日本の体操を苦しめる中国製器具の恐怖「これでやるのは命がけ」 | FRIDAYデジタル

日本の体操を苦しめる中国製器具の恐怖「これでやるのは命がけ」

白井健三選手の父が緊急提言

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「健三は、ロッカールームで涙を浮かべていたといいます。息子が泣いたのは、リオ五輪の前に祖父と祖母が亡くなって以来2度目。体操では初めてです。自分の実力ではなく、器具が原因でベストなパフォーマンスが出せなかったのがよほど悔しかったのでしょう。調子は絶好調で、3連覇へ向けて調整してきたわけですから。帰国後は、『(あの大会は)無かったことにしたい。頼むから忘れさせて欲しい』、と記憶から消そうとすらしていた。健三にしろ、(内村)航平にしろ現役の代表選手達が、リスクを犯してまで問題提起するという、もはや異常事態でした」

こう語るのは、体操・白井健三(23)の父・勝晃氏(59)だ。

10月25日からドーハ(カタール)で行われた体操世界選手権は、日本勢にとって散々な結果に終わった。白井は3連覇のかかっていた床運動で銀、内村も銀メダルに散り、前回優勝の団体も、銅メダルに終わった。

この惨敗の裏にあるのが、中国メーカー「泰山(タイシャン)」の器具だ。過剰に硬いのに、まるで反発がない――。かねてから悪評高かったこの中国器具の影響で、日本選たちは苦戦を強いられた。日本人選手達は日本製の「セノー」に慣れており、過去の国際大会でもほぼ同レベルの外国製が採用されていた。勝晃氏が続ける。

日本製「セノー」の器具
日本製「セノー」の器具

「私は長年世界選手権を現地で観戦していますが、その中でも間違いなく最低の大会でした。観客の中には、『体操ってこんなに失敗ばかりする競技なの』と、途中で席を立つ人も続出し、空席も目立った。大会後、世界6カ国以上のナショナルチームの指導者からは、『中国製の器具が五輪でも採用されるなら、選手があまりに不憫だ』と、怒りに嘆きが交じったメールが何通も届いたくらいですよ。鞍馬に至っては120程の演技者のうち、80%程度が失敗するという前代未聞の事態でした」

この中国製器具が競技に与える影響は、想像以上に甚大だ。現在、FIG(国際体操連盟)は、採点をA~Iの間で細かい難度を設けているが、白井のような特定の演技に強いスペシャリストはH~I難度のような独自の技を演じることで高得点を稼ぐ。だが、中国器具のせいで、半ば強制的に演技構成のレベルを落としていたのだ。準備していた新技、いわゆる「白井スペシャル」も披露することは叶わなかった。

「幼少期から健三は、トランポリンでジャンプばかりしていた影響で、演技中に踵が床につかないクセがついた。それは着地が苦手という短所にもなりました。ただその半面、ウサイン・ボルト並の数値と認定された、並外れた跳躍力(蹴る力)にも繋がっている。4回転ひねりなどの大技もその賜物でもあるんです。ただ、もし今回H難度の「シライ3」を試みていたら、選手生命が危ぶまれる怪我の可能性すらあった。『心が折られる器具だった』という発言には、本当に胸が痛みました」(勝晃氏)

白井は、幼少期から勝晃氏が運営する鶴見体操クラブで技を磨いてきた。そこには、長年に渡り間近で成長を見守ってきた父だからこそ分かる苦悩もあった。

写真:アフロ
写真:アフロ

「健三の体操は、点数がでやすいように”まとめるのはなく、挑戦を好む“攻める”体操なんです。繰り返しになりますが、小さい頃からトランポリンでジャンプの数をこなしてきた影響で、足首が異常に硬いんですね。これは体操選手にとって、武器にもなるし、弱点にもなる。

だから、私達は幼少期に長所を伸ばすか、短所を克服するか、という選択を早い段階で迫られた。その時も健三は、『自分にしかできない演技に挑戦したい』とはっきりと意思表示をしていた。だから、外的な要因で演技構成を変更したのは健三にとっても初めての経験だった。現状維持が許せなく、常に上を目指したい性格なんです。

リオ五輪の時はさすがに緊張していたようですが、ここ数年で自信をつけ、物怖じしなくなった。だからこそ、体操に関して言い訳しないと自分で決めていると思います。発言することが自分の美学に反すると考えている節もありますが、今回はちょっとケースが違うと私自身も感じています」

得意の床運動に関しては、高校時代に現在披露する技の98%は完成していたという驚きの事実まで明かしてくれた。

「健三の最大の武器は人並み外れた跳躍力にある。ただ、そこには健三ならではの独特の感覚があるんですよ。床運動では1つのマットにつき、10数点の支点のようなポイントがあるんですが、最も跳べるのはどこか、ということを練習の1度の調整で健三はほぼ全てを見抜く。それを6回のジャンプの中で、全てそのポイントで跳ぼうとするんですよ。

会場の上から見てもある程度わかるみたいで、練習ではその確認をしている。『本当にそんなことができるのか?』と聞いたら、『小さい頃に教えてくれたことでしょ』、と自信満々に笑っていた。つまりそれだけの繊細な感覚のもと、あいつの演技は成り立っている。おそらくそういった感覚を持ち、あれだけ跳べる選手は今後も出て来ないと思いますね。だからこそ、今回の世界選手権にかけて調整してきた健三や、日本人選手にとってどれだけのことなのかというのは理解して欲しい」

“危ない器具”の影響を受けたのは白井だけではない。選手の中には器具への不安から、命の危険すら感じていたものもいたという。

「器具への適応力が高く、普段言い訳を一切言わない内村でさえ、『これは無理』と断定していました。それどころか、『この器具でやるのは命がけ』と、演技をためらう選手すらいたほど。今年8月のアジア大会でも中国製器具で、今回もそうだった。世界中を見渡しも得をしたのは中国の選手だけ。事実、今回と前回の世界選手権では上位の顔ぶれがごそっと変わり、全体の演技レベルは著しく低調だった。このままでは、体操の人気低迷に繋がるという強い危機感すら持っています』(体操協会関係者)

中国器具に非難が殺到したこともあり、後を追うように東京五輪では日本製のセノーとフランス、ドイツの各メーカーの3社の企業連合と契約する方針が発表された。この発表を誰より喜んだのは、白井だったのかもしれない。

「発表後、すぐに健三から、『本当に良かった。これで演技構成を抑えなくてすむ。やっと本当の意味で東京五輪に集中できる』という旨の連絡が来ました。健三に限らず、今の日本勢は東京で金を狙える高い水準にあることは間違いない。最大の懸念が払拭され、大いに期待してもらってよいと思います」(勝晃氏)

スポーツライターの小林信也氏は、スポーツと政治は本来切り離されるべき、と警鐘を鳴らす。

「今回の世界選手権後、内村選手が、『体操が楽しくない』と発言しましたが、あの言葉にすべてが凝縮されています。器具は本来、選手のパフォーマンスを引き出すサポートをするもの。ですが、今のスポーツ界では、国の政治力や商業的な要因が強くなりすぎており、アスリートファーストの精神が弱まり、選手達が十分なパフォーマンスを披露できない状況になっている。五輪はその最たる例でしょう。特に今回、器具の恩恵もあり独り勝ちした中国は、五輪でも国家絡みで策略を仕掛けてくる可能性があります」

メダルを取るためにはなりふり構わず、国家レベルであくどい手口を仕掛けてくるのは中国の常套手段とも言える。本当の実力者がメダルを取れるよう、目を光らせる必要があるだろう。

  • 取材・文栗田シメイ写真濱崎慎治

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