日本を賑わせた二人のボクサーが語る「ボクシング界の大盲点」 | FRIDAYデジタル

日本を賑わせた二人のボクサーが語る「ボクシング界の大盲点」

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一見正反対な二人に見えるが、交流は20年以上続いている。互いに「宏ちゃん」「大ちゃん」と呼び合う仲

危機感を持つ二人が…

元いじめられっ子と、元ヤクザー。

「ガチンコファイトクラブV」にも出演し元祖・入れ墨ボクサーとして人気を博した大嶋宏成(47)と、WBCの世界チャンピオンとして5度の防衛を果たした内藤大助(47)。一見交わらないような異色の経歴をもつ2人だが、同期の新人王ボクサー同士として、今なお深い交流を続けている。

そんな2人に共通するのは、ボクシング界の垣根を越えて抜群の知名度を得たことだ。「ボクシング人気の低迷には根深い理由がある」と提言する2人が、大嶋が経営する「居酒屋いきや」で現役時代、ボクシング界の未来や問題について語り尽くした。

「もし井上尚弥と戦わば」

内藤大助(以下・内藤):今でもはっきり覚えているのが、98年の新人王の時。既に宏ちゃんは知名度抜群で本当に羨ましくて、雲の上の存在だった。何より有名人なのにがっついてなくて、どこかスマートさもあって。僕はその時なんとか頑張って新人王を取れたレベルだったんですが、宏ちゃんのところに行って「一緒に写真撮って下さい」と頼みにいった。そしたら、宏ちゃんが「おお、いいよ!」と。嬉しかったけど、同年代なのに何でこんなにふてぶてしくて堂々としてるんだ、と思ったよね(笑)。

大嶋宏成(以下・大嶋):あの時はメディア効果もあって人気があったからね。試合会場はいつも満席で、日本タイトルマッチなのにダフ屋が出たりしてたよね。イケイケで勘違いもしていた時期だった。でも、ボクサーとしては結果的に大ちゃんとは差がついちゃったな。大ちゃんのその後の活躍を見て、やっぱり世界チャンピオンになるボクサーとそうでないボクサーには大きい壁があるな、としみじみ思った。

内藤:宏ちゃんは練習が嫌いだったから(笑)。ただ時代は変わったな、とは感じる。昔は世界チャンピオンの名前を全員言えた人も多かったけど、今はボクシングファンじゃなければ、知っているのは井上尚弥・井岡一翔・村田諒太くらいじゃないかな。

現役時代の大嶋選手。内藤とは正反対のキャラクターで「雲の上の存在」だったという

大嶋:実際にプロ登録されるボクサーは年々減ってるらしいしね。もし仮に大ちゃんが井上と戦うならどう戦う?

内藤:ボクシングという競技は、チャンピオンになると「勝って当たり前」と思われるときがあって、そういう試合が一番難しかったりする。先月の井上君の試合も、その点で難しさがあったと思う。僕の場合もそうで「勝って当たり前」と思われる試合のほうが大変だったな。反対に、ポンサクレック(ウォジョンカム)とか強い相手とやるときの方が、案外腹を括れた。だから、井上君とやるとしたら「内藤が負けて当たり前」と思われているから、気は楽かな(笑)。もし現役なら一回は拳を交えてみたいと思う。

大嶋:間違いなく歴代の日本人でも最強だよね。1人のずば抜けた才能が、競技を底上げしたという事例だと思う。ちなみに俺は絶対に戦いたくない(笑)。

内藤:とはいえ、まともに戦っても絶対勝てないから、考えられる作戦はノーガード戦法かな。僕は実はボクシングオタクで、歴代の名王者のボクシングをビデオが擦り切れるほど見てきた。変則ボクサーとしても有名だったナジーム・ハメド(フェザー級元三団体王者)やロイ・ジョーンズ・ジュニア(4階級制覇の元ヘビー級王者)のボクシングも大好きで、彼らは変則といわれながらも、実は基本に忠実なんですよ。彼らのやり方は、自分の得意なスタイルに近い。現役時代もリーチが長くて、運動神経だけは自信があったから“虫みたいな動き”と言われていたくらいで。

いまのところ誰も井上尚弥相手にノーガードで戦ってないから、彼はそういう戦法に慣れていないんじゃないかな。だからノーガードを基軸に、1Rから少しずつ技術を小出しにして戦うしかない。ボクサーは初めて戦うスタイルの相手には必ず戸惑いが生じるから、それを小出しにしていく。

あと大事なのは目を合わせないこと。目をそらすことで、こちらの狙いやタイミングを図らせないことも効果があると思う。

大嶋:ノーガードなら結果的に倒されるのが早くなるだけ、という気もするけど(笑)。

「ボクシング人気が落ちた理由」

内藤:そもそも負けて当たり前だから、奇策が打てるんだよ(笑)。ところで、宏ちゃんは最近注目している日本人ボクサーはいる?

