初潜入!! ガン撲滅の最終兵器「リキッドバイオプシー」に迫る | FRIDAYデジタル

初潜入!! ガン撲滅の最終兵器「リキッドバイオプシー」に迫る

関係者以外、絶対立ち入り禁止のラボに初めてカメラが入った!

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CPMのラボには「次世代シーケンサー」がずらりと並ぶ部屋も。施設内では最先端の検査が行われている
CPMのラボには「次世代シーケンサー」がずらりと並ぶ部屋も。施設内では最先端の検査が行われている

「がんの治療は、まさに日進月歩です。いま、ゲノムという人の遺伝子(DNA)解析が目覚ましい進化を遂げている。それによって、患者さん自身のがん細胞の遺伝子情報を、がん診断や新しい免疫療法に活(い)かすことができるようになってきました。現在、世界中で研究開発が進んでいるのが、患者さんの血液からがんを見つけ出す『リキッドバイオプシー』という検査方法です」

こう語るのは、「がん研究会」がんプレシジョン医療研究センター所長・中村祐輔医師(65)だ。

中村医師が言う「リキッドバイオプシー」とは、患者の血液や尿、唾液からがんを発見するという最先端の検査方法。この検査を用いれば、血液を採るだけでがんの精密な検査ができるのだ。

採血だけでがんが分かる

「リキッドバイオプシーは患者さんにとって、身体的な負担が圧倒的に小さいのが特徴。さらに、X線やCT画像に写る前の段階でもがんの兆候をキャッチできるという可能性を秘めた画期的な方法です。現在はまだ研究段階ですし、臓器によってがんの検出率に差はあります。それでも、早期発見が難しいと言われてきた卵巣がんや肝臓がんの検出率は、すでにほぼ100%と報告されている。他のがんでも、60〜80%の検出率まで精度が上がっています。そのため、この手法が発展すれば手術可能な超早期にがんを発見できるのではないかと、世界中で注目が集まり、実用化競争が始まっています」(中村医師)

今回、本誌はそのリキッドバイオプシーの遺伝子解析や研究開発が実際に行われている最先端のラボ・CPM(キャンサー・プレシジョン・メディシン)を密着取材。関係者以外、立ち入り禁止のラボに初めてカメラが入った。

訪れたのは、川崎市内の某所。国から先駆的な取り組みを行う区域に指定された「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」と呼ばれる一角だ。グローバル企業が医薬品や医療機器産業を活性化させ、国際競争力の向上を目指す先進的なエリアに、CPMのラボは置かれている。

ここでは、中村医師が所属するがん研究会をはじめ、いくつかの医療機関や企業とリキッドバイオプシーの共同開発を実施。本誌にて数回にわたり紹介してきた、患者自身のがん細胞の遺伝子変異を利用する免疫療法「オーダーメイドがんワクチン(ネオアンチゲン療法)」を行うために必要な検査も、CPMが一括して請け負っている。

リキッドバイオプシーに限らず、血液からがんを調べる検査方法は、さまざまな医療機関や企業で研究が進んでいる。だが、遺伝子解析そのものは海外の機関に依頼しているところも多い。CPMは、すべての工程を一貫して行っている国内でほぼ唯一の最先端のラボなのだ。

では、そのリキッドバイオプシーとは具体的にどのようなものなのだろうか。CPM代表の藤谷京子氏(52)と取締役・朴在賢研究所長(42)に、ラボの内部を案内してもらった。

「医療機関から届く患者さんの血液サンプルの種類は2つ。常温保存できる容器に血液そのものが入ってくるケースと、血漿成分が冷凍保存されて届くケースに分かれます。血液のまま届いたものは、遠心分離機にかけて2層に分けます。リキッドバイオプシーに用いるのは、上澄みの黄色い液体成分(血漿)のみ。がんになっている場合、ここに微量ながん細胞のカケラが含まれているのです(3枚目写真)。血漿中に漂っているがん細胞のDNAを取り出すことが、リキッドバイオプシーの第一歩になります」(藤谷氏)

セキュリティ管理された白い扉の奥で、血液やがん組織などを用いた遺伝子解析が行われている
セキュリティ管理された白い扉の奥で、血液やがん組織などを用いた遺伝子解析が行われている
医療機関から届いた血液サンプル。上澄みの部分がリキッドバイオプシーの検査に用いられる
医療機関から届いた血液サンプル。上澄みの部分がリキッドバイオプシーの検査に用いられる
1 検査する血液サンプルは、血漿成分のみが冷凍保存されて届くケースもある
1 検査する血液サンプルは、血漿成分のみが冷凍保存されて届くケースもある
2 検査容器に1と試薬を入れ、タンパク質を分解するため30分ほど振動器にかける
2 検査容器に1と試薬を入れ、タンパク質を分解するため30分ほど振動器にかける
3 抽出機にかけ、がん細胞から血漿にわずかに漏れ出したDNAを取り出す
3 抽出機にかけ、がん細胞から血漿にわずかに漏れ出したDNAを取り出す
4 抽出したDNAの品質をチェック。遺伝子解析に必要な量を満たしているかも確認
4 抽出したDNAの品質をチェック。遺伝子解析に必要な量を満たしているかも確認
5 蛍光試薬やレーザーを用いて4に正常細胞のDNAが交じっていないかチェック
5 蛍光試薬やレーザーを用いて4に正常細胞のDNAが交じっていないかチェック
6 半導体チップに5のDNAを加え、「次世代シーケンサー」にかけて解析していく
6 半導体チップに5のDNAを加え、「次世代シーケンサー」にかけて解析していく

