緊迫ウクライナで問われる日本の「媚プーチン外交」の行方 | FRIDAYデジタル

緊迫ウクライナで問われる日本の「媚プーチン外交」の行方

黒井文太郎レポート

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写真:AFP/アフロ

1月24日、米国防総省は米軍兵士約8500人を「派遣待機」にしたと発表した。ロシア軍がウクライナに侵攻した場合、周辺国でNATO即応部隊に加わるとのことだ。

ロシアが10万規模の大軍をウクライナ国境に配備して始まった危機は、いよいよ「開戦前夜」の様相を呈してきた。

1月23日には米国が在ウクライナ米国大使館の一部職員と家族の国外退避を決定。翌24日にはイギリスも同様の措置を決めた。ドイツとオーストラリアも続くとみられる。日本政府も同24日、渡航中止を勧告した。

ロシアはウクライナのNATO非加盟の確約や、東欧からのNATO軍撤退など、国際法的にもなんら正当性のない要求を突き付け、軍事力で脅迫している。

日本政府がロシアにすりよる理由

文字どおりの「侵略」行為に出ようとしているロシアを、米国も欧州も「交渉」で懸命に押しとどめようとしている。ところが、こうした緊迫した国際情勢のなか、G7のメンバーとして堂々の西側主要国でありながら、ロシアにひとり「すり寄って」いたのが日本だった。

とくに驚かされたのが、1月14日にラブロフ外相が「今後2~3カ月のうちに訪日する」と発表したことだ。これがもしロシアのウクライナ侵略をやめさせようという外相会談なら意味があるが、もちろんそうではなく、議題はいつもの平和条約交渉についてである。

当然、ラブロフ外相は従来の主張を変えるはずもないから実質的な進展はゼロになるが、毎度のように「平和条約について(※もはや領土交渉との文言は使用されない)、今後も前向きに交渉を継続する」とニコニコ笑顔で握手して終わることになる。つまりロシアにとっては、西側の結束を崩す格好のプロパガンダになるわけだ。

日本政府からの正式発表はないが、ロシア側からの要請は実際にあり、日本側は受け入れ方向で検討していた。このタイミングでそんな茶番を突っぱねない日本政府はさすがに如何かと思うが、それには理由がある。日本政府はこれまでずっとプーチン大統領の顔色を窺い、機嫌を損ねないように忖度する、いわば「媚プーチン外交」を一貫して行ってきたからだ。

たとえば2014年2月のソチ五輪では、ロシア国内の人権問題を理由に主要国が軒並み外交ボイコットするなか、G7からはイタリアの首相と安倍晋三元首相だけが出席した。

対ロシア「外交制裁」に参加しない国、日本

同年3月のクリミア侵略では、日本も欧米諸国による制裁に形式上は参加したものの、実際にはほとんどロシア経済に影響が及ばない分野だけに留めた。

2018年3月には、イギリス亡命中の元ロシア情報機関員がロシア工作員による軍用毒物での暗殺未遂に遭ったが、その際も西側主要国で日本だけが外交制裁に参加していない。

さらに、欧米社会の分断を扇動するロシアのフェイク情報工作が各国から警戒され、非難の対象になっていたが、その間も安倍元首相はプーチン大統領との親密ぶりをアピールし続けた。

日本政府はG7外相会談声明の時だけは正規メンバーであるために名を連ねるが、それ以外ではとにかくロシアに遠慮してきた。なぜ日本だけが、こうして西側陣営の結束に逆らってまで、人権侵害や犯罪行為を重ねるプーチン政権の肩を常に持ち続けたのかというと、北方領土問題でプーチン大統領の機嫌を損ねたくなかったからだ。

北方領土返還を期待して

実際にはプーチン政権はこれまで一度たりとも公式に日本に領土を引き渡す意思を明らかにしたことはなく、現実に島の引き渡しは1ミリも進まなかったのだが、日本政府は「交渉決裂」というかたちだけは避けたかったため、ロシアとの交渉継続を最優先してきた。

ロシア側もそんな日本政府の立場を心得ており、領土引き渡しの言質を避けつつ、ときに気をもたせるような言動まで繰り出して、日本政府を手玉にとった。ラブロフ外相の今回の訪日の話のように、現在もその構図は続いている。

