サイゼリヤのランチはなぜ500円で利益が出るのか | FRIDAYデジタル

サイゼリヤのランチはなぜ500円で利益が出るのか

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無敵といってもいいかもしれない(AFLO)
無敵といってもいいかもしれない(AFLO)

安くて美味しいイタリアンといえば、サイゼリヤ。特に、メインディッシュにサラダ・スープがついて500円のランチメニューには、驚かされる。「一体、原価はいくらなんだ」「本当に利益が出ているのか」と不思議に思うのは、筆者だけではないだろう。

サイゼリヤの決算資料(第49期2020年9月1日〜2021年8月31日)を覗いてみると、売上高1265億1300万円に対して、売上原価は463億6000万円、つまり原価率36.6%だ。全体を見ていえば、あの500円ランチを原価183円でつくっていることになる(もちろん、原価がそれぞれのメニューで違うのはいうまでもないが)。それも、ただ安いというわけではない。そこには、並々ならぬ企業努力の積み重ねがある。筆者のサイゼリア取材経験から、その努力の秘密を紐解いていこう。

まずは、値段設定から。ホットペッパーグルメ外食総研が2021年3月1日~9日に実施した有職者5710人による調査によれば、ランチの予算の平均は、「出前、デリバリーしたもの」が 1,171 円、「飲食店で外食」が 1,103 円であった。

サイゼリヤのランチが500円であることを踏まえれば、ビジネスパーソンの平均予算の半額で提供されていることになる。ホットペッパーグルメ外食総研の同じような調査(2018年11月22日~30日・有職者9607人)で、夕食の予算は、「外食での普段の夕食」が平均1,491円、「外食での特別な夕食」が平均3,826円だった。

2つの強み

サイゼリヤには、2つの強みがあると筆者は考えている。一つは商品開発力、もう一つはコスト削減力だ。

サイゼリヤは、店舗でほとんど調理をしていない。あと一手間加えればお客に出せるレベルまで、食品工場でつくってしまっている。そして、この工場のレベルがものすごく高いのだ。

その違いがわかるのが、サラダだ。

一般に、飲食店では、サラダは扱いにくい代物とされている。お客のほとんどが好むメニューであるにもかかわらず、「品質管理が難しい」「日持ちしない」「仕入れ値が日々変動する」「仕入れ値が高くなってもメニューの値上げがしにくい」からだ。

それをサイゼリヤは圧倒的なコールドチェーンを構築することで、1年を通して、常に安価で美味しく提供できるシステムをつくりあげてしまった。先のランチメニューでは、メインディッシュに目を奪われるが、実はスープとミニサラダがつく。このことが驚異なのだ。

発想が違う

次にコスト削減力について。

他のレストランチェーンがパッドを使ったハイテクな注文方法を模索する中、まさかの「手書き注文」を実施するなど、サイゼリヤではそのアイデアに圧倒されることが多い。

サイゼリヤの発想の原点は、理系が集う会社に相応しく、目的を明確にしてそのプロセスを大胆に変更させていくというものだ。手書き注文についても「お客がお店に注文を伝えること」について最も安価な方法を探ったということだろう。他のチェーンにあるようなハイテクな注文方法では、たしかに人件費の削減につながるが、ハイテクなマシーンへの初期投資、維持費が高額になってしまう。

サイゼリヤのコスト削減はそれだけではない。チェーン店では当たり前になってしまったが、サイゼリヤは、「掃除に掃除機を使わない」店舗の先駆けだった。いうまでもなく、掃除をしないということではない。「掃除」という作業を「フロアに落ちているゴミを店外に出すこと」とその目的を明確に定義し、その目的のための最短ルートを探る。結果、「掃除に掃除機を使わないほうが、コスト面を最小に抑えて目的を達成できる」という結論にたどり着いたのだ。

筆者が以前に取材したときには、こう教えてもらった。店内掃除のために掃除機を使うと時間がかかるので、モップでザーッとゴミを掃いていく。それも店内をなるべく早く一周するため、モップで店内を一筆書きできるようにするルートを突き止めて、マニュアル化していた。このような節約の積み重ねで、開店前の1時間の準備がわずか30分でできるようになったという。サイゼリヤは現在全国に約1500店舗。時給を1000円とすれば、この掃除機を使わない方法で、

500(円・時給1000円の30分の給料)×1500(店舗)×365日=2億7375万円

年間2億7375万円のコスト削減に成功することになる。この話を筆者が聞いたのは10年前なので、少し古いシステムになっているかもしれないが、ここで伝えたいのは、サイゼリヤが本質的に「より良いシステムの構築」に力を注いでいるということだ。現在はさらに素晴らしいコスト削減を開発しているのは間違いない。

日本総研リサーチ・コンサルティング部門副主任研究員で経営戦略を専門とする浜根圭佑氏は、「サイゼリヤは昨年12月の既存店売上高が前年同月比15・8%増と2か月連続で増やし、アジア事業が最高益となるなど、業績に底入れ感が出てきた。ただ、稼ぐ力が戻ってきたとは言うにはまだ早い。コロナ禍の感染爆発により、外食企業の業績の先行き不透明感が再び強まっているためだ。サイゼリヤは、配膳ロボットの実証実験を開始するなど、ウィズコロナを見据えた省人化の取り組みは今後とも続けていくだろう」と話した。

コロナ禍の苦境を知恵と努力で乗り越え、さらに「良いもの」をお客に提供できるか。サイゼリヤの今後に期待だ。

  • 取材・文小倉健一

    ITOMOS研究所所長

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