「顔パンツの呪縛」マスク生活が子どもの心理に与える影響 | FRIDAYデジタル

「顔パンツの呪縛」マスク生活が子どもの心理に与える影響

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マスク着用が推奨されて早2年。律儀な日本人はひたすらマスクをつけ続けてきた。

感染対策に勤しむ一方で、女性を中心に進んだのがマスクの「顔パンツ化」だ。顔パンツ派は人前でマスクを外すことに抵抗があり、往々にして「感染が収束してもマスクをつけ続けたい」と言う。

この先もマスクをつけ続けると、何かしらの弊害が生まれたりしないだろうか。比較認知科学や実験心理学を専門とする名古屋大学・川合伸幸教授に聞いた。

恥ずかしいからマスクは外さない! その行動が引き起こす20年後の問題とは?(写真:アフロ)

マスクを外したくないという人は、自分を美化している!?

そもそもコロナ禍以前は平気で顔を出していたのに、なぜマスクを外すことが恥ずかしくなってしまったのか。

「マスクを外したくないという人は、気に入らないと思っていた口元や鼻を隠すことで美しい顔をイメージし、頭の中でフォトショップのように、微妙に修正しているのかなと思います。マスクを外すと修正済みではない自分が見えてしまうので、つけていたいと思うのかもしれません」(川合伸幸教授 以下同)

昔から「夜目遠目笠の内」という言葉があるが、顔が見えにくいと、見えない部分を脳が補って想像するので美しく感じる、ということはあるようだ。確かに「マスク美人」という言葉も登場している。ただ実際に実験をしてみると、マスクの有無は魅力度にあまり影響しないという結果が出ている。

「かなり昔に私の友人が行った実験ですが、マスクをした女性の写真とノーマスクの女性の写真を男子学生30〜40人に見せて魅力度を評定させたところ、結果はどちらも大差はありませんでした」

そうなると、やはりマスクを外したくないという心理は自意識から生まれるのだろうか。人間の目はカメラのように物理的にものをとらえているわけではなく、そこにいろいろなことを補完し、さまざまな情報を付加している。わかりやすい例が、日本の「かわいい文化」を代表するハローキティだ。

「キティちゃんには口がありません。それはぬいぐるみを前提に作られているからです。お友達としてそばにいるので、その時々の持ち主の気持ちをうまく当てはめるために、あえて口をなくしています。 

女性がマスクをつけて美人の顔を当てはめるように、口のないキティちゃんは自分が笑っているときには一緒に笑ってくれている気がするし、悲しいときには悲しんでいるように見える。持ち主の気持ちに寄り添えるようになっていて、非常にうまくできているなぁと感心します」 

仕事を選ばないキティちゃん。みんなのお友達でありながら、ハロウィンにはゾンビにもなる。ノーマウスだから変幻自在だったのか! (写真は「ショートショート・フィルムフェスティバル&アジア2021」より:アフロ)

マスク社会で育つ子どもたちへの弊害

マスク着用で顔パンツ派が穏やかに暮らせるなら、それはそれでいい気もするが、実は弊害もある。中でも幼児の心に与える影響は深刻だという。物心がついた時から世の中の人全員がマスクをつけている中で成長するというのは、確かに自然な状態とは言えない。

「コロナ以前も、保育士さんたちは冬になるとマスクをすることが多かったのですが、マスクに大きくUの字を書き、笑っていることがわかるようにしていた方たちがいました。

幼児が人間の顔を描けるようになると、口は必ず大きなUの字で表現します。幼児にとってUの形の口は安心でき、自分を受け入れてくれているサインなのです」

幼少期に笑顔に触れる機会が極端に少ないと、ネグレクトを受けた人と同じ状態になる危険性があるという。ネグレクトの場合は成長してから精神に不安が生じたり、鬱になる可能性もある。

「これはアメリカのデータですが、社会的な情報を司る脳の発達が悪くなるため、やや言語等の発達が遅れることもあります」

家族が笑顔で接していれば回避できるのかというと、そんなに単純な問題ではなさそうだ。

「家族以外の人を信用しにくくなるかもしれません。付き合いの濃さには、普通は“家族>ごく近い友達>同じクラスで顔は知っている”といったグラデーションがありますが、笑った顔を見たことがないとなると、仲の良い人とそうではない人とにスパッと分かれ、付き合い方のグラデーションはなくなりそうです。 

ソーシャルディスタンスといいますが、人生にはソーシャルにディスタントであってはいけない時期というのがあると思うんです。ビデオで顔が観られるからいいというのでは、テレビで好きな俳優さんを観ているのと変わらないですよね。 

横にいて、同じ場所で同じ時間を過ごすことには複合的な意味がありますから、画面で繋がっていればそれでいいというものではありません」

口を大きくUの字で描くのは幼児期だけで、小学生になると次第に描かなくなるという。笑顔は子どもにとって安心安全の象徴なのだ

理由を知れば納得。欧米でマスク反対の声が大きい訳

いささか不安になってしまうが、それでも日本は口元よりも目から表情を読み取る文化なので、西洋人に比べればマスクのダメージは少ないのだとか。言われてみれば顔文字ひとつをとっても、日本人は目元、西洋人は口の部分に表情をつける。笑顔でいうと、日本の(^^)に対し、西洋では:)になる。

「日本人は人の目を見て話さないなどと言われますが、表情認識をさせると日本人は目元ばかり、しかも右目と左目を同じような順番で見ていて、西洋人はT字を描いて目と口の両方を見ています。 

西洋人がマスクに抵抗があるのは、日本人がサングラスに抵抗があるのと同じ感覚で、相手の表情が読み取れないから怖いのではないでしょうか。

 もしも我々がお葬式でも授業でも“ちゃんとサングラスをかけてきなさい”と言われたら“エエーッ!?”となりますよね。ちょうどそういう感覚なので“そんなのやってられるか”となるのだと思います」 

まだしばらくはマスクを外せない状態が続きそうだが、それでも打つ手はあるようだ。川合教授が最近行った実験が興味深い。

「誰かが映っていて声が聞こえない状態と、姿は見えないけれど声は聞こえるという状態のビデオを流しながら食事をしてもらうと、後者のほうが食欲は増し、食事も美味しく感じられることがわかりました。 

オンライン会食などでも顔が写っているのがいいと思いがちですが、実は声が聞こえることで、人と直接関わっている感じがするようです。一人暮らしの学生などの孤独を癒すには、ラジオも有効です。 

いま学校では“黙食”が推奨されていますが、少し感染が収まってきたら、マスクをつけたままでもなるべく喋りましょうという方向で行くのがいいかもしれません。誰かとやり取りをするなら文字だけのLINEより、声を使った電話のほうが見えない部分を補うことができます」

コロナ禍が収束し、マスクが不要となったとしても、多分日本人はマスクをつけ続けるだろう。そんなマスク生活が子どもたちにどんな影響を与えるのか。

結果が出るのは20年後のことだ。感染対策とともに心の健康を考えていくことが、今後の大きな課題になるかもしれない。

川合伸幸(かわい・のぶゆき) 名古屋大学 大学院情報学研究科 教授。研究領域は比較認知科学・認知科学・実験心理学・生物心理学・生理心理学・神経科学。キャッチボールでの仲間はずれによる脳の反応、ヒトが加齢によって“待てなくなる”原因など、興味深い研究を続けている。記事に登場したキティちゃんの話は、論文『能面とモナ・リザとハローキティ』より。著書は『科学の知恵 怒りを鎮める うまく謝る』(講談社)、『凶暴老人 認知科学が解明する「老い」の正体』(小学館)ほか多数。

  • 取材・文井出千昌

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