日本政府がそうした構図に陥ってしまったのは、根底には歴代政権の「立場」と外務省の「方針」の問題がある。前者については、領土返還は日本国民の悲願であり、悲観的な観測は国内政治的に回避したかったということがある。立場的に「難しい」とは言いづらいのだ。

また、後者については外務省は対ロシアだけでなく、基本的に諸外国と友好関係を構築することを任務としており、外国とのトラブルを避けるベクトルが働く。しかも、この政治サイドと外交当局の姿勢は互いに作用し合っており、ロシア側ではまったく政治的議論に上がってもいない領土交渉が、日本国内でだけ期待が膨らむという状況が長年続いてきた。

さらにこの領土返還問題は、安倍政権下で2島先行返還への大きな期待となった。

実はもともと小泉政権時代の政局で一時期、対露外交の方針をめぐって「4島一括論」と「2島先行論」の激烈な大論争があったのだが、当時の2島先行論の陣営が安倍元首相と人脈的に近い関係にあった。2島先行論はプーチン政権が2島返還するつもりだという仮説の上に成り立っており、そのため対露姿勢は友好的アプローチが前提となる。

安倍元首相はその前提で対露外交を進めたため、プーチン政権とフレンドリーな関係を構築する姿勢を貫いた。クリミア問題や毒殺未遂事件などでの西側主要国でも突出して後ろ向きな日本政府の控えた対応は、そうした構図の結果だ。

岸田政権の方向転換

日本の政権はその後、菅政権を経て現在は岸田政権に移っているが、安倍元首相はいまだに大きな政治的影響力を持っている。

岸田文雄首相はもともと安倍政権で4年半以上にもわたって外相を務めた政治家だが、自身が政権を担うことになる過程では、自民党総裁選でも衆院総選挙でも対露交渉をとくに議論の争点にはしなかった。

政権発足後の2021年10月8日の所信表明演説でも、単に「ロシアとは領土問題の解決なくして平和条約の締結はありません」と最後のほうにひとこと添えるに留まった。いかにも対露交渉に大きな期待は持っていない様子が表れている。

その後も、岸田政権には対露外交を積極的に進める素振りはとくになかった。ところが、安倍元首相サイドから対露交渉の継続の働きかけがあった。

その結果、1月17日の施政方針演説では「2018年のシンガポールでの首脳会談のやり取りを含め、これまでの諸合意を踏まえ、2018年以降の首脳間のやりとりを引き継いで、粘り強く交渉を進める」と言葉が増えた。それも、安倍元首相の成果を認めてその方針を受け継ぐとの表明である。

安倍政権の方針を受け継ぐということは「友好的アプローチ」の対露外交が前提になる。そのため、1月21日には林芳正外相が記者会見で「ロシアがウクライナに侵攻した場合に米国の対露制裁に日本も同調するか」と問われ、「仮定の質問には答えを差し控えたいが、われわれとして適切に対応していきたい」と答えを濁すようなこともあった。首相の方針が決まらないので、そう答えるしかなかったのだろう。

その直後の同日中に、バイデン大統領と岸田首相の日米首脳オンライン会談が行われた。ところが、そこでバイデン大統領は岸田首相に対露制裁への参加を明確に要求し、岸田首相も同意したのである。外務省HPにはこうある。

「岸田総理は、いかなる攻撃に対しても強い行動をとることについて、米国、他の友好国·パートナー及び国際社会と緊密に調整を続けていくことを約束した」

米国はロシアに大規模な経済・金融制裁をすることを検討しており、日本が足並みを揃えずに抜け駆けすることは当然、結束を乱すことになる。いつも対露制裁を逃げ回る日本は、いわば釘を刺されたかたちだ。

これで今後、ロシアがウクライナに侵攻した場合、日本も欧米諸国が行う対露非難と制裁に積極的に加わることを約束したことになる。

プーチン政権がやっていることは世界平和と人権に対する犯罪であり、民主主義陣営は協力してそれを封じなければならない。

ところが、日本だけはその隊列から逃げ回ってきた。今こそ岸田政権には、日本政府のこれまでの媚プーチン外交からの脱却を期待したい。

  • 取材・文黒井文太郎

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