核・ICBM実験再開へ。金正恩が予告した恐ろしい「行動」の意味 | FRIDAYデジタル

核・ICBM実験再開へ。金正恩が予告した恐ろしい「行動」の意味

「瀬戸際外交」ではない。北京五輪を前に一気に緊迫する北朝鮮事情

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北朝鮮は「本気」だ。年明けからのミサイル発射に対し、日本の報道機関の分析は甘すぎる。これは「対米牽制」ではなく、明確な「核・ICBM実験再開予告」である。軍事ジャーナリスト黒井文太郎氏の緊急レポート。

これは「瀬戸際外交」ではない。金正恩が高らかに宣言した「恐ろしい決意」とは。相次ぐミサイル発射は「単なる牽制」ではない 写真:AFP/アフロ
これは「瀬戸際外交」ではない。金正恩が高らかに宣言した「恐ろしい決意」とは。相次ぐミサイル発射は「単なる牽制」ではない 写真:AFP/アフロ

高らかに宣言された「実際の行動」とは

1月20日、朝鮮中央通信は前日に行われた党政治局会議の内容を報じた。それによると、金正恩は長く自重してきたICBM(大陸間弾道ミサイル)発射と核実験の再開の検討を指示したという。

その記事の書きぶりはこうだ。まず何年にもわたる米国の敵対的姿勢を非難したうえで、

「米国の敵視政策と軍事的脅威がこれ以上、黙過できない危険ラインに至ったと評価し、米帝国主義との長期的な対決により徹底的に準備しなければならない」

「われわれの物理的力をより頼もしく、確実に固める実際の行動へ移るべきであると結論した」

これは明らかに「米国に敵対的姿勢を手控えさせることを狙って牽制する」ようなふわりとした内容ではなく、悪いのは米国だということにして自分たちの「実際の行動」を正当化する主張である。「実際の行動へ移るべきであると結論」つまり「やる」と決定したことを示すほとんど予告に近いものだ。

その「実際の行動」の中身については、

「われわれが先決的に、主動的に講じた信頼構築措置を全面再考し、暫定的に中止していた全ての活動を再稼動させる問題を迅速に検討することに対する指示を当該部門に与えた」

とした。

具体的には書かれていないが、この暫定的に中止していた活動とは2018年6月の米朝首脳会談を前に北朝鮮が発表していた「ICBM発射実験と核実験の凍結」を指す。つまり実験を再開するつもりだと言っているに等しい。

「撃ってみたい」ミサイルがたくさんある

では、今後、北朝鮮は何をやるつもりなのか。予想されるものを以下にリストアップしてみる。まずミサイル。もちろんこれまで同様に射程の短いミサイルの発射は続けるだろうが、それに限らずこれまで控えていたより長射程のミサイル発射に踏み切るだろう。

なかでも注目されるものに、すでに公開しているものの、まだ発射実験をしていない超大型ICBMがある。「火星17」だ。北朝鮮はすでに2017年11月に発射した火星15で米国全土を狙える射程を実現しているが、それよりさらにひと回り大型化した火星17は、おそらくより重い弾頭を飛ばすことができる。

北朝鮮は2021年1月の党大会で、1つのミサイルに複数の個別誘導の核弾頭を搭載する「多弾頭」を開発することを宣言している。次の火星17の発射では、多弾頭での実験になる可能性もある。また、火星15もまだ一度しか発射していないので、さらに技術面での改良のために再発射をしたいはずだ。

さらに、すでに公開していながらまだ発射していない潜水艦発射型中距離弾道ミサイル「北極星5」もある。このミサイルは高い軌道で撃って日本海に落とすこともできるが、仮にこれを日本列島を飛び越える軌道で発射実験した場合、日米の強い反発が予想される。今回の声明で、それを自己正当化するつもりなのかもしれない。日本列島を飛び越えるミサイル発射実験については「中止する」とは言っていないものの、実際は2017年9月以来、自粛している。

日本列島を飛び越える撃ち方なら、北朝鮮としては、この1月5日と11日に続けて発射した極音速滑空ミサイルも撃ってみたいはずだ。

このミサイルは米軍と自衛隊のイージス艦の迎撃を回避するために、高い山なりの軌道ではなく、ライナー性の打球のような低い軌道で飛ぶ。11日の発射では約1000㎞を飛ばして北海道とロシアの間の海域に着弾させたが、フルパワーで撃てば、もっと飛距離を出せる可能性が高い。

日本上空を通るミサイル

しかし、それ以上の距離を撃とうとすれば、ロシアと中国の上空を避けるなら日本か韓国を飛び越えるコースとならざるを得ない。過去の事例をみると、今度も最も海上を飛ぶ割合が大きい津軽海峡の上空横断コースを飛ばすことが考えられる。

ただし、この新型ミサイルはまだ1000㎞以上の技術の実証が充分かは不明であり、途中で落ちる恐れがないわけではない。北朝鮮側としても、他国の日本の国土に落とせばたいへんな失態になるので、そこは慎重に判断するだろう。

北朝鮮はその他にも、前述した2021年1月の党大会報告で固体燃料の中距離弾道ミサイルとICBMを開発する旨も宣言している。これは新規の技術開発であり、その進捗状況はまったく不明だが、いずれその開発が進めば発射実験を行う。

また、ミサイルではないが、同じ党大会報告で偵察衛星の開発も宣言している。その打ち上げは、国連安保理決議によって禁止されている「弾道ミサイルの技術を使った発射」に相当するが、北朝鮮はかつて繰り返していた衛星打ち上げを2016年2月を最後に停止しており、それもいずれ再開することになる。

そして「核実験」を熱望する

こうしたミサイルの発射よりも、じつは北朝鮮が最もやりたいことがある。核実験だ。

彼らの最後の核実験は2017年9月で、以来4年以上が経過している。北朝鮮が一貫して進めているのは核ミサイルの性能アップだ。同じミサイルでも核爆弾が小型軽量化すれば射程が延びる。より弾頭の積載重量が小さい短距離ミサイルにも小型化した核を載せたい。北朝鮮はさらに積載重量が小さな長距離巡航ミサイルも核ミサイル化することを宣言している。つまり起爆装置小型化はきわめて重要な技術であり、この4年で彼らはさまざまな改良を進めたことは疑いない。

それに、一発あたりの威力の強化を目指し、技術開発もかなり進めたはずだ。その実証のための起爆実験を、北朝鮮はいずれは実行することになる。実際、その日に備えて核実験場は閉鎖していない。

ただし、核実験は前述した各種ミサイルの発射実験よりもはるかに悪質度が高い重大な安保理決議違反であり、中国やロシアも庇いきれない。北朝鮮としては、そのタイミングをかなり真剣に検討していることは間違いない。

北京五輪開催中は、ICBM発射や日本越え発射なども含めて、中国への気遣いで大がかりな行動を手控えるかもしれない。が、そうした中国への忖度のような軽い話よりもずっと重要なことは、米国が他の問題で忙殺されることと、中露が反米を最優先することの危険性だ。つまり、北朝鮮にとって最大のチャンスは「ロシアか中国が、ウクライナや台湾の問題で米国と激烈に対決するとき」に訪れるのだ。

現在、まさに中露と米国の対立が先鋭化している。その動向は、北朝鮮の危険な動きに直結していることを忘れてはならない。

  • 取材・文黒井文太郎写真AFP/アフロ

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