『けもなれ』苦戦の原因は、作り手と視聴者の「悲しい」すれ違い

指南役のエンタメのミカタ 第1回

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10月7日に行われた『獣になれない私たち』制作会見

ドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)が苦戦している。

開始前は、脚本・野木亜紀子と主演・新垣結衣の座組で、あの『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の再来を期待する声もあったが――フタを開けたら、晶(新垣結衣)の両親との確執や、得意先への土下座といった予想外のシリアス展開に戸惑う人々が続出。晶が勤める会社のワンマン社長のパワハラの圧も強く、見ているこちらまで気が滅入ってしまった。仕舞いには、憔悴した晶が地下鉄のホームでフラフラと線路に吸い寄せられ――って、こ、こんなドラマだったの?

公式サイトを開く。トップページでW主演のガッキーと松田龍平が顔を寄せ合い、微笑む姿が確認できる。遊び心のあるタイトルロゴといい、そこから受ける印象は100%のラブコメだ。うん、間違いない。都会で生きる2人の男女が日々のミッションから解放された夜、クラフトビールバーで出会う。器用に生きているように見える2人だが、本当は不器用。そう、周囲との摩擦を恐れて“獣”になれない共通点を持つ。そんな同族の匂いを感じたのか、いつしか2人は打ち解け、グラスを重ねる。これは恋?

――なんて、ドラマを期待していたのは僕だけじゃなかったはず。

でも、今のところ『けもなれ』は、そんな空気感じゃない。残念ながら平均視聴率も一桁台(7話まで)と低迷している。どうして、こんなことに?

1つ、推理してみますね。以下は、あくまで僕の仮説なので、関係者の皆さん、違ったらごめんなさい。

まず、そもそも『けもなれ』は、日テレの松本京子プロデューサーと野木亜紀子サンの座組から始まった企画である。2人は3年前に、同じガッキー主演で『掟上今日子の備忘録』(日本テレビ系)を作った仲。同ドラマは視聴率こそ平均9.7%と二桁に届かなかったものの、内容面では極めて高い評価を得た。僕自身、野木作品では一番気に入っている。そんな2人の間で、かなり前から次作の企画が進んでいたと聞く。それもオリジナル脚本で。ガッキーにも早い段階から打診があったと思う。

ただ、企画が熟成する過程で、2つの事件が起きる。

1つは、『逃げ恥』(TBS系)の大ヒットだ。これも野木サンが旧知のTBSの那須田淳プロデューサーと組んだ作品で、予想を上回る社会現象となる。その結果、野木サンとガッキーの阿吽の呼吸で、『けもなれ』のヒロインのキャラが軌道修正されたと推察する。つまり、『逃げ恥』の可愛いガッキーとは異なる路線――ちょっとリアリティが入った等身大のOLキャラへ。要するに、脱『逃げ恥』路線だ。役者が、ヒット作の次作に方向転換を図りたがるのはよくある話。

もう1つの事件は、『逃げ恥』の次のクールの『カルテット』(TBS系)の高評価である。ご存知、坂元裕二脚本の、ちょっと不思議な4人の物語。コメディであり、ミステリーでもあり、ラブの要素もある大人のドラマ。演出は野木作品とも関わりの深いTBSの土井裕泰Dらが担当し、野木サン自身も大いに楽しんだと語っていた。恐らく――ここで松田龍平サンを起用するプランと、大人のドラマというコンセプトが固まったのではないか。要は、親『カルテット』路線だ。

こうして、2つの“事件”を経て、松本Pと野木サンとの間で、『けもなれ』のアウトラインが作られたと推察する。可愛いだけのガッキーじゃなく、等身大のリアリティ面も強調し、一方で大人のライトコメディで、ラブの要素もあり、お酒を重要なモチーフにしたい――と。クラフトビールのアイデアが固まったのもこの頃だろう。

ここで、改めて公式サイトを確認したい。イントロダクションに並ぶ文言は、まさに、これらの要素を具現化したもの。恐らく、これらは企画書に書かれていた文言だ。お気づきだろうか。ここまでのところ、『けもなれ』はそんなに悪くないのだ。

さて、ドラマ作りは次の段階に移る。制作である。そして新たなキーマンとして演出家が加わる。起用されたのは、日本テレビのドラマの顔である大御所・水田伸生D。起用の理由は、近年、『Mother』や『Woman』、『anone』などの一連の坂元裕二脚本を手掛けており、親『カルテット』路線を狙うには、打ってつけの人物だからである。

だが――ここで、たすきの掛け違いが起きる。同じ坂元脚本とは言え、TBSの『カルテット』と、一連の日テレの作品とは、微妙に作風が異なる。前者は広義のコメディであり、後者はシリアスなのだ。

ドラマ作りにおいて、プロデューサーと演出家の間には、明確な役割分担がある。前者は、脚本家との打ち合わせに始まり、キャスティング、番宣、タイトル、主題歌、公式サイトの制作等々と、主に作品周りを担当するのに対して、後者は劇伴を含むドラマ本編を担当する。

僕らが、『けもなれ』の番宣や公式サイトを見て、放映前に抱いた予想と、本編を見た印象が異なるのは、そういう事情である。そして、ここまで読まれた方はお分かりの通り――誰も悪くないのだ。みんな、それぞれの持ち場で最高の仕事をしただけである。

ドラマ作りはかくも難しい。しかし――だから面白いのだ。

  • 草場滋(くさば・しげる)

    メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある。

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