズはMCUに属するためその系列作品とはリンクするものの、前2シリーズとは主演も異なり、完全に別の作品だった(代替わり制の『007』シリーズをイメージするとわかりやすいだろうか)。それらがつながるなどとは、当然ながらそれぞれの公開時には多くが予想すらしていなかったことだろう。
ただここに「マルチバース」というギミックが導入される。ユニ(一つ)ではなく、マルチ(多数)という点からわかるように、多元宇宙論(宇宙が複数あるという考え方)を用いたものだ。
端的に説明すると、互いに干渉しない縦軸のパラレルワールド(並行世界)が、横軸でつながり、干渉し合う状態がマルチバース。
これによって、それぞれの世界の『スパイダーマン』作品が、一つの世界に集結することが可能になる。作品として最も理解しやすいのはアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』だが、ゲーム『スーパーロボット大戦』や『仮面ライダー』の歴代ライダー集結映画などもマルチバースの一種といえるだろう。
つまり、『スパイダーマン』『アメイジング・スパイダーマン』『ホーム』シリーズは独立した作品とされていたが、実はパラレルワールド状態にあり、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で起こった“事件”によってつながる、ということなのだ。
トビー・マグワイアが主演を務めた『スパイダーマン』シリーズの1作目が公開されたのは2002年のため、約20年をかけてこの夢の企画が実現したことになる。
しかも、MCUは前々から「マルチバース」の導入を匂わせており、前作の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のラストであるキャラクターを登場させ、観客を騒然とさせた。
その前には『ドクター・ストレンジ』や『アベンジャーズ/エンドゲーム』といった作品でタイムトラベルが描かれ、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』後の『ワンダヴィジョン』『ロキ』といったディズニープラスのドラマ作品で、よりマルチバースの概念を細かく解説。アメコミファンにとってはおなじみのマルチバースという概念を、複数作品でじっくりと浸透させていったのだ。
MCUファンからすると「ついにガチのマルチバースが観られる!」とテンションが最高潮になる“祭り”状態。待ちに待った作品だったわけで、世界中で記録的ヒットを叩き出しているのも、当然といえるのだ。
さらに、マルチバースを引き起こす存在として、魔術を使えるドクター・ストレンジを『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に登場させることで、完全に準備を整えた。本作でマルチバースを発生させた以降は、5月4日に公開される『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』につながる模様で(ご丁寧にタイトルに「マルチバース」が入っている)、相変わらずのMCUの周到さには唸らされる。
“一生もの”の思い出になるだろう映画
一つひとつ丁寧に段階を踏んでいくアプローチは「ストーリーがすべてつながっている」を売りにしているMCUならではともいえるが、実は『スパイダーマン』シリーズはことさら配慮を行わなければならない“理由”があるのだ。それは、スパイダーマンはあくまで“親愛なる隣人”であるということ。
アベンジャーズの一員として世界を救うために戦うが、彼の本来のテリトリーはあくまでニューヨーク。マルチバースのようなどデカいギミックを入れてしまうと、本来の作品のテイストとかみ合わない可能性が生じてしまう。
そこでドクター・ストレンジというある種のチートキャラを入れることで、世界観の整合性をも図っているというわけだ(こうした作品愛をきっちりと守り通すところも、MCUが支持されている大きな理由)。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、マルチバースという最大のギミックを取り入れながらも、『スパイダーマン』というコンテンツが本来持っている等身大感や親しみやすさを損なわないように徹底的に配慮が行き届いた作品。今回の物語の中でマルチバースが発生するのは、「自分が高校生だと全世界に正体がバレてしまったスパイダーマンことピーター・パーカーが、ドクター・ストレンジに相談しに行く」ところから始まる。
師匠のアイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr.)と違い、プライバシーを守るためにも(そして、家族や恋人、友人を危険にさらさないためにも)自分の正体を明かさないように努めていたピーター(トム・ホランド)だったが、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』の敵によって正体を拡散され、親友・恋人ともに大学入学を拒否されてしまう。
彼は皆の将来を守るためにドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)に相談し、「世界中の人間がスパイダーマンの正体を忘れる」呪文をかけてもらうことに。だがその儀式の最中にアクシデントが起こり、別宇宙の「スパイダーマンを知っている」存在が吸い寄せられてしまう……という筋書きだ。
スパイダーマンの行動理念は常に「大切な人を守る」で、その結果としてマルチバースが発生してしまうという展開。しかも、それによってやってきたドクター・オクトパス(アルフレッド・モリーナ)やグリーン・ゴブリン(ウィレム・デフォー)を彼は「倒す」のではなく「救おう」とする。
スケール感が大きくなろうが、本質はまるで変わらないのが『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のスゴさであり、ヒーローの在り方を描く作品のテーマしかり、徹頭徹尾「私たちのスパイダーマン」であり続ける点が秀逸だ。
ストーリー、アクション、キャラクター、仕掛けの数々――。映画史に残るお祭り映画でありながら、“らしさ”を決して忘れない『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。劇中にはまだまだ大量のサプライズが隠されており、細かな演出や何気ないセリフ、ちらりと映り込むアイテムにもあふれんばかりの愛情が詰まっている。いわば、プロが作った究極のファンムービーでもあるのだ。
あくまで筆者個人の感想ではあるが、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は鑑賞者にとって“一生もの”の思い出になる映画。2時間29分の超大作だが、初観賞の際には、序盤からラストシーンに至るまで泣き通しだった。そんな作品には、一生のうちに何度も出合えるものではない。
ぜひしっかりと復習をしたうえで、準備万端で映画館に向かってほしい。
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■『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
2022年1月7日(金)全国の映画館にて公開
・監督:ジョン・ワッツ
・脚本:クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ
・製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル
・出演:トム・ホランド、ゼンデイヤ、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョン・ファヴロー、ジェイコブ・バタロン、マリサ・トメイ、アルフレッド・モリーナ、ウィレム・デフォー、ジェイミー・フォックス
・日本語吹替版声優:榎木淳弥、銀河万丈、山路和弘、中村獅童、三上哲、真壁かずみ、ネッドなど
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文:SYO
映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション勤務を経て映画ライターへ。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント等幅広く手がける。