大嶋:正直、最近はいないかな。俺達の時代と違って、ボクシングの技術は格段に上がって、競技として洗練されてきたし、コメントも優秀な“人格者”的なボクサーが増えた。でもいざ会場に行きたいか、と言われると、井上尚弥の試合以外は金を払ってまで見ようとは思わない。カッコいい、と感じたのは辰吉丈一郎さんが最後かも。

内藤:たしかにお金を払ってでも見たいと思えるボクサーは減ったかもね。僕は鬼塚勝也さんの入場シーンに憧れがあって。黒のガウンを頭から被って、鋭い眼光でリングに向かう様子はボクサー以外でも真似するほど人気があったからね。

イケメンで独特の雰囲気があって、女性人気もスゴかった。ボクサーの根源にあるのは強くなりたいという思いだけど、そのうえで、モテたい、有名になりたい、金持ちになりたいという気持ちもあって、それが大きなモチベーションだった。まあ、僕は世界チャンピオンになるまでは全然モテなかったな(笑)。

大嶋:俺は正直モテたよ(笑)。結局どこまでいってもボクシングは興行であり、人気商売でもある。だからプロとしてどう振る舞うか、いかに多くの人に知ってもらうか、というのは大きな要素で。でも体質が古いからコミッションもそれを良しとしない風潮があって。

そういう意味では朝倉兄弟がいる「RIZIN」や「K-1」といった格闘技団体と比べて、コミッションの努力も足りないと思う。選手個々で見ても、自分の売り出し方が弱いというか。大ちゃんはそういわれると嫌がるかもしれないけど、大ちゃんの知名度が上がったのも亀田大毅戦が大きかったと思うから。悪役とヒーローという構図が出来上がっていて、一般の人から見ても分かりやすさがあった。

全然モテなかったという内藤に対して、モテていたという大嶋。この二人のギャップも面白い
大嶋が経営する居酒屋「いきや」の前で。今後はジム運営もしていきたいと精力的だ

内藤:よく誤解されがちだけど、僕は亀田一家には面白い面もあるなとみていて。過激なパフォーマンスをして、マスコミをうまく使って盛り上げるという、プロとして見習うべきだなと思う部分も多々あった。実際にボクシングに関心がない人も、亀田家がボクシングを観るキッカケだという人も多かったからね。

そういう意味では彼らのプロ意識は高くて、それはいまの選手達と違う部分だとも思う。ボクシング人気のためには、亀田兄弟のようにキャラが立ったボクサーというのも必要だし、自分もプロとしていかに振る舞うか、どうあるべきか、という自己プロデュースという点では人一倍努力してたから。

大嶋:ボクシング人気が落ちた理由はいくつかあるなと思っているんだ。レフリングの曖昧さという問題、競技人口が減っているのに団体が多いことにより増えすぎたチャンピオン、それでも据え置きな選手のファイトマネー、「会長が絶対」というジムの制度……挙げればキリがない(笑)。

内藤:リング上の事故が相次いだから仕方ないんだけど、個人的に気になるのは昔よりレフリーが試合を止めるのが早いことかな。まだやれる場合でもストップが早すぎるから劇的な逆転劇も少なくなったし、面白い試合が減っていった面もある。安全面とのバランスも考えると、難しいところなんだけれど。

大嶋:今のチャンピオンクラスはほとんどがアマチュアボクシング出身で、格段にレベルが上がった。技術があって礼儀正しいというエリートタイプのボクサーが増えたよね。言い換えれば競技が洗練され、アスリート化されてきている。それはもちろんいいことではあるけど、試合の面白さという観点から見ると物足りないと感じる人もいる。

ボクシングだけは特別

内藤:技術面が相対的に上がっているのは間違いないと思う。アマチュア出身者はやっぱり基礎が出来ているからね。少し話が逸れるけど、現役の時、山中慎介さん(WBCバンタム級で防衛12度の元世界チャンピオン)とスパーリングをしたことがあって、終始押していたと思ったら、一発だけフルフェイスの上からあの左をもらって、ヘッドギアごと鼻を潰されたことがあった。

「ああ、あれが神の左か」と思ったんだけど、山中選手は、大袈裟にいえばほぼワンツーだけであそこまで防衛を続けたことからも分かるように、基礎がしっかりしていた。そこがアマチュアを経由しているかどうか、の絶対的な差だと感じる。アマチュアを経由してない世界チャンピオンは、たぶん僕が最後くらいじゃないかな。

大嶋:エリートスポーツになり技術が上がった一方で、「負けたら終わり」という意識は薄れていった。リング上で死に物狂いで自分を表現する選手も減ったように映るかな。今は日本人選手が挑戦できる団体が増えたこともあって、一回や二回負けても世界戦に挑戦できる可能性は全然あるでしょ。当時は負けたら這い上がるのが難しくて、終わりだと思っていたから、生きるか死ぬかという戦場にいるという感覚だった。選手の生き様が拳に反映されるので、ドラマも多く生まれたとも感じる。

内藤:世界的にみても、競技人口が減っているのにランカーを増やしているようなスポーツは珍しい。これはボクシング界全体で考えるべき問題だと思う。宏ちゃんみたいにボクシングを通じて更生できた子はどの時代にもいるし、そういったバックボーンがある人間の居場所となってきた面もあった。実際に僕もボクシングに出会わなければ、北海道のいじめられっ子で終わっていたと思うから。そういうボクサーが減ったのは少し寂しい。

大嶋:少年院に入り、ヤクザになって……自分も、もしボクシングがなければ今頃野垂れ死んでたんじゃないかな。引退してタレントや俳優も経験して、お店もやらせてもらって。でもやっぱり俺の中でボクシングをやってきた時間は特別で。今は休止していたけど、今年からまたジムの運営も再開する予定。そこで個性的なボクサーを世にどんどん出していきたいと思っている。

内藤:僕も近い将来自分のジムはやりたい。なんだかんだいって、結局は強烈なキャラクターのボクサーが出てくることが一番競技にとっては大きいし、そういう選手を僕も育てて、自分の経験を伝えていきたい。僕や宏ちゃんのようにエリートではない経歴だからこそ、選手に伝わることもあるし、その部分が今の時代だからこそ大切じゃないかな、とも思うから。

昨今の格闘技業界事情を語りつくした一夜に
  • 取材・文栗岡史明

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