「令和の中田英寿」青森山田・松木玖生に漂う大物感と昭和の薫り | FRIDAYデジタル

「令和の中田英寿」青森山田・松木玖生に漂う大物感と昭和の薫り

きょう10日に全国高校サッカー決勝に出場する「最高のキャプテン」の物語

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準決勝の高川学園戦でもゴールを決めた松木玖生(写真:アフロ)

100回の記念大会を迎えた全国高校サッカー選手権。その優勝候補筆頭として真っ先に名前の挙がるチームが過去3大会の結果が「優勝、準優勝、準優勝」となっている青森山田高校だ。今大会も勝って当然と目されるプレッシャーに打ち克って勝ち残り、10日の決勝に駒を進めている。

そんな常勝を志す最強チームにあって、「最高のキャプテン」と黒田剛監督から信頼を寄せられる男がいる。松木玖生(くりゅう)。4学年上のU-22日本代表にも選出され、来季からJリーグFC東京への加入も内定している。まさに令和時代のスーパースター候補と言うべき存在だが、不思議と「昭和の薫り」を感じる選手でもある。

「いまの時代に珍しいタイプだよ」

松木がまだ1年生だった頃から、指揮官はそんな言葉を何度も使ってきた。さまざまな指導者から「大人しい子が増えた」と言われる現代にあって、松木が宿すのは負けん気の強さと我の強さ、そしてそれを軋轢をも恐れずに正しいと思ったことを主張する逞しさだ。

「肝が据わっているし、何でも先頭を切って行動を起こす。発言するときも堂々としている。近年なかなかこういうタイプの選手はいなかった。サッカー選手というよりも一人の人間として、まずちょっとモノが違う。大物になりそうだぞというのはずっと感じていた」(黒田監督)

実際、1年生だったときから松木をレギュラーで起用した黒田監督にその理由を尋ねて返ってきた答えが「ふてぶてしくて良いでしょ」というもの。1年生で最強チームのレギュラーに抜擢されるとビビってしまう選手も珍しくないものだが、物怖じしないどころか、「ふてぶてしい」と評されるほどに堂々としたプレーを披露し続けた。

いや、プレーだけではない。守備をサボっていた先輩に食ってかかる場面に出くわしたこともあり、その先輩のほうが「悪ぃ」と認めて引き下がっていたほど。実力があるからこそ言えるというのも当然あるが、トレーニングでも試合でも手を抜かず、誰よりも真剣だからこそ認められる(でなければ、絶対に許されない)立ち居振る舞いでもあった。2学年上の先輩で、現在は浦和レッズでプレーするMF武田英寿が「(松木の)サッカーに対する意識は本当に高い。自分も刺激になる」と語っていたほどだった。

先輩や指導者に対しても正論を言うのを恐れない堂々とした立ち居振る舞い、負けず嫌いで成長への強い意欲を保ち続ける姿勢、そして小手先の技術に頼らず、肉体的・精神的な強さを感じさせるプレースタイル……。決してそっくりというわけではないのだが、かつて日本サッカーを背負った中田英寿のことをどこか思い出させる選手である。

もちろん指導者からしてみると、いわゆる扱いやすいタイプではない。だが、基本的に武闘派である青森山田では好まれる気風だ。「まとめるのが大変になるけれど、人間的なパワーのある選手が集まったときのほうがチームは強くなる」と語ってきた黒田監督にしてみると、松木のような「骨のある」選手は大歓迎だった。

「お互いの悪いところに目をつぶって仲良しでいるほうが楽だし、高校生はどうしてもそっちに流れがち。でも松木は他人に厳しく言うし、逆に言われたことも受け入れる。ウチはそういう雰囲気のチームでありたいと思っているし、それをやってくれるキャプテンがいるのは大きい」(黒田監督)

FC東京の入団会見。松木の左が青森山田高校・黒田監督、右が青森山田中学の上田監督。松木の成長にはかかせなかった恩師だ(撮影:川端暁彦)

今年の青森山田は夏の全国高校総体で優勝を飾り、Jリーグのユースチームを含めた強豪が集まる高円宮杯プレミアリーグEASTでも優勝。年間を通して強さを維持し続けているが、その中心にいるのは間違いなく、自分のプレーにもチームのパフォーマンスにも妥協を許さない松木だった。

青森山田では松木を育てるにあたって、その負けん気の塊のようなメンタリティをよく利用してきた。青森山田中学校を率いる上田大貴監督は、「2年生で中学のレギュラーになって、ちょっと調子に乗ってきた」松木少年を、高校トップチームの練習に放り込む。自信満々で乗り込んだ松木はそこで自分のプレーを全くできず、「先輩たちに鼻を折られて帰ってきた」(上田監督)。

そこで自信を喪失するのではなく、闘志に火がつくのは指導陣の予想どおり。練習に取り組む姿勢に一段の凄味が加わり、大化けが始まった。この負けん気の強さは松木のエネルギーの源泉で、無類の努力家である彼を支えてきた要素だろう。

中学時代から年代別の日本代表に選ばれていたが、主に評価されたのは守備の強さやガッツの部分。ポジションも代表に呼ばれると左サイドバックに回ることが多く、本来の位置である中盤の中央で起用されることは少なかった。ただ、そうした評価や、より高い評価を受ける選手たちと一緒にプレーした経験を、成長へのエネルギーに代えていく強さがあったのも確かだ。

そんな負けん気の塊のような選手にとって、高校サッカー選手権で2年連続準優勝に終わってしまったことは屈辱でしかない。「この大会に勝つためにやってきた」と誓って臨んだ今大会、リターンマッチの場となる決勝に向けてその状態は着実に上がってきている。準決勝では松木自身のスーパーゴールを含めて6-0と高川学園に圧勝してみせた。

だが、準決勝で大勝しているのは前回大会と同じ。それゆえ、慢心の気配は皆無だ。

「まだ自分たちは選手権で何も成し遂げていない」(松木)

いわゆるビッグマウスで周囲を沸かせるタイプではない。むしろ公の場に出れば口数は少ない。しかし言葉の一つ一つに自信がこもり、そのプレーには魂が宿る。「今どき珍しい」大将らしい大将が、青森山田で過ごした6年間の集大成として、100回目の高校サッカー王者を獲りにいく。

高校1年生のときの松木。あどけなさが残る(撮影:川端暁彦)
同じく1年生のときの松木。ボールを持つと一気に上級生の風格(撮影:川端暁彦)
U-22日本代表の合宿に参加する松木(撮影:川端暁彦)
  • 取材・文川端暁彦

    1979年生まれ。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始める。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『サッカーキング』『Footballista』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』『ギズモード』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯優勝プラン』(ソルメディア)

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