なぜ激増したのか…秋葉原「コンセプトカフェビジネス」そのウラ側
深層ルポ
’22年1月某日、オタクの聖地、秋葉原は、黄昏時を迎え、コロナ禍だというのに約60名のコスプレ姿の女性たちが数m間隔で街頭に立っていた。
女子高生や忍者、軍服姿などで店の宣伝ビラを配る。猫耳カチューシャをつけ、メイド服の上に厚手のコートを羽織り、店の屋号が書かれたパネルを持って笑顔を振りまく。もはや見慣れた光景だ。
各店舗には条例により、店員二人が店前に立ったり、そこでビラを配る『客待ち』が許可されている。
街を歩く筆者に声をかけてきたのは、18歳のミキ(仮名)だった。寒空の下、ミニスカートにベンチコート姿の彼女がいた場所は、店前ではない。離れた場所で声掛けして店まで案内するなどの「客引き」は違法行為のハズである。
「コンカフェどうですか?」
そう呼び込む彼女に客引き行為について違法行為では? と問うと、彼女は言った。「店長に大丈夫だと言われている。だからお兄さん一緒に飲みましょう」と。
ミキに話を聞くと、彼女はホストクラブの常連客やジャニーズタレントの追っかけ同様、メンズ地下アイドルにハマっていた。彼らに貢(みつ)ぐことを生きがいとしていた最中、長引く新型コロナの余波でバイト先の居酒屋からクビを切られた。無職となった彼女は、高収入に魅せられ、数ヵ月前にコンカフェ嬢になったという。
ここで、秋葉原のメイドビジネスについて少しだけ触れておきたい。
この地にメイド喫茶が誕生したのは’01年頃。当初はコスプレした女のコが飲み物を給仕する純粋な喫茶店に過ぎなかったが、’10年頃からリフレやお散歩といった濃厚接客がメインのJKビジネスへと変化した。いつしか少女売春の温床となり、’17年頃にそのピークを迎えた。
条例や法律には、必ずと言っていいほど綻(ほころ)びがある。その僅(わず)かな隙間を狙う者は、後を絶たない。よく言われるように、確かに歴史は繰り返されるらしい。しばらく鳴りを潜めたJKビジネスは、近年『コンカフェ』として秋葉原に復活した。
現在、横行する違法行為の根源となっているのがここだ。
コンカフェは、メイド喫茶とガールズバーの中間に位置する業態で、患者とナースのように様々なコンセプトのもと、客はアルコールを含めたドリンクを飲みながら嬢とイメージ接客を楽しむ。名称はカフェだが、お酒がメインで、実態はバーだ。某コンカフェ経営者が内情を語る。
「ガールズバーは時給3000円は出さないと女のコが集まりませんが、コンカフェは1500円でも応募が殺到するんです。店もスナックほどの小スペースでいいですしね。シャンパンなどの高級ボトルが開けば、キャバクラ並みの売り上げも期待できるし、働く女の子にとってもキャバクラより敷居が低いうえ、キャストドリンクやボトルからのバックマージンで時給以上の実入りが期待できるのです」
秋葉原に客引き嬢たちが増え出したのは、コロナ禍の去年冬頃からである。
コロナ禍で外国人らの観光客が激減し、ゲームやアニメ関連の店が撤退。コンカフェの出店が相次いだ。日本有数の観光地となり、好景気に沸いた”アキバ”からすれば考えられないことだ。
「これを勝機とばかりに、渋谷や池袋の業者が進出してきました」(前出の経営者)
秋葉原を所轄する捜査関係者によれば、各地で夜の店が疲弊(ひへい)するなか、秋葉原では’19年の170軒から’20年に270軒強まで激増したのである。売り上げが減った既存店も負けじと利益を上げようとしたことが、強引な客引き行為の増加に繋(つな)がった。
空き店舗が目立つ今日この頃、他のエリアも平常時より安く借りられるのではないか。なぜ彼らはアキバを選ぶのか。
「みかじめ料がないからですよ」(前同)
秋葉原エリアを管轄する万世橋(まんせいばし)署は、いずれ本庁に行くエリート警察官の研修場所だという。ゆえに監視が厳しく、ヤクザもおいそれとは手を出せないそうだ。
もちろんすべての店がそうではないが、ヤクザが幅を利かせられないとあって、規制を受けない半グレまがいの一般業者が手を出しやすい状況にある。彼らが脱法行為を繰り返し、荒稼ぎ。儲かるなら真似しようという輩も出てきた。昨年、警察に寄せられた秋葉原での客引き行為への苦情は、約350件になるという。
摘発された店舗では、ガールズバーでありながら、キャバクラ同様にキャストが客からドリンクを貰い、乾杯して一緒に飲むなどの接待行為が繰り返されていた。客引き行為による街の治安の悪化や風紀の乱れはもちろん、このような状況を、警察は良しとはしなかったのだ。
摘発された5店舗同様、ガールズバー形式で運営する他のコンカフェらにも風営法の許可を得るよう指導が入った。しかし、その多くは現在も許可を得ぬまま、カフェを装(よそお)い営業を続けている。なぜか。
「コンカフェが入るビルのオーナーは元電気店などの地域住民がほとんどで、水商売には貸さないからですよ」(事情通)
名実共に水商売にはなれない。許可を得られても集客のキモになるビラ配りが禁止されるなどの弊害が出る。となれば、そのまま突き進むしかないのか――。
「そろそろ本腰を入れようか」
そう捜査関係者が鼻息を荒くするなか、新たな参入組も加わり、摘発上等で荒稼ぎは続く。彼らと当局の攻防はまだ、始まったばかりだ。


『FRIDAY』2022年2月11日号より
取材・文:高木瑞穂
ノンフィクションライター
PHOTO:濱﨑慎治