暴行で逮捕 「フィジカルモンスター」マフィの復帰が意味すること | FRIDAYデジタル

暴行で逮捕 「フィジカルモンスター」マフィの復帰が意味すること

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2018年6月ジャパンのナンバー8としてイタリア戦に出場したアマナキ・レレィ・マフィ
2018年6月ジャパンのナンバー8としてイタリア戦に出場したアマナキ・レレィ・マフィ

NTTコミュニケーションズラグビー部(NTTコム)の内山浩文ゼネラルマネージャーが馴染みの記者数名に電話をしたのは、2018年11月22日。所属する日本代表選手の公式戦復帰を、直接報告するためだった。

ちょうど国内最高峰トップリーグのホームページでは、2日後におこなわれる「カップ プール戦 第3節 プールA」の「サントリー対NTTコム」のメンバーが発表されていた。

『NTTコム』のラインアップの上から8番目には、「アマナキ・レレイ・マフィ」とあった。

内山は今度の経緯を伝えながら「ご迷惑をおかけしました」と改めて謝罪する。これまで記者と多くの情報を共有してきた経緯を踏まえ、「ネガティブに書かないでね、という、お願いです」と冗談めかして念押し。一流企業で磨いたリスク管理への意識と、生まれつきかもしれぬ対人スキルがにじんだ。

クラブの公式サイトには、マフィ本人の声明文が掲載されていた。夏場に起きた、暴力事件についてだった。

<私個人の事情により、チームの活動に参加できない事態を招いたこと、その結果、さまざまな関係者のみなさま、そして応援して下さっているファンのみなさまに多大なるご迷惑をおかけしましたことを、心からお詫び申し上げます>

速さと強さを兼備する通称「フィジカルモンスター」が逮捕されたのは、7月14日のこと。

名門、レベルズの一員として、スーパーラグビーに参加中だった。遠征先のニュージーランド、ダニーデンで親族と食事中、一緒にいた同僚選手のロペティ・ティマニと口論。ヒートアップの末に怪我をさせ、逮捕された。

事件の発覚を受け、日本ラグビー協会の坂本典幸専務理事は「今回はオーストラリア協会所属のチームの活動期間中に起きたこと」「憶測ではものは言えない」と語る。司法判断、レベルズのあるオーストラリア協会の裁定、さらには国内でマフィを預かるNTTコムの報告を受けてからではないと、明確な対応はできないとした。

NTTコムは、保釈されて帰国したマフィの活動を自粛させた。一方で複数回の面談により本人の反省ぶりに触れ、8月23日から千葉県浦安市内にあるクラブの練習施設を使わせてきた。さらに、10月にはチーム練習への参加も認めた。

一方で肝心の司法判断は、なかなか下されない。弁護士を介しておこなわれる刑事手続きに、想定以上の時間がかかっていた。当初は結論が出るまでマフィを謹慎させるつもりだった内山は、部内で控え選手へ檄を飛ばすマフィに触れるなか、考えを柔軟にしてゆく。

「会社としても、プレッシャーのかかるゲームのなかでメンタルマネージメントする機会を与えた方がいいのではないか」

やや能動的とも見られる日本協会とも連絡を取り合いつつ、「司法判断が下りてから改めて判断(処分)を」と公式戦復帰を認めたのだった。

24日、大阪のキンチョウスタジアム。キックオフから試合終了後まで、スタンドからは「マフィ!」の声援がこだまする。チームはレギュラーシーズン2連覇中のサントリーに26-33と惜敗も、事前の練習試合出場などもなかったマフィは豪快な突破とタックルを連発。フル出場で存在感を発揮した。

「きょうもワールドクラスの選手だと証明してくれました」

ロブ・ペニーヘッドコーチは太鼓判を押し、普段からマフィと親交の深い金正奎(きんしょうけい)キャプテンはこう続けた。

「彼なりにしっかり、いつでもいけるような準備はしていました。チームのために何でも自分からやろうという姿勢も示していたので、非常に助かりました」

試合後にマフィが取材へ応じたのは、スタンド下のロッカールームを出たところだった。スタンドでのファンサービスとスーツへの着替えを済ませると、内山ら関係者に付き添われ、約3分の質疑に応じる。2度、「すみませんでした」と言った。

記者団の1人から「子どもたちからの歓声が大きかった」と聞くと、「すごく嬉しいですね。皆、心配してくれて。すみません」と応じた。

今回の公式戦出場解禁は、トップリーグの本丸である順位決定戦開始の約1週間前というタイミングだった。そのためNTTコム以外の他の15チームの関係者からは、賛否の声が飛ぶ。

もっとも、この日対戦したサントリーの沢木敬介監督は「個人的な意見ですけど、ゲームには出て欲しいな、と思います」と話す。サントリーとNTTコムが順位決定戦の1回戦を勝ち抜いた場合は、12月8日の準決勝で激突する。2015年まで日本代表コーチングディレクターとしてマフィに接した沢木は、競技活動にグラウンド外の事情を絡めないことで知られる。

サンウルブズの渡瀬裕司CEOは「再挑戦の機会は与えないと」という。スーパーラグビーに挑むサンウルブズは、日本代表強化を支えるという性質のチームだ。その中で、2019年シーズンにはマフィとの契約も視野に入れている。渡瀬は実際に契約するか否かと無関係な話として、過ちを犯した人間にもチャンスを与えるべきという考えを示した。

内山がマフィを初めて見たのは、クラブの採用をしていた2012年5月だった。関西大学Bリーグの花園大にいたマフィはこの日、他の強豪大による試合の前座マッチで大暴れ。内山はすぐに本人へアプローチし、当時は千葉県市川市にあったグラウンドでの練習に参加させた。事実上の入部テスト合格を通知し、受け入れ後も要所で相談に応じた。

本人が代表合宿に初めて加わった2014年秋には、「マフィ、大丈夫か」とメールを送信。返信は「大丈夫」だったが、直接顔を合わせれば「俺、やっぱりジャパン辞める」とこぼされた。話を聞けば、他の選手と仲良くなるのに時間がかかっているのだとわかった。「プレーすれば、皆お前が必要だとわかるよ」と説得し、2015年9月、ワールドカップに出場するマフィを開催国イングランドで応援した。

ワールドカップの日本大会開幕まで、1年を切った。恐るべき身体能力を誇る28歳のマフィは、早期の代表復帰と本番での大暴れが期待される。

「皆に心配をおかけして、本当にすみません。これからラグビーを頑張ります」

2児の父でもあるマフィはいま、多くの視線、期待、愛情を背負っている。

 

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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