フィギュアスケート4回転が3回転半から10年で可能になったワケ | FRIDAYデジタル

フィギュアスケート4回転が3回転半から10年で可能になったワケ

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「靴やエッジも改良されているけれど、それが4回転成功の理由ではありません」

今や女子選手でも4回転ジャンプを跳ぶフィギュアスケート。2010年、バンクーバー冬季五輪では、3回転半(トリプルアクセル)を跳べるのは浅田真央さんぐらいだったのに、この10年で何が4回転ジャンプを可能にしたのか。

水泳では高速水着レーザー・レーサーが、マラソンでは厚底シューズが記録を生み出すのに貢献した。フィギュアスケートでは靴が進化したのだろうか。

「たしかに靴の素材やエッジの質は改善されていますが、それによって1回転多く跳べるようになったということは、僕はないと思う」

というのは、1976年、インスブルック冬季五輪で日本代表となり、翌77年の世界選手権で3位に入賞した、日本のフィギュアスケートのパイオニア、佐野稔氏。

「僕の時代は、靴は革製でしたけど、今は皮と皮の間にプラスチックが入れられていて、足の形に合わせやすくなっている。フィット感が増したのは間違いない。けれど、それで1回転多く跳べるようになったかといえば、それは違うと思う」(佐野稔氏 以下同)

靴でもない、エッジでもないとしたら、ジャンプを成功させるのはなんなのだろう。

「トレーニング。これに尽きると思います」

佐野氏によると、ジャンプの回数を増やすために大事なことは、高く跳ぶことと、体の軸をしっかり作ること。ということは、筋肉トレーニングを多く行うようになったということか?

「体幹を鍛えるトレーニングは必要ですけど、太い筋肉をつけてはダメ。太い筋肉をつけると重くなりますから、高く跳ぶのがつらくなる。2017年~2022年の全米選手権で6連覇したネイサン・チェン選手や羽生結弦選手もほっそりしていますよね」

「だれかが跳ぶと、それまで無理だと思っていたジャンプも、やればできると思えるようになる」と語る佐野稔さん

ロシア女性選手の選手生命は1シーズンだけ

確かにカミラ・ワリエワ選手をはじめ、4回転を跳ぶロシアの女子選手たちは、細くて、あれでよくジャンプできるなと思えるほどだ。

「ワリエワ選手はまだ15歳。驚異的なスピードで4回転を習得しているわけです。ワリエワ選手のほかにも、アレクサンドラ・トゥルソワ、マイア・フロミフも4回転を跳びますが、彼女たちはみんなエテリ・トゥトベリーゼというコーチの門下生。4回転を跳べるような特別な練習をしていると思うんですけど、練習メニューは解明できていません」

それにしても気になるのはロシアの選手寿命の短さだ。2018年、平昌冬季五輪のとき、15歳で金メダルを獲得したザギトワ選手も、19歳で銀メダルを獲得したメドベージェワ選手も、2014年のソチオリンピックのとき、キャンドルスピンでロシア団体優勝に貢献した、当時15歳のリプニツカヤ選手もオリンピックに出場したのは1回きりだ。彗星のように現れ、彗星のように去っていく。

「おそらく体形の変化でいい成績が残せなくなるからでしょう。ロシアにはトゥトベリーゼコーチの教えを受けたいという女の子が何千人もいると聞きます。おそらく北京冬季五輪の次にミラノで行われる冬季五輪のための選手の育成も始まっているはず。ワリエワ選手は、たぶん北京では金メダルを獲得するでしょうけれど、来シーズンも活躍するかといったら、違う選手が出てくるだろうと思います」

15~16歳で現役引退! フィギュアスケートは、体が柔らかい10代半ばに大技を習得しやすいが、あまりに幼いころから練習を続けると体に無理がかかるため、国際スケート連盟では、現在15歳になっていない選手の出場を認めていない。さらに今、その年齢制限を17歳に引き上げることを検討しているという。

「ワリエワ選手は、たぶん北京では金メダルを獲得するでしょうけれど、来シーズンは…」と佐野氏(写真:共同通信)

4回転半を跳ぶのに、あと0.1秒

秘密の特訓をしているかもしれないロシアはさておき、ふつうは、跳んで跳んで跳んで、踏切やフォームを改善しながら、目指すジャンプを先生やコーチとともに作り上げていくのだという。

「だれかが跳ぶと、それまで無理だと思っていたジャンプも、やればできると思えるようになる。コツがわかるということもあるでしょう。そうやって、どんどん進化していく。

僕の時代は3回転ルッツといって、後ろ向きに入り、左足外側のエッジにのってから、右足のつま先をついて踏み切り、3回転するジャンプが跳べたら世界一になれましたけど、今は10歳、11歳の子どもたちがふつうに3回転ルッツを跳んでいます。

だれかが跳ぶと、それ以降は跳ばなければいけないようになっていくんですね」

世界で初めて4回転半を跳ぶ人になりたいというのは、羽生結弦選手の夢。写真は「2019 テレビ朝日ビッグスポーツ賞」表彰式 羽生結弦のメッセージ(写真:アフロ)

今、男子では4回転が跳べなければ世界で戦えない。

ジャンプの歴史を振り返ってみると、初めて1回転半を跳んだのは1882年。2回転半(ダブルアクセル)を跳んだのは、1948年。なんと1回転増えるのに66年もかかっているのだ。

「トリプルアクセルを初めて跳んだのは、それから30年後の1978年。4回転半を成功させた人はまだいないから、トリプルアクセル成功から44年間歴史が止まっているんです」

成功させるには高く跳んで、滞空時間を長くすること。あと1秒長くすれば4回転も可能?

「1秒も跳んでいたら、6回転だってできてしまう。今、4回転を跳ぶのに要しているのは0.7秒程度。あと0.1秒でも長く跳べたら、4回転半が成功するでしょう」

なんと、氷上の芸術と言われている競技で0.1秒が競われているのだ。

「記録を伸ばすのは、だれもやったことのないことをやってみたいという人間の向上心。それは陸上競技の100mで0.1秒を競うのと同じです。世界で初めて4回転半を跳ぶ人になりたいというのは、羽生結弦選手の夢。実際、4回転半を跳ぶのに、いちばん近いところにいるのは羽生結弦選手でしょう。オリンピックが楽しみです」

 

佐野稔 元フィギュアスケート選手。1976年インスブルックオリンピック男子シングル日本代表。1977年世界選手権3位。現在は明治神宮外苑アイススケート場ヘッドコーチ、日本フィギュアインストラクター協会理事長。解説者としても活動している。

  • 取材・文中川いづみ

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