るい→ひなたへ『カムカムエヴリバディ』朝ドラ救世主が込めた思い | FRIDAYデジタル

るい→ひなたへ『カムカムエヴリバディ』朝ドラ救世主が込めた思い

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『カムカムエヴリバディ』2人目のヒロイン”大月るい”役を演じる深津絵里。娘・ひなたを出産するが…(写真・AFLO)

’20年の夏。藤本有紀がNHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の脚本を手掛けることが明らかになり、歓喜の声が朝ドラファンの間で広まった。その前評判通り、視聴者からは高い評価を得ている。

「’00年代に入って朝ドラの視聴率は急落。’10年の『ゲゲゲの女房』から放送時間を8時に繰り上げ巻き返しを図ると、’13年に放送された『あまちゃん』が異例の大ヒットを記録。視聴者の裾野を広げ、朝ドラは見事に復活を遂げたと言われています。

しかし、これは大きな間違い。’07年に放送された上方落語の世界を描いた『ちりとてちん』こそ、朝ドラ復活の救世主といっても過言ではありません」(ワイドショー関係者)

朝ドラといえば、明るく元気で夢に向かって突き進むヒロインが描かれてきた。ところが『ちりとてちん』で貫地谷しほりが演じるヒロインは、暗くて控えめな”じゃない方”のB子。そのドラマの脚本を担当したのが、藤本だった。

そんな屈折した喜代美(貫地谷)が上方落語と運命的な出会いをして輝いてゆく。しかも落語の演目と物語をリンクさせる展開はユニークで画期的。その後、宮藤官九郎が脚本を手掛けた朝ドラ『あまちゃん』(NHK)などにも大きな影響を与えている。

「しかしオンエア当初は、情報過多のせいなのか、“ながら見”が主流の当時の朝ドラ視聴者には受け入れられず、視聴率的には苦戦をしいられました。ところが途中から録画して伏線回収などを楽しむ若い視聴者を獲得。放送後に発売されたDVDボックスは爆売れしました。結果、記憶にも記録にも残る名作となりました」(前出・ワイドショー関係者)

そんな“朝ドラの救世主”藤本が、’14年ぶりに朝ドラに帰ってきた。しかも朝ドラ史上初となる“3人のヒロイン”による100年のファミリーヒストリーを描くという。再び、朝ドラ史上にどんなサプライズを起こしてくれるのか、ファンは固唾を飲んで待っていた。

物語は、日本のラジオ放送が始まる’25年に初代ヒロイン・安子(上白石萌音)が岡山で誕生。明るく素直で健気なヒロイン・安子と初恋の人・稔(松村北斗)は瞬く間に恋に落ち、るいが生まれる。

ところが愛する夫は、娘の顔を見ることもなく戦死。母や祖母だけでなく祖父の代から続いていた和菓子屋『たちばな』も空襲で焼失。店の再開に奔走する父までも失い、安子は絶望の淵に立たされる。

しかしそれでも娘のために希望を失わず、懸命に生きる母の姿に涙する視聴者も多かった。ところが急転直下、思わぬ展開が待っていた。

名店『たちばな』再興のためにコツコツ貯めてきた資金を兄・算太(濱田岳)がまさかの持ち逃げ。これをきっかけに母と娘の絆は断ち切られ、るいを置いて安子がアメリカに旅立つという展開に、SNSは大炎上。しかし、この残酷すぎる展開にこそ、脚本を手掛ける藤本の凄みを感じる。

「’16年に藤本は、近松門左衛門の人形浄瑠璃『曽根崎心中』の誕生秘話を人情喜劇の要素を交えて描いた『ちかえもん』(NHK)で、『向田邦子賞』を受賞。この作品の中で豪商の“あほボン”こと徳兵衛(小池徹平)は、親友に金を使い込まれたことが引き金となり、訳ありの遊女・お初(早見あかり)と心中に追い込まれていきます。

安子とるい親子も兄・算太の持ち逃げから端を発して娘の誤解を生み、母娘の縁が切れてしまう。この場面は『曽根崎心中』へのオマージュではないかと指摘する声もあります」(制作会社プロデューサー)

人間には“魔が差す”瞬間がある。娘のるいのために生きると決め、どんな貧しさにも耐えてきた安子が、るいを置いて日本を去る日が来ようとは誰が想像できただろうか。人間の心の闇は哀しいほど深い。

母に捨てられたるいは、母との思い出を心の奥底に閉じ込めたまま、すべてをリセットするために18歳で大阪に出る。しかしオダギリジョー演じるトランペッター・ジョーと出会うことで、母との確かな記憶が蘇る。鮮やかな伏線回収の連続は、鳥肌ものだった。

「戦前『ディッパーマウス・ブルース』で安子と稔が逢瀬を重ね、そこでサッチモ(ルイ・アームストロング)の『オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート』を繰り返し聞いていたこと。稔が生まれてくる娘に”るい”と名付けていたこと。

戦後再開したその店に、安子はるいを連れていき、サッチモのその曲を聴かせていたこと。さらに戦災孤児のジョー(錠一郎)は、その店のマスター・定一(世良公則)に拾われ育てられていたことなどが、るいとジョーのさりげない会話の中でフラッシュバックしていく。るいが心の奥底に封じ込めていた辛くやるせない思いがいつしか甘美な思い出に塗り替えられていく手法は、鮮やかとしか言いようがありません」(制作会社ディレクター)

朝ドラ『ちりとてちん』では、ヒロイン喜代美だけでなく親子三代の進むべき道を落語の演目『愛宕山』が示してくれたように、『カムカムエヴリバディ』では、’30年に生まれた『オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート』が三世代100年のファミリーヒストリーの架け橋となっている。

「この曲が生まれたのは、大恐慌時代真っ只中のアメリカ。希望を失った多くのアメリカ、いや全世界の人たちに勇気を与えました。そのわずか4年後にサッチモも、この曲をレコーディング。

当時は人種差別も激しく、そんな中、サッチモがどんな思いを込めてこの歌を歌っていたのか。そうしたサッチモへのリスペクトを込めて、『カムカム』の主題歌『アルデバラン』の冒頭で『君と私は仲良くなれるかな この世界が終わるその前に』と歌われているところも、興味深いですね」(前出・制作会社プロデューサー)

聴くものの心を捉えて離さない『オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート』。その中で歌われる

「あなたと二人で日向の道を歩いていきたい」

といった思いが、るいの娘・ひなたの中でどんな物語を紡いでいくのか。藤本有紀が手掛けるカタルシスに、今しばらく酔っていたいのは、私だけではあるまい――。

  • 取材・文島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

  • 写真ロイター/アフロ

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