箱根駅伝は青学圧勝でも「大会優勝校と志願者激増」に因果関係なし
ラグビー、箱根駅伝……。メジャーな学生スポーツで優勝すれば、直近の入試で志願者が大幅に増える!? 大学関係者の間では、そんな真偽不明の通説がある。それって本当? 専門家が徹底検証した。
「結論から言うと、スポーツでの優勝と志願者の増減に因果関係はほとんどありません」
そう語るのは、教育ジャーナリストの小林哲夫氏だ。まずは、以下の数字をご覧いただきたい。ラグビーと箱根駅伝で初優勝した各大学の、当年と前年の志願者比較だ(『蛍雪時代』(旺文社)、大学通信、リクルートなどのデータから作成)。
●ラグビー初優勝(カッコ内が前年志願者と増減)
・大東文化大(88年) 3万1796人(↑2万4957人)
・帝京大(10年) 3万7720人(↑3万5848人)
・天理大(21年) 475人(↓730人)
●箱根駅伝
・大東文化大(75年) 1万598人(↓1万1049人)
・山梨学院大(92年) 1万53人(↑9655人)
・神奈川大(97年) 2万8417人(↓3万2698人)
・亜細亜大(06年) 1万668人(↑9255人)
・東洋大(09年) 6万9157人(↑5万9638人)
・青山学院大(15年) 5万9738人(↑5万5893人)
各大学や年によってバラつきがあるものの、「激増」と言えるのは88年にラグビーで優勝した大東文化大ぐらいだろう。前出の小林氏が解説する。
「88年に大東文化大の志願者が増えたのは、ラグビーの優勝が要因ではなく、バブル絶頂期に入り受験生が何校も受けられるようになった時代背景が影響していると考えるのが適当でしょう。ラグビーや箱根駅伝が行われる1月には、大半の受験生が志望校を決めています。どの大学が優勝しても、志願者の増減に大きな影響はないんです。
では、なぜ各大学はスポーツに力を入れるのか。ポイントは3つです。特に難易度が低い新興校に当てはまります。1つは、全国放送のスポーツで優勝することによる知名度アップ。2つ目は、イメージの刷新。3つ目が、在学生やOBの愛校心の向上です。第一志望でない大学に入学した学生や卒業生も、母校が優勝すれば自然と気持ちが高まるものです」
薬師丸ひろ子で激増した大学
小林氏によると、優勝した大学を志望しようと考えるのは、そのスポーツに従事し「日本一になりたい」と考える体育会系の部員ぐらい。一般の受験生にとっては、もっと身近な要因が志願を左右するという。
「ここでもポイントは3つあります。1つは不祥事。18年5月に起きた日本大の『アメフト危険タックル事件』で、同大の志願者は翌年1万5000人ほど減りました。2つ目が、受験科目数の増減や通いやすい場所へのキャンパス移転などです。
3つ目が、有名人の入学。玉川大は、女優の薬師丸ひろ子さんが入学した83年に志願者を増やしています。彼女が受験した文学部英米文学科の倍率は、前年の4.7倍から7.6倍。大学全体でも、5.1倍から6.7倍になりました。薬師丸さんの玉川大受験が早くに知らされていたからで、因果関係は若干あるとみていいでしょう。
ただ、こうした要因が当てはまるのも比較的難易度の高くない大学や新興校でしす。早稲田や慶応などの難関大学で不祥事が起きても、志願者はあまり減らない。03年に早大で発覚した『スーパーフリー事件』や、16年に起きた慶大『広告研究会わいせつ事件』でも、翌年の両校の志願者に大きな影響はありませんでした。また早大には65年に吉永小百合が、98年に広末涼子が入学していますが、いずれも志願者大幅増とはなっていません」
では、なぜ学生スポーツとしてラグビーや箱根駅伝ばかりが注目されるのだろう。小林氏が続ける。
「両競技ともプロがそれほど活発でなく、学生が主役になれるスポーツだからです。野球やサッカーなどのメジャースポーツはプロの人気が高いため、大学生の活動はあまり脚光を浴びません。
高校生なら時代により、人気のスポーツが変わります。漫画『スラムダンク』が流行すればバスケットボール、『キャプテン翼』でサッカー、ドラマ『スクールウォーズ』でラグビーと……。しかし大学生を主人公にした漫画やドラマは、ほとんどない。時流の影響を受けづらいのが、大学生のスポーツなんです。今後も『学生スポーツ』の主役は、ラグビーと箱根駅伝でしょう」
志願者増にならずとも、ラグビーや箱根駅伝での優勝はなによりの宣伝。中長期的にみれば、当該大学にとって大きなメリットになることは間違いなさそうだ。
写真:共同通信社