1億9000万円をだまし取った地面師の「ヤバすぎる手口」

世界各国の大使館や政財界の重鎮の邸宅が並ぶ東京・渋谷区神山町の一角に、周囲とは不釣り合いに見える一戸建てがある。山手通りから、一本通りを入った場所にあり、大きなマンションや豪邸に囲まれている。土地の広さは約230㎡、庭には春に綺麗な花を咲かせるという桜の大木がある。この土地、そしてそこに立つ古びた一軒家に「地面師」集団が目をつけた。

警視庁捜査２課は、１月12日までに詐欺容疑で村松武容疑者（84）、山口芳仁容疑者（54）ら男５人を逮捕した。

「逮捕容疑は、’16年10月から11月にかけて、渋谷区神山町の土地と建物の所有者になりすまし、都内の不動産会社から現金など約１億９０００万円をだまし取ったというものです。主犯格は山口容疑者で、村松容疑者が『なりすまし役』です。不動産の本当の所有者の男性は事件当時70代で、現在は80代。年齢的に近い村松容疑者をなりすまし役に仕立てたわけです」（全国紙記者）

他のメンバーは不動産会社との交渉を担当する「前さばき役」、書類の手配などを行う準備役、詐取した現金の運搬役などだったとみられる。山口容疑者は昨年12月に逮捕された「富ヶ谷事件」でも中心的な役割を担（にな）ったとみられている。さらに村松容疑者も、昨年１月に逮捕者が出た地面師事件で「なりすまし役」をしていた。彼らは名うての地面師集団だったのである。

彼らは巧妙に準備を進めていた。地面師事件においてもっとも重要なのは、舞台となる不動産。この神山町の物件はまさにうってつけだった。近隣住民が話す。

「あの家はもう30年以上は人の出入りはなく、放置されている状態だと思います。隣接する土地にマンションが建つ際、あの土地も購入して大きなマンションにしようという構想があったようです。が、所有者とうまく連絡がつながらなかったなどの理由で立ち消えたと聞きました」

100～200人の地面師が

さらに、この物件は一等地のなかでも、とりわけウマ味が大きい土地だった。地元不動産業者が語る。

「230㎡（約70坪）で１億９０００万円はかなり安いです。神山町で山手通りに近いあたりの土地の相場は、坪単価700万円前後だと思います。しかし、そもそも神山町近辺は売地が出ること自体があまりないうえに、山手通りに近い区域は高い建物が建築できるエリアなのです。不動産会社からみて、かなり好条件な場所と言えます」

周囲に本物の所有者を知っている人がおらず、連絡も簡単には取れない。そのうえ、不動産価値は極めて高い。ここに目をつけた時点で、地面師集団たちの勝利は決まったようなものだった。さらに狡猾（こうかつ）な手口で相手を手玉に取る。前出・記者が語る。

「今回、地面師たちが不動産会社相手に使ったのは、偽造の印鑑登録証明書、そして偽造の『運転経歴証明書』です。運転経歴証明書とは、運転免許証を返納した際に交付される書類のこと。これを提示して、なりすまし役の村松容疑者を本物の所有者だと誤認させたのです。不動産会社との売買交渉には、都内にある司法書士事務所が使われました。地面師たちと、その司法書士が共謀していたかはわかっていませんが、信用させるのに一役買ったのは間違いありません」

そうして不動産のプロであるはずの不動産会社からまんまと１億９０００万円をだまし取ったのだ。地面師事件に詳しい、ジャーナリストの伊藤博敏氏が語る。

「地面師たちは、偽造できる書類はなんでも偽造します。今回使われた運転経歴証明書など、高齢者の運転ミスによる事故が頻発している昨今、いかにも本人が持っていそうな書類です。次々と手口が細かく、より巧妙になっています。
いまでも、いわゆる『地面師村』には100～200人の地面師がいます。地面師たちは一等地にあり、所有者の把握しづらい土地のリストを所有しているそうです。近年の不動産価格の上昇で、そうした土地の資産価値もあがっています。これからも地面師事件は続いていくでしょう」

闇の詐欺師集団はいまも水面下で、次のターゲットを狙っている。

『FRIDAY』2022年2月11日号より