超エキスパート集団の検査

がん細胞は、正常細胞と同じように次々と細胞が生まれては死ぬという新陳代謝を繰り返し、その残骸が血液中に流れていく。リキッドバイオプシーは、その血液内にわずかに混入する「壊れたがん細胞」のDNAを検査する。それによってがん患者の遺伝子変異を正確に解析し、診断や治療に活かそうという、高精度の検査なのだ。

当然のことながら、扱うDNAは非常に微量なため、リキッドバイオプシーの検査工程は非常に細かくなる。わずかな量のがん細胞のDNAを抽出機にかける時間や温度設定も細かく定められており、ラボのスタッフは、ひとつの工程も外すことなく順番通りにチェックを行っていく。

そんな高精度な検査だけに、スタッフは皆、エキスパート揃いだ。ラボには分子生物学のバックグラウンドを持つ研究員と臨床検査技師、博士号を持つ医師が常駐して検査に関わっている。

リキッドバイオプシーの検査では、解析に必要な量の高濃度のDNAが採取できているかなど、いくつもの確認事項がある。複数の試薬や磁気、レーザーによる蛍光検出などを利用することで、徹底的に高精度の検査が行われている。

進化のウラには遺伝子解析が

「遺伝子解析というのは、精密に行わなければ正確な結果を得られません。リキッドバイオプシーが実用化できるようになったのには、遺伝子解析の時間やコストが大幅に抑えられるようになったという背景があります。それでも、一つ一つの工程には手間と時間がかかるものです。遺伝子解析の工程自体は『次世代シーケンサー』という大容量・高速遺伝子解析装置と超高精度なコンピュータが自動的に行ってくれますが、そのための準備はスタッフが徹底しなければなりません」(前出・藤谷氏)

さらにCPMでは、厳密な品質検査をクリアしたDNAの数を約100万倍にまで増やし、読み込みやすい状態に調えるという作業も行っている。

「正確な検査を行うためには、このような手順を踏むことも不可欠なのです。こうした技術が確立したことで、ごく微量な遺伝子しか抽出できない血液であっても、がん検査をすることが可能になりました」(朴氏)

ここで品質、量ともに問題ないと判断されたDNAは半導体チップに流し込まれ、前出の「次世代シーケンサー」にかけられる。そこで正確な遺伝子解析が行われる、というわけだ。

「シーケンサーで解析したら、その結果をもとに、今度は医学博士号を持つ研究者が分析結果を検証し、それが各医療機関から患者さんの元に届けられます。リキッドバイオプシーはそれぞれの場面でプロフェッショナルなスキルが求められるため、どのような工程を経てシーケンサーにかけているかによっても検出結果にエラーが出てしまうものでもあるのです」(前出・朴氏)

冒頭でも触れたように、CPMではすでに名だたる医療機関との臨床研究が進められている。中村医師の所属するがん研究会とは、固形がん(血液がん以外の、臓器や組織などで塊をつくるがん)の診断を目的とした技術と改良、さらに新規技術の共同研究を継続中。全国規模で複数の病院を持つ『医療法人イムスグループ』とは、胃がんと大腸がんの術後再発の早期発見を目的にした共同研究を行っている。さらに、人間ドックや検診に力を入れている『四谷メディカルキューブ』とは、同じくがんの早期発見を目的とした共同研究をスタートさせた。

がん治療が劇的に変わる

中村医師は、今後のリキッドバイオプシーの展望について、「患者さんの協力を得ながら精度を高めていき、5年以内には保険適用の検査としての確立を目指したい」と語っている。これが実現すれば、この方法でがん検診を受ける人が増え、手術可能な早期でがんが見つかる割合が増す。その結果、治癒率が改善されるものと期待される。つまり、これから数年で、がん治療は大きな変貌を遂げる可能性があるのだ。

さらに中村医師は、リキッドバイオプシーの効用は、がんの早期発見にとどまらないと解説する。

「リキッドバイオプシーを用いることで、手術をした後に、患者さんの体内にがん細胞が残っていないかどうかを調べることもできます。技術的な課題は残されているが、この検査で陽性の患者さんだけが抗がん剤療法を受けると、無駄に副作用で苦しむ人を減らすことができる。本当に必要な患者さんだけが、その治療を受けるようにすることが重要だと思います。それに加え、リキッドバイオプシーで治療薬を選ぶことも可能ですし、治療薬の効果を画像診断で調べるよりも早い時点で判定することにもつながります。再発の定期チェックにも活用でき、患者さんのQOL(生活の質)を大きく改善してくれる可能性もあるのです」

さまざまな可能性を秘めているリキッドバイオプシーは、まさにがん治療にとって希望の道しるべと言える。がん撲滅の”最終兵器”は、いまこの瞬間にも進化を続けているのだ。

CPMは、がん研究会と共同研究も行う。リキッドバイオプシーで固形がんを診断する技術改良が進んでいる
CPMは、がん研究会と共同研究も行う。リキッドバイオプシーで固形がんを診断する技術改良が進んでいる
がん研究会でリキッドバイオプシーの共同研究を進めるがんプレシジョン医療研究センター所長の中村医師
がん研究会でリキッドバイオプシーの共同研究を進めるがんプレシジョン医療研究センター所長の中村医師
都内にある四谷メディカルキューブ。CPMは、当機関ともリキッドバイオプシーの共同研究を行っている
都内にある四谷メディカルキューブ。CPMは、当機関ともリキッドバイオプシーの共同研究を行っている
  • 取材・構成青木直美(医療ジャーナリスト)撮影濱﨑慎治

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